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お笑い賞レースは「知性の戦場」に? 鬼越トマホークも危惧する「大学お笑い」全盛時代の是非

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イメージ画像(写真:Getty Imagesより)

 ここ数年、お笑い賞レースなどで「大学お笑い」出身者が存在感を強めている。これに対して、鬼越トマホークが「高卒の子が養成所で潰されてしまう」などと危機感を訴えたことが話題になっている。

 大学お笑い出身者はなぜ賞レースで強いのか。なぜ高卒などの大卒以外の芸人よりも優位に立てるのか。お笑い事情に詳しい芸能ライターの田辺ユウキ氏が解説する。

鬼越トマホークが「大学お笑い」隆盛で危惧すること

 鬼越トマホークは、テレビ朝日系『しくじり先生 俺みたいになるな!!』で6月27日と7月4日の2回にわたり、今お笑い界で起こっている「大学お笑い問題」について熱弁。「東京NSC(吉本総合芸能学院)が大学お笑いに乗っ取られている!」といい、大学お笑い出身者以外は肩身が狭くなっているという。

 「大学お笑い」とは、大学のお笑いサークルなどのこと。『M-1グランプリ』連覇を達成した令和ロマン(髙比良くるま、松井ケムリ)は慶應義塾大学のお笑いサークル出身、今年の『R-1グランプリ』で優勝した友田オレは早稲田大学のお笑いサークル出身と、とくに賞レースで高学歴の大学お笑い出身者の活躍が目立っている。

 鬼越トマホークによると、東京NSC卒業生にアンケートを取ったところ、大学お笑い出身者以外から「集客の時に大学お笑いの人たちみたいにお笑いファンがついていないから大変」といった意見が上がったという。大学お笑い出身者は卒業後に養成所に入るパターンが多いが、サークル時代に一定のファンを獲得しているため、まっさらな状態で入学した高卒などの生徒は不利だと感じることがあるようだ。

 大学お笑い時代に賞レースに出場するケースも多く、そうなるとキャリアという点で高卒などの生徒とは大きな差が生まれてしまう。

 これに対して、鬼越トマホークの良ちゃんは「生のお客さんに面白いネタか判別してもらう在学生のライブなのに(大学お笑いの)ファンが来ちゃう。その芸人でしか笑わない」と問題点を指摘。金ちゃんも「(大学お笑い出身者が強すぎて)高卒お笑いはそこでのし上がれない」「これから伸びるかもしれない高卒の子が、そこで淘汰されていっちゃう」などと持論を展開した。

「大学お笑い」出身者が賞レースで強い理由

 なぜ近年のお笑い界、とくに賞レースで大学お笑い出身者は強いのか。その優位性の理由について、芸能ライターの田辺ユウキ氏はこう分析する。

「大学お笑いについて取材を行ったことがあります。大学時代にお笑いサークルに在籍し、お笑いライブに出演していた方は、『お笑いは受験勉強に似ている』と言っていました。まずネタを考えて、ライブで披露し、そこで反応がイマイチだったところは修正する。それを繰り返す作業は『問題解決能力が求められる』といい、受験勉強に近いものがあるとおっしゃっていました」

 大学時代にキャリアを重ねられるという優位性に加え、高学歴であるがゆえに「受験勉強のようにネタを磨いていくことができる」という点が、賞レース全盛のお笑い界にぴたりとハマったようだ。田辺氏が続ける。

「たとえば『有吉の壁』(日本テレビ系)などで披露されるネタは、即興性からくる『粗さ』もおもしろさにつながります。賞レースが流行する以前は、こういったテレビ番組に出ることが芸人たちの目指すべきところでした。体を張ったり、無茶ぶりにもおもしろく対応したり、そういう能力が求められていました。つまり、小学校や中学校なんかで『バカなことをやる人気者』がお笑い芸人に向いていたんですよね。

 でも現在、若手芸人の目指すべきものは賞レースになった。数分間の制限時間の中に笑える箇所を詰め込み、ワードチョイスを幅広くし、演技も磨き、そしてミスをしない。つまり競技性が高まってきたのです。ネタの発想力とワードチョイスはやはり知識がものを言います。勉強的な頭の良さが関係してくるところも大きい。ですから、令和ロマン、真空ジェシカ、友田オレなど高学歴芸人たちが賞レースで強さを発揮しているのもうなずけます」

 賞レースと「高学歴芸人」の相性がいいことが、大学お笑い出身者の隆盛につながったようだ。田辺氏は言う。

「『競技』としての賞レースを勝ち抜くためには、精度をどんどん上げていかなければならない。スポーツ的になってきたことで、お笑いに取り組む年齢も早くなってきました。私が取材した学生芸人の方は『大学2年生から笑いをやり始めて、遅いスタートなんですけど』とおっしゃっていました。もはや中学、高校からお笑いをやっている人は珍しくなく、遅くても大学1年生からやるのが当たり前のようです。

 最近では、小さいときから勉強ができる人たちの、知能を生かす場所の選択肢の一つに『お笑い』が挙がるようになった。そして賞レースを勝つことを目標にし、おもしろいネタを理知的に考え、早くからお笑いに取り組み、さらに学生時代から舞台に立つ。賞レースを勝つためにはどうするのか、そのロードマップができつつあります。それが大学お笑い出身芸人の強さにつながっているのかもしれません」

キャスティングも賞レース中心…高卒芸人の今後の戦い方は?

 このまま、鬼越トマホークが危惧するように「これから伸びるかもしれない高卒のお笑い志望者が養成所の段階で淘汰される」という状況になってしまうのだろうか。田辺氏はこう見る。

「もともとバラエティ番組に向いていた『決して賢いわけではないけどバカなことをやる人気者』が、賞レース至上主義になったお笑い界の傾向に跳ね返される可能性は大きくなりつつあります。『中卒・高卒=勉強面で高学歴に劣る』というわけではありませんが、それでも鬼越トマホークの言いたいことはよく分かります。

 とくに今は、テレビ番組などで企画を通すときも、若手のお笑い芸人のキャスティングについては賞レースの結果が一番の説得材料になっていると聞きます。その方が話題性もありますし、番組的にもスポンサーがつけやすいなど、マネタイズが有利に運びます。賞レースの競技性が上がって、早くからお笑いに取り組んでいる大学お笑い出身者たちがその知性を生かして賞レースの上位を占めるようになれば、テレビ番組、CMなどもやはり大学お笑い出身の芸人が増えてくる。そうなると確かに、将来性を買われてのキャスティングは減ってくるでしょう。

 ただ、高卒だろうが中卒だろうが、はたまた勉強が得意じゃなくても、『お笑い偏差値』が高かったり、人と違う発想力があったりすれば賞レースで結果は残せる。高学歴で賢い芸人は強いでしょうが、完全に有利というわけではない。そうではなくても戦える術はあるでしょう。バッテリィズ(昨年末の『M-1』で準優勝)のエースさんのように、自分のアホキャラを生かしてくれて勉強熱心な寺家さんみたいな方とコンビを組むというのも、一つの手段かと思います」

 最後に田辺氏は、お笑い界の今後について「なにより『学歴がないからお笑いを諦める』というふうにはなってほしくないですよね」と危惧した。はたしてこのまま、お笑いで売れるためには「高学歴であるべき」という時代になっていくのだろうか。大学お笑い出身者以外の奮闘にも期待したい。

(文=佐藤勇馬)

協力=田辺ユウキ
大阪を拠点に芸能ライターとして活動。映画、アイドル、テレビ、お笑いなど地上から地下まで幅広く考察。

佐藤勇馬

1978年生まれ。新潟県出身。SNSや動画サイト、芸能、時事問題、事件など幅広いジャンルを手がけるフリーライター。雑誌へのレギュラー執筆から始まり、活動歴は15年以上にわたる。著書に『ケータイ廃人』『新潟あるある』がある。

X:@rollingcradle

最終更新:2025/07/15 09:00