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『あんぱん』第76回 戸田恵子の熱演、妻夫木聡の再登場、全部イージーに流されていく

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『あんぱん』主演の今田美桜(写真:サイゾー)

「月刊くじらの取材で上京したのぶ(今田美桜)たちは、ガード下の女王と呼ばれる女性代議士を探して、こんなところまで来てしまいました」

『あんぱん』戸田恵子初登場即キャラ崩壊

 冒頭のナレーションですけれども、「こんなところ」という言葉の使い方にまず引っかかってしまうんです。シンプルに「こんなところ」が「どんなところ」なのか知らんよ、というのがひとつ。加えて、作り手側の考えるヒロイン・のぶの立ち位置がやっぱり気に食わないんだよな。

 ここで使われた「こんなところ」という言葉のニュアンスから連想するのは、例えば『ローマの休日』でヘップバーンが連れ込まれたジョーのアパート、『タイタニック』でローズが足を踏み入れた三等食堂。ヒロインにはまるで似つかわしくない“下界”。「こんなところ」という言葉には、そういうイメージを想起させる作用があります。

 物語上、のぶのルーティンワークは闇市での子どもたちの取材ということになっていて、それこそ毎日闇市に出入りしていたはずなんですよね。「こんなところ」こそ、のぶ記者のメインフィールドであったはずなんです。

 戦後パートに入って、ずっと私がこのヒロインに抱いている不満は、とにかく格差に無自覚であって、自分がいかに恵まれているかを意識できない「優しくなさ」なんですけども、今日の「こんなところまで来てしまいました」というセリフで(「しまいました」もひでーな)、作り手側もヒロインを“上界”に置いていることに無自覚なんだなということがハッキリわかってしまって、改めて優しくない人の話だなと感じた次第です。その極みが、くたばっている子どもたちに無遠慮にカメラを向けてシャッターを切るシーンね。あんな残酷な場面、よく撮れるよ。

 あと、麻雀のくだりのいい加減さも嫌になっちゃう。親倍ツモってから条件を後出しするのは卑怯だし、点数確定してからイカサマしようとしてるのも意味わからんし、何より秘書よ、下家の手配が見える場所に立ってんじゃないよ。これだと薪鉄子(戸田恵子)がイカサマしてることになりますよ。「先生、4ピンはチーされますので」とかサイン出せる感じよ。『ノーマーク爆牌党』とか読んで勉強してほしい。

 カメラはどんだけ暗くても映るし、速記はすぐに実用レベルだし、マンガは50分でペン入れまで完了するし、編集部全員が1週間出払っても月刊誌は出るし、何もかもがイージーなんだよな。パタパタと設定されたプロットだけが消化されていく。そのプロットすら整合性が失われている。

 NHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』第76回、振り返りましょう。

鉄子のキャラ自体は悪くないのにね

 やっぱ戸田さんは貫禄ありますし、セリフで説明しているうちはよかったんです。理想が高くて、弱者の立場に立って、「生の声を聞くため」はあざといけれども、なんとなく輪郭は見えてきていた。ここから人となりを表すエピソードを積み重ねていくのかなと思ったら、なんですかあのご婦人のたまり場は。身ぎれいな女性たちが寄ってたかって「先生だけが頼りです」と絶叫して、ヤクザがきて警察がきて、一件落着。これは、どこで誰が何をしている場面なのよ。5W1Hが全部わからないよ。

 これにて「理想が高く、みんなが頼りにしている」という説明が完了。のぶの鉄子への取材が続行されるのかと思いきや、「速記は、いつから勉強したがね?」と鉄子からのぶへの逆取材が始まります。のぶにはもう、鉄子に聞きたいことは残ってなかったみたい。だったらなんで付いてきたんだ? 鉄子も、ヤクザが乗り込んでくるような危ない部屋になんで2人を招き入れたの?

 鉄子がのぶをスカウトするという展開をやりたいがために、もう聞くことが何もない記者と世間話をしている。ヒマかよと思うし、スカウトする理由もよくわからない。人手が足りないならあのご婦人の中からセレクションして働かせてあげればいいじゃない。仕事がなくて「もう何日も何も食べてない」らしいぜ。あのご婦人たちが雁首揃えてバカで使い物にならないというのなら、ちょっとなんかお店に寄ってコッペパンでも買ってきてあげればいいのに。

 なんかほんと、熱演してんだよな。戸田恵子が熱演しとるんですよ。仕事について言ってることは激アツなわけです。それが、のぶが関係する部分だけ意味不明になって「苦労してる」とか的外れなこと言い出したりするからブレるんです。

 のぶのリアクションも「何がしたい?」と問われて「まだ見つかってない」とか言ったり、おまえ「記者は世間に問い続ける」とか言ってたろ、戦災孤児集めて座談会とかやってたろ、あれを信念もなく興味本位と当てずっぽうでやってたとするなら、今さらだけどヤベーやつだからな。

 ああ、もったいない。のぶさえいなければ感動的なシーンだったのに。

八木ちゃんだー!

 孤児の写真を撮るとき、のぶがストラップを外した理由を答えなさい。そういう問いがあったら、何と答えればいいんでしょうね。「子どもにひったくらせるため」以外、何か合理的な理由があるんですかね。

 八木ちゃん(妻夫木聡)と再会するのはいいとしても、子どもたちはコッペパンひと口食ったらあとは読み聞かせを聞いてるし、全然飢えてないし、何より嵩(北村匠海)の無感情はどういうことなのよ。

「や、八木上等兵! 八木上等兵じゃないですか!」とか言え、駆け寄れ、手を握れ、抱きしめろ。おまえの軍隊における全部は八木ちゃんのおかげで成り立ってたことを忘れたのか。

 あと八木ちゃん、「悪い大人が浮浪児たちにひったくりをさせてる」って言うけど、その悪い大人たちはなんで八木ちゃんを放置してるわけ? ライカだよ、なかなかない戦利品だよ、私が悪い大人だったらまず八木ちゃんをボコるけどな。いつも目立つところにいるみたいだし。

 なんか今日は、納得できることが何にもなくて散漫に見ちゃったな。すごく集中しづらい回だったように感じます。明日はがんばろう。がんばってくれ。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/07/14 14:00