『あんぱん』第115回 脚本家・中園ミホ「手塚治虫作品にも自分が影響を及ぼした」ことにする

もう50前なのにサラツヤヘアーとツルテカフェイスでお出迎えののぶさん(今田美桜)。昨日は巨匠・手嶌(眞栄田郷敦)に「マンガのヒロインみたいに美しい」と評されたその顔面を、今日はヤム(阿部サダヲ)から「老けたな」と言われてました。
いったい、この顔面を私たちはどう見ればいいのだろうか。どう見ても秘書時代のままの風貌だし、むしろ城ケ崎商事時代から若返っているし、演出意図がまったくわからないんですよね。NHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』を見るにあたって、当然ヒロインであるのぶさんに注目するわけですが、そのヒロインが不自然に若々しいことがノイズになっている。
それでも、ルックスについて劇中で放っておいてくれたらこっちも想像力を働かせて「こうは見えても実際は50手前だ」と脳内補正をかけるところですが、いちいち「美しい」とか「老けた」とかセリフで評価してくるもんだから、何か意図があるのではないかと勘繰ることになる。もうこの段階で今田美桜に老けメイクをさせないことについてはどうでもいいと思ってるから、どうでもいいままにしておいてほしいのよ。
第115回、振り返りましょう。
戦争の話を戻すための「ヤム」
もう何年も八木ちゃん(妻夫木聡)の事務所に出入りしていて、一時期は事務仕事も請け負っていた蘭子(河合優実)。そこに出入りのパン屋としてヤムがやってきます。八木ちゃんがパン屋にパンを届けさせて、それを孤児院に差し入れするんだって。
いかにも唐突な「差し入れ」設定ですが、どうやらずっとやってたみたい。だったら蘭子もヤムと一回くらい会ってそうだけど、まあそれはいいや。この「唐突」からの「ずっとそうでした」も『あんぱん』というドラマの悪癖で、今日はもうそれを煮しめたようなお話でしたが、それもまた後で。
孤児院に直接配達すれば八木ちゃんたちの手間もないところ、わざわざ事務所に持ってきたヤムさん。その後はフリーだったようで、蘭子に連れられて柳井家を訪れます。
このヤムの来訪がきっかけになってドラマは戦争モードに戻るわけですが、ここもピンとこない話でしたねえ。
羽多子さん(江口のりこ)が「ヤムさんはいつも食事も一緒に食べてくれなかった」と言って、ヤムが「俺は戦争で自分を捨てた」とかなんとか返してましたが、シンプルQ&Aとして成立してないんですよね。
だいたい、羽多子がヤムの食事を用意していたことなんて一度もないし、ヤムの食事問題は『あんぱん』名物の「なんだかよくわからないままウヤムヤになった不自然な現象」のひとつでしかない。
それを伏線回収を気取って「そこに意味があったのだ!」とやってるわけだけど、一緒に飯を食わないのが「戦争の傷」「抜けないトゲ」だという意味がわからない。そして、じゃあどこで食ってたのかもわからない。
まさか、ヤムは戦地で死んだ仲間の乾パンを食べたことに気を病んで、それ以来食事をしていないってことじゃないだろうな。「羽多子たちと一緒に食べなかった」じゃなく「食事をしなかった」じゃないだろうな。じゃ、なんだったんだろうな、今日の話は。のぶちゃん泣いてたけど。
手嶌作品にもミホの魔の手が
さて、自ら若手時代の柳井嵩の前に降臨することで国民的エンターテインメント作品『アンパンマン』の誕生に一役買ったことでおなじみの脚本家・中園ミホ大先生ですが、いよいよ手塚治虫こと手嶌治虫作品にも一役買いたくなったようですね。
『千夜一夜物語』のヒロインがのぶであることは百歩譲っていいとして、主人公の風来坊をキャラデザしようとしている嵩の頭の中に、ヤムを思い浮かべさせました。
これだと、『千夜一夜』の主人公はミホちん謹製オリジナルキャラクター・ヤムがモデルだということになります。
やなせたかしも、手塚治虫も、私の手のひらの上。快感だろうね。いったい何を見せられているんだろうね。
嵩、戦争が他人ごとになる
戦争モードに入って、いろんな人のことを思い出して、いよいよ『アンパンマン』にペンを入れることにした様子の嵩くん。のぶさんも、ずっと戦争とその後のことを考えていたそうです。だったら孤児院への援助活動とか、八木ちゃんと一緒にやったらいいのにね。議員秘書辞めてから20年、なぁーんにもしてないのに「ずっと考えてた」んだね。
で、嵩は死んだ千尋や、千尋を失った登美子(千代子ではない)や、蘭子や、八木ちゃんたちの中にある戦争の悲しみを少しでも何とかしてやりたいという気持ちから描き始めるようですが、なんでこの人、戦争を他人ごとみたいに言ってるんですかね。
おまえの目の前で幼なじみが死んだよな。忘れたのか? おまえの目の前で、ピストルで撃たれた幼なじみが死んだんだよ。おまえの悲しみを語れよ。岩男が死んだことは悲しくないってことなのかよ。
豪ちゃんもさ、蘭子に惚れてたとはいえ、のぶにとっては物心つく前から一緒に暮らしてた家族みたいなもんだろ。なんでおまえたちは、戦争を他人ごとみたいに語るんだよ。なんで「癒してやる」側の立場なんだよ。冷酷かよ。
これ、のぶと嵩がそう見えてるってことは、作り手のスタンスがそうだってことだからな。戦争も何もかも、ドラマのネタくらいにしか考えてないってことだからな。どう言い訳しようが、画面に出ちゃってるからな。
ヤムさん、戦後になって愛国少女だったのぶが立ち直れるのか心配してたみたいだけど、こいつそんなの全然平気みたいだよ。そもそもどうやって立ち直ったんだっけ、それも覚えてないや。
(文=どらまっ子AKIちゃん)