【吉田潮&木俣冬】2025上半期ドラマを総括!(後編)、そんな生き方もあっていい 専業主婦、複数恋愛…さまざまな価値観を訴える作品群

今期は夫婦のドロドロや狂気的な愛欲ドラマが注目されがちだったが、幅広く支持を得たのは“穏やかさ”や、いろいろな生き方があってもいいと背中を押してくれるようなドラマ。2025年の4月期ドラマで今期面白かった・心に残ったドラマを吉田潮氏と木俣冬氏、2人のドラマ評論家にそれぞれ5本選出してもらった。(前後編の後編)
疲れた現代人の心に刺さる“癒やし”ドラマ
【もどかしい恋がムズキュン『波うららかに めおと日和』(フジテレビ系)】
昭和11年を舞台に、江端なつ美(芳根京子)と帝国海軍に勤める江端瀧昌(本田響矢)が交際ゼロ日婚からスタートする、歯がゆくも愛らしい“新婚夫婦の甘酸っぱい時間”を丁寧に描いたハートフル・昭和新婚ラブコメ。
木俣冬(以下、木俣) 昔を舞台にしたドラマを現代的な価値観や演技に寄せて現代の若者にアピールすることが少なくない昨今、あえて、昔はこうだったのではないかという奥ゆかしさに徹底したら、逆に新鮮に。俳優たちも等身大の人物を演じるより、今どきないでしょうというような、極端な言動を演じることが挑戦的でおもしろいのではないでしょうか。ただ、後半、これでもかと清純さや奥手を打ち出してきて、ちょっとお腹いっぱいになりました。
【究極の癒やし系ドラマ『しあわせは食べて寝て待て』(NHK総合)】
麦巻さとこ(桜井ユキ)は週4日のパートで暮らす38歳、独身。「一生つきあわなくてはならない」病気にかかったことから生活が一変。 会社を辞め、新しい住まい探しを余儀なくされる。見つけたのは築45年、 家賃5万円の団地。隣に住む大家さんと、訳あり料理番を通じて、旬の食材を取り入れた食事で体調を整える【薬膳】と出会う。地味だけど身体においしそうな薬膳ご飯とたおやかな団地の人間関係を通して、心身を取り戻していくなか、身近にあった自分次第のしあわせに気づいていく。
木俣 最近のドラマは極端にとんでもないことが起こるか、なにも起こらない凪のようなものか、2極化しています。これは何も起こらないほっこり癒やしドラマの極地。無理せず自分のペースで生活しようという提案はネガティブ・ケイパビリティにも言及し、日々の喧騒に疲れた視聴者に大受け。団地ブームも手伝って、団地暮らしで節約、やさしい人間関係の構築への憧れが募りました。薬膳への興味も湧きました。
【一周回って新しい?『続・続・最後から二番目の恋』(フジテレビ系)】
小泉今日子&中井貴一のダブル主演で、古都・鎌倉を舞台に、テレビ局プロデューサーの女性と、鎌倉市役所で働く男性公務員の恋を描いたロマンチック&ホームコメディ。笑えて泣けて、ちょっとだけ恋愛ありの主人公たちの日常が描かれた。人気コンテンツの3作目とあって注目度も高く、TVerのお気に入り登録数は6月30日時点で121万と4月期ドラマのトップ、見逃し配信は累計3000万再生突破。
木俣 2010年代に放送された人気シリーズの第3作で、元祖何も起こらないドラマ。ただ時代が変わり、テレビ局のプロデューサーという花形職業だった主人公が還暦間近で、職場での居場所がなくなりかけている姿を描きました。
テレビの時代が終わりかけているいまの雰囲気も手伝って、主人公が時代の変化に直面しているところはリアルでした。それでも主人公はバブル世代で貯金も退職金もたぶん潤沢で、どこまでも個人の生きがいを追求し続けられて、社会的な切実さはやや希薄。そこが若い世代にはピンとこないようで、むしろファンタジーとしては良作という声も聞きます。
価値観が違う人たちと「繋がる」ことの大切さ
【家事という終わりなき仕事『対岸の家事~これが、私の生きる道!~』(TBS系)】
主人公は2歳の娘の育児と家事に奮闘する専業主婦(多部未華子)。働くママや育休中のエリート官僚パパなど、価値観がまるで違う「対岸にいる人たち」と、それぞれが“家事”を通じて繋がり、動き出す人生を描く。
吉田 多部未華子が自ら選んだ専業主婦の役、江口のりこがバリキャリから産休育休とって、ほぼワンオペのワーママ役、ディーン・フジオカが育休中のエリート厚労省官僚役。立場の違う3人が、手に手を取り合って……というほどの連帯感はないけれど、お互いの境遇をちゃんと理解し合って、認める構図がよかったなと思います。
ま、現実はそう簡単には相互理解をえられず、メコン河を渡れるはずもないのだけど、それぞれの苦悩を3人の役者が丁寧に演じきった印象です。
うつ病一歩手前、育児ノイローゼ一歩手前など、それぞれの“ゲームオーバー”のシーンがシビアで、自分もぼんやりと何かを眺めているようで何も見ていない人を町や公園で見かけたら、想像力を働かせよう、と思いました。育児も介護も家族問題でも、他人には到底わからない闇があるんだよな。『みんな違ってみんな大変』は心に留め置きたいメッセージです。
【いろんな恋愛の形を提示する『三人夫婦』(TBS系)、『彼女がそれも愛と呼ぶなら』(読売テレビ)】
いずれも「ポリアモリー」=複数恋愛がテーマのドラマ。吉田氏は「ひとつの傾向かなとも思うし、令和は“対の幻想と呪縛”よりも“複数恋愛”のほうが『合理的』と考える人が増えてきたのかもしれない」として、この2作に注目する。
『三人夫婦』は、正解のない多様性社会を生きる人々に向けた、男性2人、女性1人という新たな夫婦の形を描く物語。主人公の三津田拓三(浅香航大)は、元カノ・矢野口美愛(朝倉あき)とその彼氏・里村新平(鈴木大河)から、“三人夫婦”にならないかと提案される。セックスのルールや嫉妬心、親への説明など問題だらけのなかで、幸せのあり方を模索するホームラブコメディ。
『彼女がそれを~』は、ポリアモリストのイラストレーター・水野伊麻(栗山千明)が主人公。高校生の娘を育てるシングルマザーで、2人の恋人と同居する4人暮らし。そこに大学院生の小森氷雨(伊藤健太郎)が加入。ポリアモリーに慣れていない氷雨は徐々に「対」ではない愛し方と寛容さを学んでいく……。“普通”を揺るがす、ヒューマンラブストーリー。
吉田 ポリアモリーは社会的には『ただの淫乱』扱いが大きく、まだまだ“対”を押し付けてくるわけで……。そのへんのハレーションをちゃんと描きながらも、アナザーストーリーもありました。栗山の同級生で、同じ高校生の娘が一人いるパート主婦の篠木絹香(徳永えり)の夫・真人(夙川アトム)はモラハラ、そのうえ長年不倫。一方の絹香は街で見かけた、はく製店主の針生(淵上泰史)と恋に落ちてしまうという。こっちのほうがドラマ的には盛り上がるんだろうなとも思いつつ、それぞれの『愛の結末』に向かう展開は地味だったけれど、意外と最後まで観ちゃいました。
正直、“男女2人”のユニットが難しい時代になったと思うので、何か違う家族制度が作られればいいのにな、と思うんですよね。私たち家族になります、と届け出を複数人で出すとか。そうすれば家庭内マンパワー不足の解消につながるし、責任やタスクの分散ができる。なんてことをつらつらと考えさせてくれた2作品でした。
生き方を考えさせられる作品が目立つのは、多様性がうたわれながらもまだまだ“古い価値観”に縛られがちな社会へのメッセージなのかも。
(取材・文=サイゾーオンライン編集部)