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『あんぱん』第85回 ようやく成就した運命の2人の恋 で、おまえたちは互いにどこが好きなん?

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今田美桜(写真:サイゾー)

 NHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』第17週、「あなたの二倍あなたを好き」が終わりました。第1話の冒頭で夫婦として登場した嵩(北村匠海)とヒロインのぶ(今田美桜)がようやく結ばれましたね。4カ月近くをかけて互いを思う気持ちを告白し合った2人なわけですが、のぶが嵩を思い始めた日のことが、まるで昨日のことのように思い出されます。昨日ですからね。昨日好きになって、今日結ばれました。

『あんぱん』大震災がツンデレラブコメの下地に

 一方、嵩のほうはだいぶ長い間こじらせてきましたね。嵩の恋心が初登場したのは、幼なじみのカッちゃん中尉が登場した回でした。覚えていますか? カッちゃん中尉。幼いころ、のぶに木登りや魚獲りを教えたガキ大将で、そのカッちゃん中尉が立派に中尉になって御免与に戻ってきて、のぶと仲睦まじくしゃべっているのを見て、部屋で脚をバタバタさせていたのが嵩でした。

 カッちゃん中尉は、戦争を生き残ることができたのかな。パン食い競争が終わると、一切出てこなくなりましたね。最初の恋のライバルが、ヒロインとちょっとしゃべっただけで一切出てこなくなるラブストーリーも実に珍しいですね。

 このときも、嵩がのぶのどういうところがどれくらい好きなのかは特に説明されませんでした。その後、東京に進学して悶々としている時期も、赤いハンドバッグを抱えて帰郷したときも、嵩がのぶのどこが好きなのかはわかりません。美人だし、顔が好きなのかなとも思うんだけど、のぶをモデルとして描いたとされる2つの絵、4コママンガ「ミス高知」のヒロインと「月刊くじら」第2号の表紙の人物は全然違う顔をしていますので、嵩がのぶの顔をどんなふうに認識しているのかもイマイチよくわからない。顔以外となると粗暴で高圧的な性格ということになってしまいそうですが、ドMなんですかね。難波秘密倶楽部的なアレなのかな。

 一方、昨日今日で嵩への気持ちを「ひとりになって」気付いたというのぶさん。こちらも、嵩のどういうところがどれくらい好きなのか全然わかりません。いわく「嵩の2倍、嵩のこと好き」だそうですが、そもそも何がどれくらいの「2倍」だかわからないのでね、どうにも規模感が想像しづらいわけです。

 かように、おまえらお互いどこが好きなん? という状態なので熱烈ハグにも特に何の感情も湧いてきません。

 人間だって生き物だから、誰かを好きになるのに理由は要らないとか、本能ってそういうもんだとか、そう言いたいならご勘弁くださいね。そんなのは虫の交尾と同じですからね。

 第85回、振り返りましょう。

「またやってしもうた」

 仕事帰り、薄暗いバーに立ち寄ってマスター八木(妻夫木聡)を相手に一杯やってるOLのぶさん。「またやってしもうた」と、男友達に対する態度を反省しています。

 その男友達は、マスターもよく知る人物。少し前まで「戦友」と呼べるような間柄でした。というか戦場で戦友でした。そういう関係性もあって、のぶも甘えたくなったんでしょうね。「嵩の前だとブレーキが利かない」だとか「なんで嵩にだけうちはこうなってしまうがでしょうか?」だとか、幼稚なツンデレ女子アピールを繰り返します。

 こういう客には慣れてるんでしょうね。

「失ってから、どれほど大きな存在だったか、気が付くバカもいる」などと意味不明なセリフで受け流してみせます。

 うーん、大人の対応です。何を言っているかわからないけど、薄暗いバーにはアンニュイな雰囲気さえあればいいのです。

 ところで、ここは現代の薄暗いバーではなく、被災者がそこらじゅうに転がり、浮浪児たちがうごめくガード下の一角なんですが、のぶさんご記憶でしょうか? まだここが東京であることだけで胸がいっぱいで、ほかのことなんて考えられないかな。あなた高知出身の代議士のもとで働いていて、その高知では地震で人がたくさん死んだ、その直後ですよ。嵩が無事ならそれでいいの?

乗っ取られた和風シェルター

 空襲でも大地震でも無傷の若松家。その対災害シェルターのような堅牢な家の居間で、嵩は朝田の女3人衆と食卓を囲んでいます。なんかおかずがたくさんあるけど、この家には食糧難とか関係ないんですかね。くらばあ(浅田美代子)は今日も御免与の石屋跡でひとりお留守番ですか。ちゃんと食べてんのかな。

 そうして空襲も地震もくらばあのことも、すっぱり忘れて恋バナに興じる4人ですが、ここでは豪ちゃんだ千尋だと死んだ人を踏み台にして、鈍感系主人公・嵩をみんなでけしかけるラブコメが繰り広げられます。舞台は死んだ次郎さんが若松のぶに遺した家です。

 なんというグロテスクな風景でしょう。次郎さん、年末年始には短い休みを使って畳を返したりしたんだろうな。障子もふすまもきれいなもんです。あの使われなくなった暗室には、蘭子とメイコの冬物とか不用品が詰め込まれてたりするのかな。ああ、次郎さん、ナムナム。

子どもたちは死んだのかな

 そして運命の日、仕事が早く終わったのぶさん(ヒマか)に、「今日も漢字教えて!」と浮浪児たちが駆け寄ってきます。もう盗みはやめたんでしょうね、そうじゃなきゃのぶだってこんな対応しないもんね。

 八木ちゃんによれば、彼らは「生きるために盗みが染み付いた子どもたち」だったはずです。盗みをやめたら生きていけないから盗んでたんだそうです。じゃあもう、死んだのかな。座敷わらしかな。腹も減ってないみたいだしな。地震も子どもたちの盗癖も、どんな悲劇も使い終わったらポイだなホントに。

 そこに現れた嵩。どこでのぶの現在位置を知ったのか嵩。GPS内蔵型なのか嵩。

 事情を察した八木ちゃんが子どもたちを追っ払ってくれるわけですが、ここ、のぶさん家のすぐそばだよね。とりあえず招いてお茶でも淹れたらどうなんだ。そうか、次郎さんの写真が飾ってある自宅じゃ都合が悪いか、まだ死んで1年かそこらだもんな。後ろめたい気持ちくらいはあんのかな。

 そうして飢餓にあえぐ人々が行き交う往来で抱き合うわけですが、あの赤いハンドバッグね、「盗られろ!」って思ったね。抱き合ってる瞬間、「誰かひったくれ!」と思ったよ。目を覚ませ、のぶ。おまえ東京に何しに来たんだ。そんなところでイケメンと抱き合って、明日からガード下の人たちがおまえに協力したいと思うか?

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/07/25 14:00