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『あんぱん』第106回 待望の『アンパンマン』登場も、ラフだけ描いて数年が経過……

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今田美桜(写真:サイゾー)

 なんか急に逆光強めに焚いたり大量のシャボン玉にエフェクトかけたり、これ見よがしのエモ映像が出てきて気持ち悪いな。

『あんぱん』アンパンマン生誕のエピソードが貧弱

 NHK朝の連続小説『あんぱん』第106回、振り返りましょう。

それはマンガではないよな

 さて、のぶさん(今田美桜)がずっと抱えていた不満は夫の嵩(北村匠海)が本当はマンガを描きたいくせに、多忙にかまけてマンガを描かないことでした。加えて女性ファンにチヤホヤされているのを目の当たりにしてケンカをふっかけ、プチ家出までしていた。

 そののぶさんが羽多子ママ(江口のりこ)のひと声でハチキン魂(ギャル魂ではない)を取り戻して山に登り、「たかしー! ぼけぇー!」と絶叫したところ、遠く中目黒の嵩にその声が届いたのか届かないのか、とにかく嵩は覚醒。アンパンマンの原型となる、あんぱんを2つ手にしたおじさんを描いて、のぶを出迎えたのでした。

 そういう話だったよな。のぶのおかげで、嵩はマンガを描き始めた。めでたし、めでたし、さすがのぶさん。先週はそういう話だったはずなんです。

 だからあの初代アンパンマンは普通に考えて、新しいマンガの表紙絵だと解釈するわけですよ。マンガを描こうとするときに表紙絵から描くマンガ家なんているのかどうか知らないけど、とにかくハッピーでエモなエンドを迎えているわけだから、のぶの思いが通じて物語が一歩前に進んだ。すなわち嵩が、のぶがずっと拘泥してきた「マンガを描け」という要求に応じて、のぶが溜飲を下げた。

 そういう話なんだから、今週はあのおじさんを主役にしたマンガを描くもんだと思うでしょう。まだラフ画でしかないおじさんがどんな人たちと出会って、どんなヒーロー像を見せてくれるのか。一心不乱に『アンパンマン』を仕上げる嵩、力強く影で支え続ける妻・のぶ。いよいよ嵩の中に溜め込んだ根源的なマンガへの情動と主人公のぶのプロジェクションバイアスが見事に融合して、あの名作『アンパンマン』が世に出ていくのだ。そう思うでしょう。

 東京五輪があって、さらに2年が経って、私たちがふたたび目にしたアンパンマンは、数年前に見たラフ画のままでした。

 嵩、マンガを描くどころか、その一枚絵を仕上げることさえしていない。ペンも入ってない。それを出版社に持ち込んで、編集に「ケチョンケチョンに言われた」んだそうです。

 編集も困っただろうねぇ。なんか業界でブイブイ言わしてる人気構成作家が「ボクの描いた新しいマンガを見てくれ」とか言いながら原稿を持ってきて、何かと思えば、数年前に描いたという太ったおじさんが空を飛んでいるラフ1枚。顔の正中線すら消してない。

 このときの編集者の思いを代弁するなら「マンガ舐めんな」の一言でしょう。マンガ舐めんなよ。相手が名前のある作家だけに怒鳴りつけるわけにもいかない編集者を相手に、嵩は「ボクの考えるヒーロー像」を滔々と語ったわけだ。

「このおじさんはあんぱんを配っているんだ」

「ヒーローがおじさんだっていいじゃないか!」

「これはボクに、ボクの愛する人が描かせてくれたマンガなんだ!!(数年前に)」

 そらケチョンケチョンにも言いたくなるもんですわ。別におじさんがあんぱんを配ったっていいし、ヒーローがおじさんだっていいよ。それを描けよ。描いて見せろよ。コマを割れ、ネームを切れ、ペンを入れろ。せめて形にしてもってこい。こんなラフ1枚で何を評価しろというのだ。

 マンガ舐めんな、嵩よ。

変な浮気疑惑

 そんなある日、いつもの喫茶店で嵩が打ち合わせをしていると、メイコ(原菜乃華)が娘を連れてやってきます。

「嵩おじちゃんはなんのお仕事?」

 そう尋ねた娘っ子に嵩は「打ち合わせ」と答えると、おもむろに立ち上がってメイコに告げるのでした。

「今日ここで打ち合わせしてること、のぶちゃんには秘密にしといて」

 席に着いてからも、嵩の打ち合わせの様子を訝しげに覗き込むメイコ。この打ち合わせ相手の女性とメイコに面識はないようだし、何を考えてるのか全然わかりません。「相手が女性だから」という理由だけで浮気を疑われているのだとしたら、日頃の嵩がたいがいだということです。

 しかし、メイコは嵩の浮気を疑っていたのでした。こともあろうか、のぶの誕生パーティーの最中に「喫茶店で女の人とコソコソ内緒話しゆう」ところを見たと証言します。冷静な蘭子(河合優実)は「仕事の打ち合わせやないが?」と常識的な疑義を呈しますが、それでもメイコは止まりません。あれ、おかしいな。メイコは嵩が打ち合わせをしていたことを知ってるはずだよな。だって嵩は「打ち合わせ」と言ったもんな。白昼、公共の場で業界関係者が打ち合わせをする場合、まあ情報解禁前の話をするわけだから、そりゃコソコソするもんだよな。

 ミホちん、嵩のセリフで「打ち合わせしてる」って書いたこと忘れちゃったのかな。

 そしたら嵩が帰ってきて何やら自費出版したという詩集をみんなに配ると、メイコにこう言うのでした。

「メイコちゃん、こないだは打ち合わせしてるって言えなくてごめんね」

 ミホちん、嵩のセリフで「打ち合わせしてる」って書いたこと忘れちゃってました。

「今日ここで『打ち合わせしてる』こと、のぶちゃんには秘密にしといて」

「メイコちゃん、こないだは『打ち合わせしてる』って言えなくてごめんね」

 何これ。たった15分の間でこんなこと起こる?

 この場面、どうしても浮気疑惑をやりたかったら、喫茶店でメイコと会った嵩が「いや、打ち合わせ……うーん、まあそんなような……メイコちゃん、今日ここで僕と会ったことは、のぶちゃんには内緒にしといて」と言っていたらよかった。ただそれだけです。秘密にしたかったのはわかるし、自費出版は厳密に言えば「仕事の打ち合わせ」とは少し違うから、それだけで筋が通る。そんなこともできない。なんだよ、あんぱんのケーキって。イジメかよ。

その詩集も変

「たまるかー!」つってのぶちゃん喜んでたけどさ、おまえは嵩にマンガを描かせたいんだよな。せっかく描き始めた『アンパンマン』もあの日以降、一切手を付けてないし、あいかわらずマンガ以外の仕事は順調なようだし、少しお金と時間に余裕もできたのでしょうけれども、その間に作っていたのが詩集なんですよ。

 こんなの受け取ったら、のぶという人は「嵩さん、マンガが描きたいんじゃないがか?」「詩集なんかにうつつを抜かして、このたっすいがーが」って言う人だったはずなんだよ。のぶさん、これはあんたが先週まで親の仇みたいに忌み嫌っていた嵩の「マンガ以外の仕事」だよ。わかってんのか。

 しかも「マンガを描いてる気持ちで紡いだ言葉」だとか言ってる。いや、マンガを描いてる気持ちでマンガを描けよ。嵩のマンガの代表作がない理由を教えてやるよ。マンガを描かないからだよ。いつまで長屋に住んでんだよ。カネと時間に余裕ができたんなら引っ越せよ。早く羽多子を呼んでやれよ。死んじゃうぞ。

 あとこの詩集の立ち位置も中途半端で、のぶに内緒のプレゼントだったら1冊でいいし印刷所に直で持ち込めばいいし、わざわざ編集を紹介してもらってるのに取次を通して流通に乗せるつもりでもないらしい。蘭子とメイコに渡して、それで終わりで八木ちゃん(妻夫木聡)の分もない。たぶん健ちゃんの分もない。

 八木ちゃんに「詩を書け」と言わせるからには、その詩について嵩がどう思ってるのか、その現在地がエピソードの出発点になるはずなんです。のぶに渡す1冊だけなら全然自信もないし自己満足で十分だと考えているし、自費で流通に乗せるなら万人の鑑賞に耐えうるしそれを届けたいと願っていることになる。そのどっちでもないから、「詩を書け」という展開に期待が持てないのよ。

 と、そんな感じで今日もあんまし出来の良くない『あんぱん』でしたが、今週は中園ミホ少女が登場するんだよな。なんだか今からソワソワしちゃうな。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/08/25 14:00