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『あんぱん』第110回 実際のやなせ作品の創作秘話を創作したら、印象が悪くなったという話

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今田美桜(写真:サイゾー)

「羽多子がついに同居を決心して上京しました」

『あんぱん』脚本家の夢展開に苦笑い

 昨日はハチャメチャなカホ(永瀬ゆずな)の登場に、にわかに興奮を覚えたわけですが、今日は冒頭のナレーションのこの一言で「ああ、つまんねー『あんぱん』に戻ったな」と実感させられることになりました。さっそく心を折ってくるんじゃないよ、まったく。

 このナレーションは、羽多子(江口のりこ)がいつでも上京できる状態にあって、自発的に御免与に残っていたという事実関係を説明しています。しかし実際には嵩(北村匠海)とのぶ(今田美桜)は共同便所の天井に穴のあいたボロい長屋に住み続けていたわけで、「羽多子の上京」は「夫婦の引っ越し」という条件なしにはありえなかったはずなんです。決して羽多子の一存で決められることではない。なのに、一存で決めたことにしている。まずここにウソがある。すぐバレるウソはおもしろくない。

 さらにおもしろくないのが、この引っ越しのタイミングを決めたことさえ嵩とのぶの自発的な判断ではなく、こともあろうか脚本家の化身が画面に登場し「ボロ家」と呼ばせることで決心させていること。それともうひとつ、仮に羽多子が自発的に御免与に残ってたことを飲み込むとして、その理由が「羽多子が御免与でみんなに頼られている」という謎の追加設定と、今営業しているというコンタの「たまご食堂」は閉店したのか、そもそもの実家だけどコンタに譲ったのかという疑問、さらにその「たまご食堂」のネーミングが戦争中の略奪行為を美談化したものであるという倫理的問題もある。

 たった一言のナレーションに、これだけの「NHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』がおもしろくない理由」が詰まってる。日本語は重いね、林田アナ。

 あとなんでのぶさんは50前のはずなんだけど、サラツヤヘアーにツルテカフェイスで風に吹かれてんの。リアリティ出す気ないの。なんで茶室を作るほどお茶が趣味みたいになってんの。そういえば1回ヤケになって山に登っただけで「登山が趣味のお姉ちゃんに登山帽をプレゼント!」みたいなこともあったな。羽多子来るなら東京駅まで迎えに行け。主題歌うぜーな。なんだこのドラマ。

 そんなわけで第110回、振り返りましょう。

ドル円固定相場時代

 そんなわけではるばる東京にやってきた羽多子さんも、最初っから変なことを言ってます。アポロがどうこうじゃなく「これからは自由にはばたく」のほうです。

 ついさっき、羽多子は行動も居住地も自由に選べる立場にあって、積極的に御免与での生活を選んできたのだと言ったばかりです。「たまご食堂」の経営は、羽多子にとって自由の謳歌であると、そう言ったのです。

 それが舌の根も乾かぬうちに「これからは自由」だという。「これまでは不自由だった」という意味です。もう意味がわかんないんですよ。何を言ってるの、なんなのこの人は。

 そんで時は昭和42年、ドル円の為替は360円で固定されている時代です。そんな時代に、故・結太郎(加瀬亮)が海外から送ってきた手紙を山積みにして「結太郎さんが手紙をくれた場所に旅をしてみたい」と言い出す。海外旅行しまくり宣言です。どこにそんな金があるのか。「たまご食堂」ってそんなに儲かってたの? 覚せい剤でも売ってたの? コンタやべえな。

 これ、羽多子を呼んだはいいけどドラマ的に家に居座られたら困るってことなんだろうけど、もういちいち場面で羽多子を画面から追い出す段取りを考えるのがめんどくさくなっちゃったのが見え見えなんだよな。最初から旅人設定にしておけば「今は買い物」とか「今日はどこそこ」とか言う必要ないもんな。雑なことをやるもんです。

 羽多子ももうダメですね。ドラマが後半に入ってからというもの、こうやって人物がひとりひとり壊れていく様子を見せられて、しんどいばかりです。

 あと、勝手にラジオドラマの仕事を受けるくだりね、こんなの見知らぬ老女に対して「柳井嵩さんはご在宅ですか?」と聞かずに「ラジオドラマの枠が飛んだから柳井嵩に一晩で脚本を書いてほしい」とまくしたてたNHKのディレクターが一方的に悪い話なのに、その非常識すぎる行動のせいで電話を替わらなかった羽多子が悪く映ってしまっている。江口のりこかわいそう。

「やさしいライオン」

 ラジオドラマ「やさしいライオン」も単体で見れば悪くないんだろうけど、それを書いた人の筋が悪すぎて純粋に入ってこないんだよな。

 書いた人っていうのはやなせたかし氏ではなく柳井嵩ですけど、この人の「お母さん」に対する逡巡にまるで説得力がないのよ。

 これには決定的なエピソードというか落ち度があって、高知に震災があったときね、嵩は市内にいるのに御免与の千代子(戸田菜穂)のことをまるで気にかけてなかったのね。そんで、寝てたのね。子どもの脚でも歩ける距離にいる千代子が生きてるか死んでるかもわからない状況なのに、寝てたの。見捨てたの。母子関係を決定づける大事件なんですよ。

 そうやって見捨てておいて、今回も羽多子は呼ぶけど千代子は知らんという状態だし、そんなんで「母を想うと」なんて言われてもイイコちゃんぶってんじゃねえよとしか思えないんですよ。

「やさしいライオン」の創作秘話を創作したことで、逆に「あの作品の裏にはそういう欺瞞と自己憐憫があったのか」という悪い方向に印象が誘導されていて、なんともトホホでございました。

 創作秘話が上手に作れないとなると、いよいよこのドラマは何を見ればいいのかわからなくなるよね。はてさて。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/08/29 16:04