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『あんぱん』第118回 「売れっ子の妻」という立場を濫用して大暴れ! 素人はすっこんでいなさい

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今田美桜(写真:サイゾー)

 昨日今日と、のぶさん(今田美桜)が「売れっ子の妻」という立場を濫用する横暴ぶりが嫌というほど描かれましたね。

『あんぱん』強烈な「のぶのおかげ」の大合唱

 それはそれで後でやるとして、まずギョッとしたのが未確認飛行肥満中年こと初代「アンパンマン」の物語についてです。このヒーローは、飢えて苦しんでいる子どもがいると空を飛んで助けに来てくれる。ここまではいいんですが、なんとこの人、空からあんぱんを落とすんだそうです。

 想像してほしいんだよな。荒れきった戦場(だよね)に、飢えに苦しんで今にも死にそうな子どもがいる。それを見つけたおじさんが、空からあんぱんを「落とす」んですよ。どうしろというの? 落下点を推測して移動してキャッチしろということ? 上空の風向きを考慮しながら? カブレラが打ち上げたクソ高いセンターフライを追う飯田哲也みたいに? 飢えて死にそうで動けないのに?

 この内容が史実かどうか知らんけど、なんでこんな設定にしたんですかね。普通に着地して手渡さない理由がわからないんです。なんか、たった2枚だけ見せられた挿絵の2枚目では、中年は女の子とあんぱん食べながら座ってたよな。あれも、一旦あんぱんを空から落として、女の子がそれをキャッチして食べ始めるのを確認してから降りたということなんでしょうか。「よく獲ったね、ヤクルトのセンターは向こう10年安泰だね」とか言ったのかな。言うわけねえだろ。NHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』第118回、振り返りましょう。

「自分のためかも」じゃないんだよ

 昨日も書いたんですが、この「アンパンマン」が小説の形で、大人向けの文芸誌に掌編小説として掲載されることが嵩(北村匠海)の本意だったかどうかがわからないんだよな。ベタでペン入れしてるし、マンガにしたかったかもしれないのに、2色刷りのイラストとして世に出ることが、作家として「理想の形」だったのかどうか。

 この人は、そうは見えないけど一応「自分はマンガ家であって、自分の本懐はマンガである」という自負がある人なんですよね。そしてさまざまなジャンルで売れっ子としてのし上がって、今やそこらへんの編集者から「なんでもいいから次回作はウチで!」と言われるようになったわけですよね。

 自分で選べるんです。「アンパンマン」が自分の中で大切なキャラクターで、大切な物語であるなら、その発表の仕方についてもう自分で選べる立場にある。

 そしてもうひとつ、嵩がさまざまなジャンルで成功を収めてきたのは、周囲の関係者をクオリティで納得させてきたからです。高知新報やくじらでのマンガからスタートして、歌詞もラジオ台本もリサイタルの構成も映画の美術監督も、すべてクライアントの要求を満たしてきたからこそ世に出ることになった。プロだということです。

 読者や視聴者の目に触れる前に、まずその媒体の責任者をクオリティでねじ伏せなければならない。それは創作にかかわるプロの世界では「鉄の掟」であるはずです。

 今回、編集者はイラストと文字原稿の「アンパンマン」にOKを出していません。自分が作っている雑誌に載せる水準に達していないという判断を、作家の目の前で下しています。売れっ子相手にそれをやるのは、とても勇気のいることです。

 その、プロとプロの世界に素人が割り込んで、「売れっ子の妻」という立場を利用して自分の意見を通して、ゴリ押しで掲載させたのがこの「アンパンマン」なのです。のぶの意見が通ったのは、この人の信念が素晴らしかったり、希望が純粋だったりしたからではありません。ただ「売れっ子の妻」だからです。

 編集者側からすれば、作家との関係性は悪化させたくない。この女に、自分の雑誌の台割に口を出される筋合いは一切ないけれど、作家自身も黙ってるし、今後のことを考えて妥協して掲載しよう。そういう非正規な段取りを経て「アンパンマン」が世に出ることが、ホントに嵩の本意だったのかなという話なんですよ。

 そして案の定、初代「アンパンマン」は各方面から酷評を受けています。最悪の結果ですよ。編集が掲載すべき水準に達していないと判断した作品が、その作家の妻のゴリ押しによってやむなく掲載され、「つまんねー作品が載ってる雑誌」になってしまった。版元の出版社に損害を与えてるんです。「私は好き」とか「いつかみんなに伝わる」とか、そういう話じゃない。嵩も含め、プロが戦っている戦場に素人女が首を突っ込んで、自己満足に利用しただけなんです。

 今回の読み聞かせ会について「自分のためかも」とか言ってたけど、自分のため以外なんなんだよ。嵩は初代「アンパンマン」から3年たって、続編に手も付けてないよ。本人もその出来に満足してないよ。その、自他ともに失敗作と認める「アンパンマン」を当てこすりみたいに毎週毎週子どもたちに読み聞かせるって、控えめに言って頭おかしいんじゃねえかと思いますよ。しかも「来週も来てね」とか言ってたな。どんな嫌がらせだよ。

 この子どもたちだって、八木ちゃん(妻夫木聡)が集めてるってことは孤児なんだろ。「パン食わせてやるからこのババアに付き合ってやってくれ」ってことじゃん。明らかな搾取じゃん。

 あとさ、まさかとは思うんだけど、読み聞かせ会の序盤で「アイスのほうがいい」って言われて、数年後には「アイスやキャンディーもどうこう」って言ってたけど、まさかとは思うんだけどさ、書き足してる? 作品に? 妻が?

 のぶがこのドラマの中で「アンパンマン」という作品の形を変えることができるとなると、いよいよですよ。これまで、やなせたかし氏と小松暢氏に対してひどく冒涜しているなと感じたことは幾度もありましたが、いよいよ本丸の「アンパンマン」そのものにまで手が伸びることになるのかと。乞うご期待だね。

それに比べれば些細な話

「詩とメルヘン」の1号について八木ちゃんが「好評だよ絶賛だよ」と言っていて、そのあとに「成功しなかったら2号はない」とか言ってるんだけど、これどういう意味なの。

 なんか、「いちおう成功をたたえた上で、冷静に釘を刺すセリフを書いて」というプロンプトを投げられたAIが吐いたセリフみたいで気持ち悪いんだよな。まあ、些細な話だけど。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/09/10 20:14