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『あんぱん』第128回 結局のところ「のぶが信用ならないヤツである」ということがすべてです

今田美桜(写真:サイゾー)
今田美桜(写真:サイゾー)

「前にも一度、ドラマ化の話があってね。設定を変えてくれって言われたんだ。今田美桜の顔をした妻が、幼なじみの愛国少女にさせられそうになって」

「僕は、妻を傷つけられたくないんだよ」

 なんて、やなせさんの声が聞こえてきそうでしたね、NHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』。まあ死人に口なしですからドラマ化はされてしまいましたし、その妻はどらまっ子AKIちゃんらネット上の心無い声によって傷つけられることになってしまいました。

『あんぱん』戦争の悲しみを語る資格はない

 今日の冒頭、嵩(北村匠海)が恐れていたのはこういうことなんじゃないのかな。こっちだって別に統括クンや中園氏が意図的にのぶさん(今田美桜)を貶めようとしているわけじゃないことはわかってるんです。いいものを作ろうとしてがんばったんでしょう。それが結果として、あんまりいいものにならなかった。画面によくないものが映っているから、よくないと言うしかない。

 のぶの設定を幼なじみの愛国少女に変更したことだって、それ自体が悪いわけじゃないんです。作り手側にはそれなりの必然性があったんだろうけど、その必然性を創作によって表現することができなかった。むしろ、のぶという人物にクソデカ矛盾を抱えさせることにしかならなかったことに対して、アレコレ申しているわけです。

 今日だってこれから「ここが変だよ、のぶさん」と書かなきゃいけない。劇中ののぶさんがステキな人だったら「ここがステキだよ、のぶさん」って書くけど、変だから変だと書くしかない。それが実際に小松暢さんを傷つけることになったとしても、それはそれでしょうがないよねえ。

 そんなわけで、第128回、振り返りましょう。

あと3回がんばる

 一昨日、こういうのはマジメに見ちゃいけないと書きましたが、もうあと3回なのでね、マジメにがんばりますよ。

 冒頭、嵩がアニメ化を断ったのは、過去に不本意な改変を求められたことがあるからということでした。

 打診してきたプロデューサー武山は確かに「アンパンマン」を愛しているかもしれないが、テレビというのは“上”がしゃしゃってきて勝手なことをやり始めることがある。だから、武山ひとりが情熱を持っていても意味がない。

 そういう、テレビの構造的な問題を身をもって体験したことがあるから、相手がだれであれ、とにかく「アニメ化」を許可することはできない。そういう話だったよね。その「アニメ化を打診された過去」も今日になって急に出てきた後出し設定で、卑怯なやり口だと思うけど、まあそれはいいや、このドラマの作り手が卑怯者であることはとっくにわかってる。

 で、武山が企画書を書き直してきて、なぜかのぶにその情熱を改めて伝えて、のぶが「武山ならアンパンマンを預けられる」という判断を下して、それを根拠に嵩はアニメ化を許可する。

「武山ひとりの情熱ではどうにもならないことがある」と言って断った話を、「武山が情熱的である」という理由で承諾する。武山が再訪する前後でテレビ局の構造は何も変わっていないから、嵩の心変わりの理由が「のぶがそう言ったから」しかない。結果、嵩という人が本気で「アンパンマンを変えられたくない」と思っていたのかどうかも怪しくなってくる。

 スティーブン・キングはさ、全部の小説を妻に読ませるためだけに書いたといいます。妻がいいと言えばいいし、よくないと言えば出さない。そういう評価軸を妻にだけ置く作家がいたっていいし、やなせたかしがそうかどうか知らんけど、柳井嵩をそういう作家として描くこと自体も別にいいんです。

 問題は、視聴者としてその評価軸をまるで信用できないということなんです。のぶという人の人生そのものに説得力がない。そして、「そうかキングはそうだったのか、きっとしっかりした妻だったんだろうな」と想像する余地もない。幼なじみの愛国少女にしてしまったことで、『あんぱん』はのぶのことをしゃべりすぎた。この人はブレる人で、信念のない人で、ウソつきであると繰り返し繰り返し強調されてきた。

 昨日のぶさん、自分が愛国の鑑だったころを指して「周りに流されて、その色に染まってしまった」と言いましたね。あなたが愛国に染まったのは先生や友人に流されてではなく、豪ちゃんが兵隊に取られたことがきっかけでしたよね。こういうウソを平気で言う人間として描いて、そのウソつきの判断を基準にして物語が進行していくから、全部ウソに見えてくるんです。

 結果として、このドラマを見ながら「のぶのことをもっと知りたい」「のぶを愛したい」と思っていた視聴者ほど、のぶを嫌いになっただろうな、不快になっただろうなと思うんですよ。だから、マジメに見ちゃいけないんだ。そういう話です。マジメに見てると、歌詞の打ち合わせに自分の麦茶まで用意して参加してるのぶに対して「誰かコイツをつまみ出せ!」という感情しか出てこないのよ。

2年

「アンパンマン」をアニメ化することになってから、実際に放送が始まるまで2年かかったんだそうです。言うまでもなく「アンパンマン」メジャー化のきっかけはテレビアニメであって、最初は乗り気じゃなかった嵩くんが情熱を注いで、それが結実するまでの2年です。その間には最初に危惧した上層部の介入があったかもしれないし、絵本をアニメ化する難しさもあったかもしれない。

 何も言うことねーのかよ、と思うわけですよ。何か言ってくれないか。まだ関係者だってたくさん生きてるだろ。そこにロマンがあったはずだろ。濃密な2年を空白の2年として描く意味がわからないよ。

 結局「手のひらを太陽に」の歌詞も、「アンパンマン」も、どんな風に生まれたのかは一切描かれませんでした。アンパンマンマーチの歌詞は寛(竹野内豊)の受け売りで、それが受け売りかどうかも曖昧に誤魔化されました。そういや寛が死んだとき、嵩は空に向かって「父さん」とか言ってたな。そんで戦争に行くときは寛の遺影に向かって「おじさん」って話しかけてたな。もうそんなのばっかですわ。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/09/24 14:00