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『あんぱん』第120回 現アンパンマン誕生のきっかけは決まってなくてもミホ登場は決まっていたという衝撃

今田美桜(写真:サイゾー)
今田美桜(写真:サイゾー)

 ツダケンは一度クランクアップしたのに、予定変更で呼び戻されたそうですね。そして、そのツダケンが死ぬことがきっかけになって、おじさんのアンパンマンは、あんぱんでできた顔を千切って分け与える最終形態のアンパンマンに変更される。

『あんぱん』「チリンの鈴」を書いていたという衝撃

 この「顔を千切って分け与える」という設定がアンパンマンというキャラクターのインパクトと哲学の両方を背負っているわけで、このキャラを唯一無二の存在へと導いた肝要中の肝要なわけですけど、じゃあどうするつもりだったんだろうと思うわけですよ。

 おじさんアンパンマンが現アンパンマンになる過程を、どう描くつもりだったんだろう。ツダケンを一度クランクアップさせるとき、どんなプロットが存在していたんだろう。

 このキャラ変の過程がツダケンの再登場と死をきっかけとしたものなら、ちょい前まで何も決まってなかったことになるんですよね。アンパンマンが顔を千切ることになるきっかけが、設定されないままNHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』が撮影されていた。

 一方で、中園ミホ氏本人が少女として登場して柳井嵩(北村匠海)にハッパをかけることは最初から決まっていた。

 倉崎クン、これは怒ったほうがいいよ。これは君が本当に撮りたかった「やなせたかし物語」ではないだろう。君にも立場があるから全肯定するしかないのはよくわかる。表向きを取り繕うのは大変だと思うけど、これはさすがに怒ったほうがいい。ひどいことになっている。

 第120回、振り返りましょうね。

ツダケンの払った“犠牲”の形

 悲しいのは、ツダケンこと東海林編集長はいろいろ誤解してるんだよな。

 面接でのぶ(今田美桜)と嵩が同じようなことを言ったから、この2人は魂を共有していると感じた。そういうことになっている。

 本当に2人がバラバラに、偶然同じ内容を語ったとこの人は誤解しているけれど、実際にのぶが面接で語ったのは直前に復員してきた嵩の受け売り、パクリの思想でした。よくわからない理由で教師を辞めたばかりののぶの中には「逆転しない正義」などという考え方は一切なかったし、マスコミで働く動機もなかった。

 終戦直後、みんなが復興に向けてガレキを片付けている中、立派なお屋敷でラジオで歌謡曲を聞きながら速記を練習し、「女ながらにええ仕事に就きたい」とだけ考えていた。そして暇つぶしに闇市を訪れ、他人の苦労話を盗み聞きして活力を得ていた悪趣味な人間だったのです。

 そして、自らの死を悟ってのぶに会いに来たということは、東海林はのぶの人生を「逆転しない正義を探し続けてきた」と理解しているということです。

 実際、のぶという人は議員秘書をクビになってからというもの、もう何十年も「逆転しない正義」を探していません。雇い主だった代議士・鉄子(戸田恵子)から「ここにはあなたの探しているものはない」と告げられ、だったら自分の足でその「探しているもの」を探しに行くのかと思ったら、鉄子に紹介された就職先で安穏と過ごし、やることといえば多忙の夫に「マンガを描け」と言うだけ。

 そうして「逆転しない正義」を探す素振りさえ見せないままその就職先から追い出されると「自分は何者にもなれなかった」などとむせび泣き、むせび泣いたかと思ったら夫の稼ぎでマンションに茶室を作り、優雅にお茶の教室を開いている。

 編集長、のぶはあんたを裏切り続けてきたんだよ。あんたが人生の最期に会いに来るような人じゃないの。あんたにも家族がいるだろう。もっと家族を大切にしなさい。

 あと速達って何? 急ぎなら電話だし急ぎじゃないなら普通郵便でいいだろ。死んだあとでさえこんな雑な扱いされて、ホントにかわいそう。急に呼び戻されて重たい芝居させられて適当に扱われて、せめてNHKさんギャラは弾んであげてちょうだいね。

「このおんちゃんが好き」とはなんだったのか

 そうして編集長がのぶたちの人生を皆目見当違いしたまま来訪したことを「自己犠牲」であると曲解し、いよいよ柳井嵩は顔を千切るアンパンマンを生み出しました。

 実際に描いたのは嵩なんですが、嵩は編集長の話を聞いてません。初代アンパンマンや「チリンの鈴」、そのほか嵩の作品について編集長がどう思っていたか話を聞いたのはのぶであって、嵩は急いで帰ってきたけど、すぐ編集長は出て行ってしまいました。

 つまり嵩は、「編集長が来た」「すぐ死んだ」という事実と、琴子という第三者が速達にちょちょっと伝聞で書いたその最期の様子だけに基づいて、あのキャラクターを生み出したということです。

 世紀の発明の瞬間にしてはあまりに軽すぎるし、意味がわからなすぎる。

 そして、のぶはこのキャラ変更をあっさりと受け入れることになります。もう何十年も「このおんちゃんが好き」「中年で太っているから好き」「カッコ悪いところが好き」と言い続けてきた人間が、スマートな身体とあんぱんの顔を持つ、初代とは似ても似つかないデザインを見て「うち、こういうヒーローをずっと待ちよった気がする」と言って涙を流す。また「ずっと」だよ。永井真理子かよ。

 あと、確か第1話の冒頭で嵩はおんちゃんのアンパンマンを描いてたような気がするけど、あれはどの段階のどの瞬間だったのかしら。もう通り過ぎてるよね。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/09/12 14:00