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北香那インタビュー「今の時代に桐島聡が青春を過ごしていたら、もう少し救えた部分もあったのではないか」

北香那インタビュー「今の時代に桐島聡が青春を過ごしていたら、もう少し救えた部分もあったのではないか」の画像1
北香那(撮影=荻原大志/衣装=Kana/スタイリスト=扇野涼子/ヘアメイク=内藤茉邑)

2024年1月26日、1970年代の連続企業爆破事件で指名手配中の「東アジア反日武装戦線」メンバー、桐島聡容疑者とみられる人物が、末期の胃がんのため、神奈川県内の病院に入院していることが判明、報道の3日後の29日に亡くなり、約半世紀にわたる逃亡生活に幕を下ろした。この謎に満ちた桐島聡の軌跡を映画化した『「桐島です」』で、逃亡中の桐島と相思相愛になる歌手・キーナを演じる北香那に、撮影エピソードを中心に話を聞いた。

<インフォメーション>

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『「桐島です」』 ©北の丸プロダクション


『「桐島です」』
2025年7月4日(金)より新宿武蔵野館ほかにて公開

出演:毎熊克哉
奥野瑛太 北香那
高橋惠子

監督:高橋伴明
脚本:梶原阿貴、高橋伴明 音楽:内田勘太郎 撮影監督:根岸憲一
配給:渋谷プロダクション
2025年/日本/カラー/アメリカンビスタ/5.1ch/日本語/105分
©北の丸プロダクション

1970年代、高度経済成長の裏で社会不安が渦巻く日本。大学生の桐島聡は反日武装戦線の活動に共鳴し、組織と行動を共にする。しかし、一連の連続企業爆破事件で犠牲者を出したことで、深い葛藤に苛まれる。組織は警察当局の捜査によって、壊滅状態に。指名手配された桐島は偽名を使い逃亡、やがて工務店での住み込みの職を得る。ようやく手にした静かな生活の中で、ライブハウスで知り合った歌手キーナの歌「時代おくれ」に心を動かされ、相思相愛となるが……。

公式サイト:https://kirishimadesu.com/
X:https://x.com/Kirishimadesu1

<プロフィール>
北香那(きた・かな)1997年8月23日生まれ、東京都出身。2017年、TVドラマ「バイプレイヤーズ~もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら~」で注目を集める。主な出演作は、映画『なんのちゃんの第二次世界大戦』(21)、『春画先生』(23)、『約束』(24)、『湖の女たち』(24)、『あの人が消えた』(24)、ドラマ『ガンニバル』(22・25)、『インフォーマー』(23・24)、『どうする家康』(23)、『先生さようなら』(24)、『最寄りのユートピア』(24)、『魔物(마물)』(25)など。

公式プロフィール:https://alpha-agency.com/artist/kita/
Instagram:https://www.instagram.com/kitakana._.official/

 

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北香那(撮影=荻原大志/衣装=Kana/スタイリスト=扇野涼子/ヘアメイク=内藤茉邑)

特別なキャラクター付けをしたいとは思わなかった

──桐島聡のことは知っていましたか?

 指名手配のポスターが印象的だったので、当時のお顔と、「桐島です」と名乗った数日後に亡くなったのはニュースで知っていました。ただ正直、桐島聡がどういう人だったのか、どんな時代を生きた人なのかに関しては知りませんでした。

──『「桐島です」』のオファーがあったときは、どんなお気持ちでしたか。

 最初は戸惑いました。まだ桐島さんが亡くなって数ヵ月でしたし、その背景も知らなかったですからね。オファーを受けて、当時のことを調べていく中で、彼らなりの正義があって、そこには彼らなりの青春が存在していた。そういうことを知って、人物像が見えてきたときに、これを映画に落とし込むとどうなるんだろうと興味を持ちました。桐島さんを演じるのは同じ事務所の毎熊(克哉)さんですし、そこに参加させていただけるなら、少しでもお力になれればいいなという気持ちでした。

──脚本を読んで、桐島にどんな印象を持ちましたか。

 桐島さんの人生を美化しすぎることなく描かれている中で、真剣に世界を良くしたいという正義感が垣間見えました。私が深く考えたのは、彼らが現代に生きていたらどうなっていたんだろうということです。今の時代に彼らが青春を過ごしていたら、もう少し救えた部分もあったのかなという気もしましたし、世代間のギャップも感じました。
自分の考え方や思想を軽々しく発信できることには善し悪しもありますが。今はSNSで好きなように発言できますが、「白か黒か」「正しいか正しくないか」の決め合いみたいな議論が目立ちます。また毎日のように誰かが集中的に攻撃されて、炎上騒ぎに発展することが当たり前になっています。誰しもがネットを通じて自我を発信できる中、その先に果たして、より良い世界や、大きな目的はあるのかなと思ったりもします。

──世代間のギャップというと?

 より良い世界は誰もが望んでいることですし、私も望んでいますが、それに対する意志の強さや思いの大きさが、現代に生きている人間としてはあまりピンとこなかった部分があったんです。なぜ正義感から、ここまで大きな事件を起こしてしまったのかは理解できなかったですね。

──北さんが演じた歌手・キーナについては、どう感じましたか。

 桐島さんは「内田」という偽名を使って、工務店で働きます。その頃、気になっている女性がいたという関係者の証言もあるのですが、キーナは実際には実在しないキャラクターです。だからと言って特別なキャラクター付けをしたいとは思わなくて、自分の中の決めごととして、人に言えない過去を背負った桐島さんとは真逆で、明るくて屈託のない人物を想像しながら演じていました。そこに特別なことはなくて、たまたま桐島さんの前に現れた女性が、彼を好きになった。だから毎熊さんと一緒にお芝居をしていく中で、毎熊さんからもらったものを活かして、キーナを演じさせていただきました。

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『「桐島です」』 ©北の丸プロダクション

──毎熊さんからもらったものとは、たとえばどのシーンでしょうか。

 キーナがコードを教えているときに、桐島さんがギターを弾きながら「難しいね」と笑いかけてくるシーンがあって、そこで人間らしさが垣間見えたというか、儚くもあったし、尊くもありました。

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北香那(撮影=荻原大志/衣装=Kana/スタイリスト=扇野涼子/ヘアメイク=内藤茉邑)

河島英五さんの「時代おくれ」に描かれた歌詞の内容に惹かれた

──北さんは何年も前からSNSで弾き語りの動画をあげていますが、いつ頃からギターを始めたんですか?

 高校生のときに軽音部に入っていたのですが、入部したときに「あなたギターね」と言われて、エレキギターを買ったのに、下手すぎてやめさせられたんです(笑)。弾けたコードもCとDとEだけみたいな状態でしたからね。それからはボーカルになったのですが、そのままギターは放置していました。でも大人になってプライベートで北海道旅行に行ったときに、ギター屋さんに入ったら、一目惚れしたギターがあって。セールだし、そのまま買って担いで帰ってきたんです。そこから独学で始めたら意外に弾けたんですよね。そのときに買ったギターを今回の映画でも使っています。

──弾き語り動画では大森靖子さんをカバーすることが多いですが、高校時代はどんな音楽をカバーしていましたか?

 supercellを始め、ボーカロイドの楽曲をカバーしていました。大森靖子さんを聴き始めたのは高校卒業後で、ずっと大好きです。

──映画で桐島とキーナが出会うのはライブハウスで、江古田で実際に営業しているライブハウスを使っています。

 昔からあるライブハウスで、とても雰囲気のある場所でした。どこか『「桐島です」』で描かれている時代と重なり合うような空間で、こういう場所でお酒を飲みながら音楽を聴くことに憧れもありました。役とはいえ、かっこいいライブハウスで歌えたのはうれしかったです。

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『「桐島です」』 ©北の丸プロダクション

──劇中で河島英五の「時代おくれ」を歌いますが、それまで聴いたことはありましたか?

 正直、初めて聴いた曲でした。曲も良いですが、歌詞の内容に惹かれました。時代遅れで不器用だけど、かっこいい男性像を歌う人って今は少ないなと思って。「こういう自分でありたい」と心に決めているような歌詞が響きましたし、その楽曲を『「桐島です」』で使わせていただくことに大きな意味を感じました。

──弾き語りの練習期間はどれぐらいあったんですか?

 1ヵ月ぐらいです。その間に何度かレッスンも受けました。普段、楽譜を見ながら弾き語りをするのですが、今回はギターコードを見ちゃいけなかったので、それをカメラの前で弾くとなると緊張してしまって。

──実際に本番でも緊張しましたか?

 最初は緊張で手が震えるし、アルペジオも失敗してしまったのですが、そのときに(高橋)伴明監督が察してくれたのか、「今間違ったなと思ったら自分で止めていいし、何度でもやっていいから、そんなに緊張しないで気楽にやってね」と言ってくださって。そのおかげで「上手く弾かなきゃいけない」という概念から、キーナを演じようという気持ちに切り替えられたので感謝しています。

──本編でも、その場で歌ったものが使われているんですか?

 そのままです。歌もギターもマイクをつけて、「このまま使うから」ということだったので、余計にプレッシャーだったんですよね。毎熊さんとは本番で初めて合わせたんですが、歌がお上手なので音程を引っ張ってもらって歌いやすかったですし、私も大好きなシーンです。

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北香那(撮影=荻原大志/衣装=Kana/スタイリスト=扇野涼子/ヘアメイク=内藤茉邑)

毎熊克哉さんの一つひとつの表情や動作から、桐島聡の人生が見えた

──毎熊さんとは今回が初共演ですか?

 事務所が同じなので面識はありましたが、共演は初めてでした。いつか一緒にお芝居させていただけたらと思っていたので、すごくうれしかったです。ギターのレッスンも一緒に受けていたのですが、私が経験者なのにあたふたしている中で、初心者の毎熊さんがギターを弾きながら「難しいなあ」とか言っているのですが淡々とやられているんですよ。私からすると「もうそこまでできているの!?」みたいな。私が苦戦しているパートでも、絶対に弱音を吐かなくて。その姿を見て、ストイックな方だなと思いました。

──実際に共演してみて、どんな印象でしたか?

 色々な作品で毎熊さんを拝見していますが、全く別の人物に見えるんですよね。桐島さんが逃走中、内田さんとして接していた人たちに愛された理由は想像するしかなかったのですが、毎熊さんが演じることで納得できたというか。決して美化してお芝居している訳ではないですが、一つひとつの表情や動作から、桐島さんの人生が見えたんですよね。だから桐島聡という人物としてではなく、キーナが出会ったのは内田さんだという意識の中で演じさせていただけました。

──高橋伴明監督の演出はいかがでしたか。

 ちょっと迷ったときに「ここはどういう気持ちですか?」とご相談したら、自分の意見を押し付けるのではなく、「僕はこう思うんだけどどう思う?」と寄り添ってくださるんです。一緒に考えることで見えてくるものもあって、そのやり取りがセッションみたいで楽しかったです。

──完成した映画をご覧になった感想はいかがでしたか?

 長い長い逃亡生活の中、桐島聡がどういう人で、なぜこうなったかということを、美化することなく105分の映画の中にしっかりと落とし込んでいることに感動しました。そこには自分たちなりの青春が確かに存在していて、そこが個人的には何とも憎めず、ちょっと悲しくもありました。

(取材・文=猪口貴裕)

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猪口貴裕

出版社勤務を経て、フリーの編集・ライターに。雑誌・WEB媒体で、映画・ドラマ・音楽・声優・お笑いなどのインタビュー記事を中心に執筆。芸能・エンタメ系のサイトやアイドル誌の編集にも携わる。

最終更新:2025/07/04 09:00