『あんぱん』第116回 肝心の「アンパンマン」が何なのか全然わからないよ

数十年前に描いた『アンパンマン』のラフ画にようやくペンが入ったわけですが、あんぱん持ってないんだ、と思うよねえ。長年、あんぱんを手に持って空を飛ぶおじさんのラフを温めてきて、温めまくってきて、いざペンを入れる段になったら、嵩(北村匠海)はあんぱんを消しゴムで消したわけでしょう。
当然、そこには「あんぱんを消す」という判断があって、判断には嵩なりの理由があるはずなんです。このヒーローにあんぱんを持たせていたときと、それを消した今とでは、心境の変化がある。
そこに興味を持たないのぶ(今田美桜)が、まず気持ち悪いわけです。「このおんちゃんが好き」なのはいいけど、どこがどう好きなのでしょう。なぜ好きなのでしょう。その「好き」を通じて、こっちはのぶという人が何を考えているのか察したいと思ってるわけですけど、ツルテカの美人顔を振りまくばかりで全然教えてくれない。
嵩はこれを「形にしてみる」と言いますが、その「形」がなんなのかも想像できない。モノクロでペン入れしてるからマンガなのかなと思うけど、2枚目のイラストを見るとコマを割っている様子もないし、ネームも切ってない。
そもそもこのイラストはのぶが「嵩、マンガを描け」と強硬に命令し続けて、嵩がマンガを描かな過ぎて山に行っちゃったというわけのわからないきっかけで生まれたものであって、当然、筋としてはマンガにならなきゃ着地しないわけだけど、嵩が何を作ろうとしているのかも全然わからない。
唐突に舞台が「戦場の空」になって、唐突に「アンパンマン」と名付けられたおじさん。この話が嵩の戦争体験と直結しているから「戦場」という舞台にしたのなら「乾パンマン」もしくは「ゆでたまごマン」であるべきで、劇中で「おじさんがあんぱんを配る」という設定になった根拠も語られていない。このラフを描いたとき、確か嵩はのぶの分もあんぱんを買ってきていて、たまたまそこにあんぱんがあったからおじさんにあんぱんを持たせただけだったはずで、戦争云々は後付けでしかなくなってしまっている。
そしてアンパンマンは国境で撃ち落とされてしまうという。
「大丈夫、決して死にはしないから」
なんでだ。なんで撃ち落とされて死なないんだ。「アンパンマン」は全身がパンでできていて傷ついてもジャムおじさんが治してくれることなんて、この時点では誰も知らないはずなのに。見た目だってどう見ても「全身パン」ではなく普通のおじさんなのに。「撃たれても平気で飛び続ける」ならまだわかるけど、撃たれて空から落ちるくらいのダメージは受けるけど、死なない。その状況が想像できない。せめて撃ち落とされたおじさんがどう描写されていて、どうやって立ち上がるのかを絵で見せてくれれば想像のしようもあるけど、なんにもわかんない。
そして、のぶが「なぜ死なないの?」と疑問を持たないことも変すぎる。
あんぱんを手放したことも含めて、のぶという人がこのおじさんキャラを好きだと言いながら、まったく興味がないように見えてしまっている。なんにもわかんない「アンパンマン」について、2人だけがわかったような顔でわかったような話をしている。設定も完成像もフワフワしていて、まるでつかみどころがない。
やなせたかしがモデルのドラマの中に出てくる「アンパンマン」ですよ、それくらいちゃんとつかませてよ。
NHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』第116回、振り返りましょう。
姥捨て山か
上京してからというもの急にパン焼きの腕前を上げ、市販のパンに負けないコッペパンを焼けるようになった羽多子さん(江口のりこ)。この日は急に旅行に行くことになったようです。神戸に行って、帰りに有馬温泉に浸かるんだそうですが、有馬温泉って神戸だよな。帰りに、って感じじゃないよな。
それはそうとて、必死にお母ちゃんと心配して「同行する」と言いながら、お母ちゃんのカバンに水筒やら何なら詰め込んでいくのぶと蘭子(河合優実)がめちゃくちゃ怖いんですよ。セリフと行動が合ってないの。本気で同行するつもりなら自分たちの荷造りをしなさいよ。早く追い出したくてしょうがないというドラマの都合が画面に出ちゃってるのよ。何泊なのよ。旅行って、何泊なのかによってだいぶ性質が違うじゃないですか。それによってメイコ(原菜乃華)が同行することになった意味も変わってくるじゃないですか。
いちおう画面にそういうお話が現れたからには、羽多子とメイコの旅路を想像したいわけですけど、それもこうやって雑にプロットだけ放り込むから、想像が阻害されるわけです。
ちょっと話がそれますけど、2009年の『キングオブコント』(TBS系)の東京03ね、3人で旅行に行くネタがあって、「3泊あんだよ!」っていう飯塚のセリフでドンっと世界が広がるわけですよ。そういうのを見て勉強していただきたいね。
秘技「ずっと考えてた」
蘭子、戦争体験の取材をしたいんだそうです。「ずっと考えてた」んだって。最愛の人を戦争で亡くしてるし、それはそれで別にいいんだけど、「ずっと」っていつからなの? お姉ちゃんが新聞社に入って戦争孤児の座談会とかいうトンデモ記事を作ってたことも知ってたはずだし、それから数十年、映画レビューと広告コピーの仕事くらいしか私たちは見てないわけですよ。『ベン・ハー』の批評やビーサンの広告を書いてるときも「ずっと」戦争体験の取材をしたいと思ってたの? すれば? 登美子に誰か紹介されるまでもなく、八木ちゃんも嵩も健ちゃんも、君の身近な人は全員戦争体験者だよ。
どいつもこいつも「ずっと考えている」ばかりで、全然行動しないのな。
その行動しない派の権化であるのぶさん。蘭子がやろうとしていることは、かつてあなたが心血を注いで、人生を賭してやろうとしていたことなわけですけど、なんですかその塩リアクションは。もうまったく、あなた自身は戦争にコミットする気はないわけですか。マンションの茶室に師匠である登美子を呼びつけてお茶を点てる生活で満足ですか。
改めて問いますけど、こののぶさんという方は、ドラマの中で今、何をしている方なの?
手嶌と嵩の『千夜一夜』
これも、すげえ雑ですねえ。スケジュールがパンパンに詰まってて手嶌は1時間しか寝る時間がないと言ったと思ったら、嵩は仕事でも何でもない「アンパンマン」にペンを入れる時間はあるみたいだし、その嵩に「12時までに仕上げろ」というオーダーだけ出しておいて、実際に12時までに仕上がったのかどうかもわからない。単に「徹夜明け」という記号だけ提出して、何やら優雅にお茶など楽しんでいる。寝ろよ、その時間。
そんで出されるお茶も前回は師匠である登美子(松嶋菜々子)にケチョンケチョンに言われるくらいのお点前だったのに、今回はいっぱしに点てれるようになってるし、中園氏も倉崎氏もあちこちでいろいろ『あんぱん』について語ってるみたいですけど、自分たちがリアルタイムで何をお届けしているのか理解してるんですかね。