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『あんぱん』第112回 また「マンガを描かない理由」が創作される……いいから描けよとしか思えないよ

今田美桜(写真:サイゾー)
今田美桜(写真:サイゾー)

 雨がやんで石段を駆け上がっていくシーン、思わず「あぁ~つまんね!」と声に出してしまいました。こんなことはNHK朝の連続小説『あんぱん』を見てきて初めてだったので(ずっと思ってるけど声には出してなかった)、たぶん今日の回が過去イチでつまんなかったんだと思います。

『あんぱん』エモと史実が噛み合わない

 第112回、振り返りましょう。

世界旅行って何? 何泊? ピースボート?

 今日は、これまで2回くらい喫茶店でしゃべっただけの漫画家集団から世界旅行に誘われなかった嵩(北村匠海)のお話。世界旅行が何泊で、どこに行ったのかもわからないし、嵩が旅行好きかもわからないし、集団と嵩の今の関係性もまったくわからないし、そもそも誘われたら即決で行けるくらいにスケジュールが空いてるのかどうかも知らんし、さすがにここまでムチャクチャな要素を放り込んできたということは史実なのだろうと思ったら、史実でしたね。実際、漫画家集団の世界旅行に誘われなくて、その悔しさからマンガを投稿したことがあったんだって。

 こうやってわざわざ史実かどうか確認する作業ってドラマを見る上ですごく不健全だし、普通に見てる人にとっては史実がどうとか関係ないからな。シンプルに、急に旅行がどうこうって意味わかんないし、それに落ち込んで仕事が手に着かないってナーバスすぎるだろとしか思わないからな。

 このエピソードで言いたいことというのは、嵩が周囲から「マンガ家として」軽く見られているという事実関係と、そうやって軽く見られていることに対する嵩の悔しい思いです。

 史実としては、この人は月一でこの集団の会合に顔を出していて、忘年会も楽しみにしていたんだそうです。そして売れてはいなかったけど、マンガを描き続けていた。そして自分の描いたマンガにコンプレックスを持っていて、この「旅行に誘われない事件」で一念発起したんだそうです。

 劇中の嵩は、この集団とずっとつながりがあったなんて思えないし、マンガも全然描いてない。アンパンマンもラフ画のままだし、マンガを描くと自分の才能のなさを自覚してしまうので描かないという人です。

 史実でも劇中でも、この人は「マンガを描きたい人」ではある。でも大きく違うのは、史実ではマンガを描いていたけれど、劇中では描いてない。

 もう50近くの年齢になって、マンガを描いてないくせに「マンガを描きたい」は通らないんですよ。描かない人は「描きたくない人」なんです。だから、この旅行からハブられた劇中の柳井嵩には、そもそも悔しがる資格がないし、理由もない。

 しかも、「さすがのぶさん」「のぶさんのおかげ」をやるために、劇中の嵩は単独で悔しがったり一念発起したりすることすらできないんです。雨が止んだから散歩に行って石段を駆け上がる。大人にとって、夢に向かって走るというのは、実際に階段ダッシュをすることじゃないんです。マンガを描くことなんです。描きかけのやつがあるだろ、雨が降ろうがやもうが、描けよ。

「描けない苦悩」と「描いたが、評価されない苦悩」を切り分けないでやってきたから、スネてる嵩にもプリプリしてるのぶ(今田美桜)にも、バカじゃねーのとしか思えないんですよ。もう何十年分も、嵩が「マンガを描かない理由」ばかりが次々に創作されているだけ。マンガを描きたい人のドラマじゃないよ。

蘭子のはなんなんだ

 嵩がマンガ以外の仕事で大成功を収めてやっと住めるようになったマンションに、蘭子(河合優実)も引っ越してくるんだって。蘭子さん、売れっ子の柳井と同じくらい稼ぎがあるの? こんなムチャクチャなことがあると、思わず「これも史実か?」と思ってしまうけど、そもそも蘭子という存在自体が架空でしたね。

 その架空の蘭子の架空のロマンスには、いったいなんの意味があるんだろう。2人ともただ発情しているようにしか見えないし、八木ちゃん(妻夫木聡)の「君が濡れるだろう」というセリフが意味不明すぎて、つながりを度外視した単体のシーンとしてすら成立してない。ただ、演出部の「いい感じで撮ってやったぜ」というドヤ顔が目に浮かぶばかりです。なんで真っ赤な口紅引いて引っ越しの荷造りしてんの。バカじゃねーの。

 上京してからはなるべく史実通りになるっていうから、少しはまとまってくるんだろうと期待していたんですが、ちょっと考えうる限り最悪の「史実の使い方」になってる感じがします。中園ミホひとりのミスや暴走な感じがしないんだよな。前回の『おむすび』もそうだったけど、本格的に現場が壊れてるんだと思う。心を病む人がいないことを祈るばかりです。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/09/02 14:00