中山功太・フジモンのパクリ騒動と、明石家さんまに“殺された”あるコンビの記憶

19日放送の『アメトーーク!』(テレビ朝日系)、出演者のフジモンことFUJIWARA・藤本敏史が「逆言葉クイズ」を始めたときに、嫌な予感はしていた。
「何か言葉を言うんで、その対義語を当ててくださいね」
ほかのメンバーが「ああ、出た」というリアクションをしていることからもわかるように、フジモンが数年前から頻繁に使用している言葉遊びネタである。
「熊元プロレス」は「静岡テコンドー」、「クレヨンしんちゃん」は「シャープペンシルかねやん」、「ゴールドマン・サックス」は「ブラウンチン・トランペット」。フジモンの発想力と語彙力に、スタジオは大いに盛り上がっている。だが、共演者の中の少なくとも何人かは気付いていたはずだ、これはフジモンのネタではないと。
伏線はあった。今年4月28日、霜降り明星・粗品がYouTube「粗品Official Channel」の人気企画「1人賛否」の中で、フジモンの「対義語ネタ」に言及していたのである。
フジモンが麒麟・川島明のラジオ『川島明のねごと』(TBSラジオ)に遅刻したことにからめて、粗品はこんなことを言い出したのである。
「あと、あの逆言葉のやつ、やめや。中山功太さんの作品やねんから。自分のやつのように、この間もインスタのストーリーかなんかで募集してたけど、『逆言葉やります!』って、おまえのちゃうであれ。あれ功太さんの発明やから。対義語のネタ、知らんわけないよな? おまえ芸人やねんから」
先輩を「おまえ」呼ばわりすることについての是非は横に置くとして、粗品は明確にフジモンのパクリを糾弾していた。今や芸人界でも随一の影響力を持つ粗品のYouTubeでの発言である。フジモンの耳に入っていたことは想像に難くない。
だが、フジモンは『アメトーーク!』というメジャー番組で、この「逆言葉クイズ」を披露することになる。
中山功太としても、我慢の限界だったということだろう。『R-1ぐらんぷり2009』王者としてのプライドもあるに違いないし、親交のある粗品の発言に責任を感じていたのかもしれない。
『アメトーーク!』放送の2日後、功太は自らのYouTubeでフジモンのパクリを告発する。
「中山功太の『対義語』というネタが長きに渡りパクられてる件について」
20年前から「対義語」のネタをやっていると主張する功太。少なくともフジモンとの舞台や営業での共演時に300回前後はこのネタを披露しているという。
「だから、ちょっと知らんというのは厳しいかもわかんないです」
中山功太のフリップネタ「対義語」は、YouTubeの吉本興業チャンネルが公式で配信している映像が残っている。公開は12年前の2013年だ。
「対義語というものがございましてですね」
その一言で、もう観客から笑いが起こっている。
「もうやりすぎて笑われてますけどね」
それは「対義語」=「中山功太」というイメージが12年前に、すでにお笑いファンの間で定着していた証拠である。
「おしりかじり虫」が「あたまねぶり人」、「タンスにゴン」が「押し入れにカズ」、「新郎新婦ケーキ入刀です!」が「熟年夫婦パティシエを刺しました!」、「ドタマかち割ったろか!」が「CTスキャンで悪い所無いか調べたろか!」。明らかにフジモンの「逆言葉クイズ」と同じフォーマットが12年前に功太によって披露されていた。
22日になって功太は自らのXアカウントで、フジモン本人から電話謝罪を受けたことを明かした。
「ご本人に対する誹謗中傷は絶対におやめ下さい。全部僕へどうぞ」
それが功太からのメッセージだった。
フジモンのパクリを指弾するYouTubeで、功太は「芸人が芸人のネタを盗むなんて、殺人じゃないですか」と語った。
その言葉を聞いて、20数年前に解散したあるお笑いコンビのことを思い出した。
20年前、彼らはひっそりと姿を消した
当時、「ボキャブラブーム」の余波が残っていた東京のライブシーンは大いに賑わっていた。そんな中で頭角を現してきたのが、そのコンビだった。
すでに解散して久しいので具体的な記述は避けるが、そのコンビはコントのオチに必ずあるフレーズを使っていた。決まりフレーズと決まりのポーズ、観客は待ってましたとばかりに爆笑と拍手を送った。深夜のネタ番組にも顔を出すようになり、誰が見ても将来有望なコンビだった。
そんなころ、あの明石家さんまがそのコンビの決まりフレーズをテレビで多用しだしたことがあった。オチではなく、所かまわずさんまはそのフレーズを乱発し、その際のポーズもどこかコンビのポーズと似たものだった。日本中で、そのフレーズは「さんまの新しいギャグ」として定着しようとしていた。
「さんまが、おまえらのネタをパクッてるぞ」
シーンが騒然となった。コンビの片方は「光栄じゃん」「御殿に呼ばれるかも」なんて楽観的に構えていたが、もう片方は混乱の極みにいたように見えた。はたから見ても、荒れていることは明らかだった。
いずれにしろ、そのフレーズはライブでウケなくなり、コンビが解散に至るまでそう長くはかからなかった。
後に、さんまはそのコンビの存在を知らず、フレーズは別の番組での素人の発言を気に入ったものだったことが明らかになった。
さんまはパクっていなかったし、単なる偶然である。だがそれは明らかに、そのコンビにとっての死に至る事故だった。
お笑いは戦場であって、人気は凶器になる。そんなことを思い出した今回の騒動だった。
(文=新越谷ノリヲ)