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「夢見てるみたい」レッドカーペットにみるレジェンド芸人らのネタの普遍性とその背景

爆笑レッドカーペットの画像1
イメージ画像(写真:Getty Imagesより)

 バラエティ特番『爆笑レッドカーペット ~真夏の最新ショートネタ60連発!大復活SP~』(フジテレビ系)が8月11日に放送された。

 2007年に特番からスタートし、2008年4月から2010年8月までレギュラー放送された『爆笑レッドカーペット』は、出演芸人たちが約1分の持ち時間の中で瞬発力勝負の笑いに挑み、ショートネタブームを巻き起こした。11年ぶりの復活特番となった今回も話題を集め、放送中もXのトレンド入りを果たした。

 60組の芸人が登場した復活特番を見てあらためて実感したのが、「キャラ」を作ったり、際立たせたりして笑いをとることのすごさだ。もっと言えば、いわゆる「一発屋芸人」の偉大さが感じられた。

 ちなみに筆者的にこの特番でもっとも印象深かった芸人は青森県の「ねぶた祭」の山車灯籠に扮したキンタロー。で、再現度の高さもさることながら、ネタ時間も驚異の10秒。特番放送前から、TikTok、YouTubeのショート動画が主流化した現状から「『爆笑レッドカーペット』のスタイルは今の時代にぴったり」と評されていたが、キンタロー。のネタはそういう時代性をもっとも体現していたどころか、ショートネタをさらに進化させたものに感じられた。MCの高橋克実や今田耕司が口にした「夢見てるみたいでした」「夢ですね」は言い得て妙だった

 初登場組では、ビコーン!。1本目のネタでは、ビコーン!の樋口秀吉が持参した鞄が動き出すというミステリアスな内容を見せた。それがウケて2本目の「おかわり」に選ばれ、身体が小さい同コンビの前田志良が鞄の中に入って動いていたというオチが明かされた。それだけでも驚きを集めたが、前田は耳に突き刺さるような甲高い声を聞かせ、さらにマッチョな肉体まで披露。たった1分のネタ時間の中に、鑑賞者の予想を次々と裏切る展開と情報量をぎっしり詰め込んだ。「レッドカーペット賞」は実力派のコットンが手にしたが、この特番のMVPはビコーン!だったのではないか。

 スクラップスは、人形劇をおこなうコワモテの男性が実は着ぐるみで、その中から人が出てくるという、同トリオの必殺ネタで勝負した。着ぐるみのコワモテ男性役のヨシオちゃん、そこから出てくる中の人役の安藤陸の表現力は絶品。年末年始に放送された『ぐるナイ年越しおもしろ荘!今年も誰か売れて頂戴スペシャル』(日本テレビ系)で準優勝した実力を、ここでも発揮。このネタは海外でも大ウケするのではないだろうか。

 ほかにも、口が臭いボーカルとそれを嫌がるギタリストのライブ中のやりとりがおもしろかったジェラードン、愛の告白などのシチュエーションを女性空手家と男性審判にあてはめていく新鮮なたまご、楽屋挨拶をしに来たアイドルが長々しいキャッチコピーで自己紹介する様子を表したラランド、人間を散歩させて歩く犬の存在が混乱を招く超速バギーなどはインパクトがあった。

 ただ、特にキャラ立ちしていたビコーン!、スクラップスあたりは、タネが分かってしまうと途端に飽きられてしまう傾向のネタだ。そのため今後は、幅広い設定やアイデアを取り入れて自分たちの特技・特徴を生かすことが求められるだろう。一発当てるという領域までは、まだいかなさそうだ。

 そう考えると、「高橋克実が選ぶ!もう一度見たいベスト5!」と「ノンストップスーパーショートカーニバル」に登場した、キンタロー。を含む『爆笑レッドカーペット』のレジェンド芸人たちのネタからは普遍性が感じられた。いずれもかつて「一発屋」として見られながら、今もなお、それぞれのフィールドで生き残っている猛者たちばかり。

 そんな芸人たちが、20年近く前に披露していたネタで視聴者を笑わせることができた理由は、いったいなんなのか。それは当時、時代に流されない独自的な発想をもとに、のびのびとネタ作りがなされていたからにほかならない。あえて「恵まれていた」という風な言い方をすると、現在ほどコンプライアンスが厳しくなく、SNSも本格的に流行する前だったこともあり、一発当てるためのネタ作りに躊躇がなかったことが幸いしていたのではないか。

 たとえば、ハイキングウォーキングによるコーラを一気飲みして山手線の駅を言い切ろうとするネタ。ゲップが笑わせどころになるが、もしこれが今だったら、ゲップは下品であるとか、コーラの一気飲みは健康に良くない上に子どもたちにも悪影響を及ぼすとされ、ネタを考えついた段階で「でもこれは炎上しそう」と尻込みしてしまうかもしれない。くまだまさしも同様。口にクラッカーをくわえて、紐を引いたらお尻に仕込んでいたクラッカーが鳴るネタも、2020年代であれば編み出されることはなかったように思える。

 しかし当時、そのようなギリギリのラインを攻めた芸人たちが多数いて、それに負けないようなネタ作りを意識することで、これまた際立った一発ネタが生まれていた。2000年代に一発屋芸人が多く誕生した背景には、そうやって企業の開発競争のようにネタ作りがおこなわれていたからではないだろうか。そしてその発表の場が『爆笑レッドカーペット』だったのである。

 今回の特番に登場したかつてのレッドカーペット芸人たちのネタからは、良くも悪くも世論が直接自分に届かなかった時代の中、とにかく強烈なものだけを求めていたからこその「強度」が感じられた。

(文=田辺ユウキ)

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田辺ユウキ

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。映画、アイドル、テレビ、お笑いなど地上から地下まで幅広く考察。

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最終更新:2025/08/12 19:30