『あんぱん』第129回 ヒロインが「夢が叶った」と言ったとき、「こいつの夢って何だっけ?」と思っちゃう絶望

NHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』も、今日を含めて残り2回です。
ホントにどうしようもないドラマだったなと感じるのは、今日のぶさん(今田美桜)がお父ちゃんの帽子に向かって「うちの夢はアンパンマンが叶えてくれたみたいや」と言ったとき、「この人の夢ってなんだっけ?」と思ってしまったのよね。
なんだっけ。
「子どもらぁに体操を教えたい」から始まって、「兵隊さんたちを支えたい」があって、マスコミに就職を決めたときは特に志はなかったよな。それから戦災孤児座談会とかやって「子どもらぁを救いたい」的な感じになったかと思ったら、次は確か「東京に行きたい」が出てくる。
で、東京に来たら「逆転しない正義を探したい」とか言い出して、意味不明すぎて薪鉄子事務所からお払い箱になって、その後は特に逆転しない正義を探すこともなく、旦那に「マンガ描け」と迫る以外、何も考えなくなった。
で旦那がマンガ描き始めたら「私は何者にもなれなかった」と言ってむせび泣き、あとは旦那の仕事の尻馬に乗っかって、折を見て手柄を掠め取るようなことばかりしていた。
「逆転しない正義」についてはアニメ化以前、瀕死のツダケン編集長が訪ねてきたときに「のぶ、おまえは逆転しない正義を見つけた」とお墨付きを与えていたので、すでに獲得していたことになってる(これも全然意味わかんなかったけど)。
だとすれば今日の「夢が叶った」というのは、アニメ化によってのぶさんが「何者かになれた」ということになってしまうけど、大丈夫なのかな。自分の夫がヒット作を生んだことによって、妻が「私は何者かになれた」と自覚するならば、それは「完全に私のおかげ、『アンパンマン』は私が作ったも同然である」と宣言していることと同じだし、それはもう思い上がりも甚だしい、厚顔無恥の極みですよ。
それとは別の話として、このドラマが「アニメ化=成功=達成」としていることにも違和感があって、アニメ制作中の嵩(北村匠海)は絶賛お仕事の真っ最中なわけで、毎日いいものを作ろうとがんばってる途中なわけですよね。この祝福ムードは、嵩本人も含めて周囲の人間たちが「代表作のない嵩」をずっと蔑んでいて、代表作ができたから祝福しているという構図を表現していることになり、結果として「アンパンマン以外の仕事は意味なかったよね」と言ってしまっていることになる。
別に売れることが目的でもいいけどさ、半年間も見てきたドラマが「売れたからOKハッピー」という結論にたどり着くなら、まったく趣がございませんですよね。
第129回、振り返りましょう。
みんな出てきた
元秘書の世良さんね、「あの嵩さんが」とか言ってましたけど、世良さんも鉄子(戸田恵子)も嵩とそんな絡みなかったよな。八木ちゃん(妻夫木聡)の雑貨屋の前で嵩と鉄子が鉢合わせたシーンがあって、あれは確か結婚からけっこう経ってた時期の出来事だったと思うけど、のぶさん、鉄子に嵩を紹介してもいなかったんだよな。最後の最後に引っ張り出されて、ひとことウソを言わされる世良さん、あまりにも不憫です。
そして先生とうさ子も再登場。母校に嵩デザインのキャラクターを届けに行くのぶさんですけど、どのツラ下げてって感じですよ。
のぶさんは軍国教育をしていた自分に教壇に立つ資格はないと言って教師を辞めたんだよね。当時、軍国教育をしていたのはのぶさんだけじゃないですよね。目の前にいる黒井とうさこなんて、軍国教育の急先鋒だったわけですよね。
のぶさんが「軍国教育をしていた自分に教壇に立つ資格がない」と言うなら、黒井とうさ子にもその資格はないと思ってるってことでしょう。その資格がないのに何十年も教壇に立ち続けた2人に対して、何か思うところはないの?
しかも一昨日には「周囲に流されて軍国教育をしていた」という被害者ムーブを発動してましたけど、だとすればあなたを軍国主義に巻き込んだ周囲はこの2人でしょう。この2人こそ、あなたの人生を狂わせた加害者でしょう。自分でそう言ったでしょう。どういうつもりでイラストなんか寄贈しに来てんだよ。旦那が有名人になったからチャラか? そんなもんか? ここにきてまた、戦争についての『あんぱん』のグロテスクなほど軽薄な思想が明らかになっちゃってましたね。
八木と蘭子のアバンチュール
指輪はいいけどさ、傘の下で指すりすりしてからのここ数十年、この2人はどういう関係だったわけ? 蘭子が理由もなく、ただキューリオの事務所に「いる」ということだけしか言ってこないで、もうドラマも終わるからプロポーズさせますって、お粗末すぎやしませんかね。
あと急にキューリオの理念を説明しだしたところは、さすがに笑ってしまいました。たまに説明マシーンになったよね、蘭子。おつかれさまでした。
星子とやら
古川琴音が何か託されてましたけど、なんだか知りませんよ。たぶん、のぶさんの仕事を引き継ぐ者として指名されたんだろうけど、そもそもこの柳井事務所でのぶさんがどういう役割なのか全然わかりませんので、どれほど重要な役職を振られたのかもわかりません。次の打ち合わせからは琴音が同席して担当者を恫喝したりするのかな。
琴音、何十年後かにNHKが「のぶさんをモデルに朝ドラをやりたい」と言って訪ねてくるから、絶対に断るんだぞ。
それとのぶさん、琴音のことを「みんなが見向きもしないときからアンパンマンを愛してくれていた」とか言ってたけど、琴音がミュージカルの初日に姿を現したときに「席を埋めに来たのね、気を遣わせたわね」みたいなこと言ってたよな。琴音はわりと初期からアンパンマン愛を披露していたけど、のぶさんあなた、その琴音の気持ちに全然気づこうとしてなかったよね。むしろ「私だけが後の大ヒット作である『アンパンマン』の価値に最初から気付いていた者である」みたいな、したり顔してたよね。今さら琴音に「みんなが見向きもしないときから」なんて言っても、それはウソだよね。またウソだね。ウソしか言わねーなこいつ。明日死ぬのか。ご愁傷様です。
(文=どらまっ子AKIちゃん)