『あんぱん』第66回 無鉄砲なハチキン新米記者が大暴れ! という期待はあっさり裏切られる

NHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』第14週、「幸福よ、どこにいる」が始まりました。いろいろあって高知新報に記者として就職したのぶさん(今田美桜)、ここからは史実ベースですし、ややこしい人物はだいたい死にましたし、先輩記者の東海林(津田健次郎)はナイスキャラだし、もしかしたら面白くなるかもしれないと先週末に書きましたが、無事、全然おもしろくなかったね。
思えば先週、蘭子(河合優実)たちが「お姉ちゃんが新聞記者なんて大丈夫かしら」みたいなことを言っていて、それはのぶがハチキンだから猪突猛進で暴走してしまう、あるいはTPOをわきまえず無暗に正義を振りかざしてしまう、そういうことが起こるのでは? という杞憂のニュアンスだったわけですよね。
河合優実が言うもんだから、確かにそうかもしれない、それは面白そうだねと感じていたんですが、なんてことはない、よく考えたらこの人には新聞記者として振りかざしたい正義もなければ、暴走しようにも記者として成し遂げたいことなど何もない、ただ特技の速記を活かせる仕事として新聞社に入ったわけですから、そら面白くなるわけないわ。モチベがないから衝突も反発もないし、ただ上の言うことを聞くしかない。
そういう状況で新入社員が女性2人を含めて5人いて、のぶという人に記者としての個性があるわけではないから、上側(脚本側)がのぶを特別扱いするしかない。理由もなく特別扱いされる主人公に、共感なんてできるわけない。
あーあ、河合優実に騙されたな。第66回、振り返りましょう。
猫の手とは
上司の東海林はのぶを「猫の手も借りたい状況だから」採用したと言いました。つまり、忙しすぎて必要な仕事まで手が回らない。人手が足りないということです。確かに、のぶが出社したときにはもう編集局はバタバタとみんな忙しそうに仕事をしています。
ところで東海林がのぶと出会ったのは、屋台でしたね。部下の岩清水(倉悠貴)と2人で、真昼間から記憶がなくなるほど飲んだくれていました。東海林も岩清水も私服ではなくスーツでしたね。仕事中だろ、あれ。ヒマじゃん。猫の手も借りたくないじゃん。
その東海林は、さっそくのぶを取材に連れ出します。といっても、社会部の進駐軍への取材の後ろで眺めているだけ。のぶはわかるけど、東海林は何しに行ったんだ?
聞けば、東海林は遊軍記者なのだといいます。自分でネタをつかんで独自に取材をして記事を突っ込む。「デスク、特ダネを持ってきましたぜ」とか言うんだろうね。いかにも、ツダケンの今回のキャラに合致しそうな役割です。猪突猛進で暴走してしまいそうだし、TPOをわきまえず正義を振りかざしたりしそうだ。
ところが、翌日には部下に「1面のネタないがか?」とか言ってる。のぶが書いた記事を却下したり、行数を指定して採用したりしている。明らかに、これは、デスクの仕事だ。そういや面接にも顔を出していたし、自分の責任においてのぶを雇用したりもしていました。
新聞社において、「遊軍記者」と「デスク」は対義語みたいなもんですよ。これまで本当にいろんなことに目をつぶってきたけど、完全フィクションならまだしも史実ベースのパートになってもこんなにいい加減に、主人公の仕事現場をマジメに描く気がないことがありありと伝わってきてしまって、もうゲンナリですわ。
スリルを味わいたかったんですかね
ずいぶん先進的なOJT制度を採用しているらしき高知新報。特に研修や教育もなく、のぶを単独取材に行かせることにしたようです。
闇市に取材に訪れたのぶさん、目の前で子どもが商店からイモを盗んでいきました。戦後半年、まだ高知市内は焼け野原で特に復興している様子も見られませんから、厳しい食糧難が続いているのでしょう。泥棒はよくないことだけれど、生きるためだもんな。そのイモがなかったら、あの子は飢えて死んじゃうんだもんな。
と思ったら、すぐさまイモを返却に来た少年A。TSUTAYAで借りたDVDじゃないんだから、そんな簡単に返すんじゃないよ。
「おっちゃん、困るかな思て」
そうか、よかった、飢えて死にそうな少年なんていなかったんだ。こいつ、単にスリルを味わいたかっただけなんだ。おっちゃんが追ってこないから面白くなくなっちゃったんだ。ゲーム感覚だ。将来はタレントになって『逃走中』とか出たらいいよ。
そんなこんなで2度目の取材で記事を作ったら1面に載っちゃったのぶさん。新人なのに大手柄です。ハイハイ、すごいすごい。
そういえば少年A、大阪が空襲に遭って焼け出されてきたと言ってましたね。次郎ママは子どもが5人いる大阪の長男の家に行ったんだよね。いろんな大阪があるんやね。悲しい色やね。
琴子27歳、恋の季節
同期入社なのに片や単独取材、片やコーヒーを淹れるくらいしか仕事がなさそうな琴子さん(鳴海唯)。のぶさんを赤提灯に誘って、さっそく出来上がっています。
女学校を出てから花嫁修業をしていたという琴子さん。卒業が18歳として、9年前だと昭和12年ですね。まだ戦争も激しくないし、女学校を出たらみんなお嫁に行くってうさ子が言ってたと思うけど、琴子さんの花嫁修行というのは山籠もりとかなのかな。片方の眉毛を剃り落としたりしてたのかな。美人なのにストイックなんだな。
結婚願望を語る琴子さんを前に、のぶさんは「うちはもう結婚はせんと思う」と語ります。
「死んだ主人が教えてくれた速記のおかげで、今の仕事に就くことができたき」
それを言われて、私たちは何を思えばいいわけ? そうかそうだよなぁ、もう結婚する気にならないよなぁとは思えないですよ。なんで思えないかといえば、のぶが高知新報を単なる就職先としか考えてないからですよ。せめて「子どもたちのためになる記事を書きたい」とか「体操についての取材をしたい」とか言ってくれ。つながりをくれよ『あんぱん』よ。
あともうシンプルに、東海林にしろ琴子にしろ酔っ払いが出てこないと話が進まないのが絶望的なんだよな。前半は人を殺すことで展開して、後半は人に酒を飲ませて酩酊させることで展開している。だいたいさ、誰も彼もが好きなだけ酒を飲める世界を描いておいて食糧難も何もないでしょう。明日も頑張ってください。
(文=どらまっ子AKIちゃん)