CYZO ONLINE > 芸能の記事一覧 > 『あんぱん』何も承服していない

『あんぱん』第121回 何も承服していないまま「アンパンマン」は高く飛ぶ だから何?

『あんぱん』第121回 何も承服していないまま「アンパンマン」は高く飛ぶ だから何?の画像1
『あんぱん』主演の今田美桜(写真:サイゾー)

 NHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』も、残り2週となりました。

『あんぱん』誕生のきっかけが決まってなかった

 昨日のボクシング見ました? もうね、あらゆる勝ち筋を失い、呆然と立ち尽くすしかないムロジョン・アフマダリエフみたいな気分ですよ。終盤を迎え、まるで手応えのないまま、やりたいことだけやられて時間が過ぎていく。

『おむすび』も出来はドイヒーだったけど、まだ視聴者に投げかけてくるものはあったような気がするんですよね。視聴者側にも、何事かを問われているような感触はあった。『あんぱん』にはそれがないんです。圧倒的な自己完結。エゴの押し付け。そう考えると、中園ミホ氏は朝ドラ界の井上尚弥なのかもしれません。

 違うか、絶対違うな。第121回、振り返りましょう。

我々は何も承服していない

 今日は『アンパンマン』が未就学児に受け入れられていく未来への萌芽が描かれました。なぜ受け入れられていくかといえば、「字が読めないちっちゃい子は丸い顔が好き」だからだとのぶ(今田美桜)が言ってました。

 こいつ見た目の話しかしねーのな。初代のデブおじは「太っててカッコ悪いから好き」、スマートになって顔が丸くなったら「こんなヒーローを待ってた」。なんかさ、のぶこそが『アンパンマン』の最大の理解者だったという描き方をしているわりに、のぶという人が本当に『アンパンマン』を理解してるのか疑ってしまうわけですよ。『アンパンマン』がこの後ヒットするという史実を担保にしてようやく成立する描き方であって、その「好き」にのぶという人の人生が反映されている感じがしない。のぶ、2代目アンパンマン見て泣いてたけど、なんで泣いてたのか全然わかんない。

 そして我々は、このアンパンマンについて何も承服していないんです。

 マンガを描きたいのに描けないと困っていた嵩(北村匠海)が、のぶに「マンガを描け」と詰められて生み出したアンパンマン。それがラフのまま何年も放置されたことも承服していないし、「嵩、ついにマンガを描く!」というストーリーライン上に現れたアンパンマンが一度もマンガとして描かれていないことも承服していないし、その初代アンパンマンが最後に撃ち落されたけど死なないことも承服してないし、なんで撃ち落される展開にしたかと問われた嵩が「正義を行う側にも覚悟がいる」とか言ってたのも意味わかんないし、その後、その「正義を行う側の覚悟」が「撃ち落されること」ではなく「ボロボロのマントでヨロヨロ飛ぶこと」にすり替えられたことも承服していないし、そのすり替えを持って「逆転しない正義をついに獲得した」というドラマの根幹にかかわる目的がシレっと達成されていることも承服していないし、それをツダケンを引っ張り出して言わせたことも承服してない。

 我々が何も承服しないまま、アンパンマンは「高く飛ぼう」としているわけです。あっそ、勝手に飛べば? としか言えないよ。

今日も承服していない

 今日も、我々が承服していないキューリオの学童みたいなところで、のぶがいつの間にか読み聞かせを辞めていたことを承服しないでいると、八木ちゃん(妻夫木聡)が「読み聞かせを再開せよ」と言い出します。いや、もともとすげえ読み聞かせすることにこっちは違和感があって、それでもようやく読み聞かせすること自体を承服しようとしていたら、勝手に辞めて、勝手に再開する。知らんよ、知らんのよ、のぶさん。

 そのほか、蘭子が全然戦争体験の取材をしないで「詩とメルヘン」の編集部に入り浸ってることも、八木ちゃんとたっぷり時間を使って指スリスリしたりなどのイチャコラがあったのに何事もなかったように仕事をしてることも、もう知らんよ。わかりたいとも思わない。

嵩ビジネスルーチン発動

 今日も嵩の仕事ルーチンが発動しましたね。「アンパンマンを『詩とメルヘン』に連載しろ」と言われて「子ども向けだから」とためらい、説得されて連載する。「アンパンマンをミュージカルにしろ」と言われて「大人向けだから」とためらい、説得されて制作に入る。何これ、ためらわないと仕事を受けちゃいけない法律でもあんの? ためらい国の国王なの? それにしちゃ新雑誌の刊行とかのぶに関係のないところではどんどんためらいなく仕事を広げてるみたいですけど。

 結局、この人の仕事に対する情熱だったり自分の中での哲学だったり、そういうものも一切見えなかったですね。のぶに関係あることはためらう、関係ないことは勝手にやる。金持ちになる。いずみたく、永六輔、そして手塚治虫、そういう超のつく有名人とタメ張ってモノづくりをやってた人という凄みがまるでない。裏でウジウジしてるのはいいけど、表向きどう振る舞っていたのかがまったく描かれないから、キャラクターとしての厚みどころか、中身そのものが何もない。

 なんかさ、普通にやなせ氏と文通とかしてない脚本家にやらしたほうが真面目にいろいろやったんじゃないのこれ。どうにも、個人的なつながりがあったことが悪影響にしかなってない気がするよ。要するにナメちゃってるんだよ。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

どらまっ子AKIちゃん朝ドラ『あんぱん』全話レビュー

『おむすび』最終回もダメダメ

どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/09/15 14:00