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『あんぱん』第105回 切望し続けた「アンパンマン誕生の瞬間」が、こんな感じになるなんて

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『あんぱん』主演の今田美桜(写真:サイゾー)

 なんかふと気になって前作『おむすび』の第105回のレビューを読み返してみたら、永吉じいちゃんが死んで葬式にラモスが来た回でした。あのころは心待ちにしていたものです。もうかんべんしてくれ、おむちゃん早く終わってくれ、次作はやなせたかしがモデルだそうじゃないか、今田美桜も大好きだぞ、ああ楽しみだなぁ、NHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』が始まるということが、今いちばん楽しみだよ。そう思っていたころですね。

『あんぱん』成功してるのに成功してないというな

『あんぱん』がどういう話になるのかは想像の範疇でしかありませんでしたが、何しろやなせたかしがモデルだし、タイトルが『あんぱん』だからね、『アンパンマン』の創作秘話が語られるに違いない。長年、この国の子どもたちの心をわしづかみにしてきたアンパンマン、ミュージアムは予約制だそうじゃないですか。その国民的大人気アニメの原点が垣間見られるなんて、やっぱりNHKの朝ドラは贅沢だなーなんて、無邪気に期待していたものです。

 本日、そのアンパンマンの萌芽が描かれました。画用紙いっぱいに、あんぱんを2つ携えたおじさんが空を飛んでいます。

 その原点を、私たちは果たして垣間見たのでしょうか。今日は何を見たのでしょうか。なんだかよくわかりませんが、とりあえず初代アンパンマンが出てきちゃったわけですから、永吉の葬式を眺めながら「妹2人を蔑ろにするな!」とか言ってプリプリしていたころに心待ちにしていた瞬間が過ぎ去ったということなのでしょう。

 大切な瞬間って、過ぎ去って初めて気づくのかもね。

 第105回、振り返りましょう。

のぶ、山へ行く

 男子は30歳を超えて童貞だと魔法使いになれるなんて話もありますが、この時代の女性は妙齢になるとワープ術を使えるようになるのでしょうか。プチ家出中ののぶさん(今田美桜)を心配したのかなんなのか、羽多子ママ(江口のりこ)が再び上京してきたようです。

 そして蘭子(河合優実)やメイコ(原菜乃華)や孫たちの顔を見るわけでもなく、いきなり喫茶店に舞い降りると、のぶ&登美子(松嶋菜々子)と茶話会に花を咲かせています。

 ここで登美子が「嵩の名前は中国の嵩山から取った」という話をするわけですが、これなんで羽多子がここに必要なんだろうと考えるわけですよ。別にいつもみたいに目白のお屋敷に乗り込んで、のぶ単体で聞いてもいい話のはずだけど、わざわざ不合理な瞬間移動をさせてまで羽多子を投入している意味があるはずなんだよな。

「嵩さんが気の毒です、うちの娘はハチキンですき」

「そうでしたねえ」

 そうでしたねえ。これを言わせたかったんだ。もうずっとハチキンじゃなかったのぶさんに、改めてハチキンシールを貼りにきたんだ。普通、ドラマでハチキンな人を描こうと思ったらハチキンなエピソードを作って「ああ、あいかわらずハチキンだな」と視聴者に感じさせるのが常套手段ですが、『あんぱん』ではそこにいるはずのない人を唐突に登場させて、唐突なセリフによって決めつけるという斬新な手法が取られました。

 では、なぜここで改めてのぶにハチキンシールを貼る必要があったのか。

 ドラマから読み取れる限りでは、のぶを山に登らせて「ぼけぇー!」と言わせるためかな、というのが唯一考えられるスジかと思います。

 結果的に、山の頂上で「ぼけぇー!」と叫んだのぶさんの声が遠く離れた中目黒の長屋まで届いたような気がして、嵩(北村匠海)はアンパンマンの原型を生み出すことになる。

 整理しますよ。

 のぶに山頂で「ぼけぇー!」と言わせるためにハチキンであるという再定義が必要だった。そのために、来るはずのない羽多子を呼び寄せた。これはもう作劇上のジョーカーですね、本来なら絶対切ってはいけないカード、やってはいけないズルです。だって来る理由がないんだから。

 アンパンマン誕生のきっかけはズル、それと「なんか、のぶの声が聞こえた気がした」という曖昧かつ、ひたすらな「のぶアゲ」。アンパンマン誕生の直前に嵩の頭に浮かんだのは戦争がどうした正義がどうしたとは関係のない、ヤム(阿部サダヲ)という架空の人物が作った架空のあんぱんを子どものころに食べたという単純明快なエピソード。

 だいたい嵩の名前が嵩山から取ったからといって高尾山(かな?)に登る意味もわからんし、なんで「ぼけぇー!」なのかもわからんし、結局、待ち望んだ瞬間はなんの蓄積もなく、なんとなくエモっぽい雰囲気だけで通り過ぎていきました。なんか、制作陣がふだんセットに閉じ込められてるから、山ロケしただけでスゴイことをやったみたいな気分になってるんじゃないかと疑ってしまいます。スゴくないし、見てる方には関係ないし。

レンタル彼女みたい

 山から帰ってきたのぶさん、嵩と向き合って「私は何者にもなれなかった」「のぶちゃんは最高だ」とか言い合ってますが、なんか嵩がレンタル彼女を呼んでカップルごっこしてる人みたいに見えてしまいましたね。お互いに、このシーンで語るべき具体的な言葉を何も持っていなくて、とりあえず誰にでも言えそうでエモそうなことを言い合ってるだけ。

 のぶの言ってる「何者か」ってのはなんなんでしょう。教師だったら校長? 秘書だったら代議士? 会社勤めだったら、社長かな? ここで後悔すべきは何者かになれなかったことではなく、えらっそうに「大志」とか言ってたくせに結局、子どもらぁの救いになるようなことはできなかったとか、そういうことなんじゃないのかね。じゃあ今のこの人にとって「何者かになる」ことと、例えば「逆転しない正義を見つける」ことと、どっちがやりたいことなのかね。

 あと急に子どもを産めなかったとかいうナーバスなやつを放り込んでくるんじゃないよ。こっちはこの人たちが子どもがほしかったのかどうかも知らないし、どっちの生殖機能の影響でできなかったのかも知らないし、週何回営んでたのかも知らないから、どう受け取ったらいいのかわかんないよ。

 とにもかくにも、そうしてアンパンマンは爆誕しました。ラモスを見ながら抱いていた期待値を100だとすれば、ゼロですね、ゼロ。そんで来週はミホちん本人が登場するらしいぜ。いよいよ究極の消化試合の始まりだ!

(文=どらまっ子AKIちゃん)

どらまっ子AKIちゃん朝ドラ『あんぱん』全話レビュー

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どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/08/22 15:30