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『宝島』『ホウセンカ』起用続くピエール瀧、薬物逮捕もほぼノーダメ 「消えなかった」存在感とラッキーな“事情”

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ピエール瀧(写真:サイゾー)

 2019年3月に麻薬取締法違反で逮捕されたミュージシャン・俳優のピエール瀧(58)。不祥事後も活動にあまり影響はないように見え、今秋は9月19日に全国公開された映画『宝島』に出演したほか、10月10日公開のアニメ映画『ホウセンカ』では主役の声優に抜擢。9月28日にはバラエティ番組『メシドラ[F1]  兼近&真之介のグルメドライブ』(日本テレビ系)にゲスト出演し、ついに地上波復帰を果たした。

広末涼子容疑者逮捕の裏で…

 芸能人が薬物により逮捕されれば、その後のキャリアに多大な影響を及ぼすのが“通例”だ。最近では、清水尋也被告(26)の騒動が記憶に新しい。今年9月、麻薬取締法違反で逮捕された清水被告は、ドラマ『19番目のカルテ』(TBS系)が最終回の出演シーンを総カット。また10月スタートのNHK連続テレビ小説『ばけばけ』は降板になった。そのほか、2020年に俳優・伊勢谷友介(49)が同容疑で逮捕され、NHKオンデマンドから過去出演作が次々と削除される事態となったこともある。

 一方で瀧の場合、逮捕当時から異様な空気が漂っていた。

不祥事発覚直後に公開された『5作品』

 逮捕後は、約8年半続いていた冠番組『ピエール瀧のしょんないTV』(テレビ朝日系)が打ち切り、連続テレビ小説『いだてん〜東京オリムピック噺〜』(NHK)や映画『アナと雪の女王2』オラフ役などで降板があったものの、映画『麻雀放浪記2020』、『宮本から君へ』、『引っ越し大名!』、『ロマンスドール』、ウェブドラマ『全裸監督[F2] 』(『ロマンスドール』は2020、他すべて2019)の5作もが予定通りの公開となったのだ。

 出演が決定されていた作品の公開だけでなく、ウェブドラマや映画では継続して起用されてきた。Netflix作品に限っても『全裸監督』を皮切りに、現在まで年に1本ほどのペースで参加、『地面師たち』(2024)の完成報告会では“ネトフリ俳優”と紹介される一幕もあったほどだ。

 有料配信系はスポンサーのある地上波よりも制作の自由度が高く、“不祥事俳優”の起用がされやすいとはいえ、誰しもが活路を見出せるわけでもない。前出・伊勢谷は、2024年公開の映画『ペナルティループ』で約3年ぶりの俳優業復帰を果たすまで、配信系を含め他作品への出演はない(撮影済みだったものを除く)。

 これまでにもよく指摘されてきたことだが、なぜ瀧は“禊”が少ないのか。一体、禊の期間や起用の可否にはどういった基準があるのか。メディアの社会的な立ち位置と、映画業界という両視点から考察する。

勝新太郎のパンツ会見も 昔のほうが不祥事に「ユルく」見えたワケ

 芸能人のスキャンダルは、大きく2種類ある。身内トラブルや不倫など、いわゆる法的責任のないものと、性犯罪や薬物所持のように法を犯したものだ。いずれもネガティブなイメージを引き起こすとあって、起用や出演には難色が示される。

 薬物所持に関しては「性犯罪や暴力と異なり“他人に迷惑をかけていない”ため、仕事に影響させなくていいのでは」といった意見も絶えないが、毎日放送(MBS)元プロデューサーで、同志社女子大学でエンタメ業界を中心としたメディア研究を指導する教授・影山貴彦氏は「芸能人の公人性」を指摘する。

「犯罪なので、“誰にも”迷惑をかけないということはない。また公のメディアに露出する芸能人は社会的・教育的な役割を担い、その責任を負わざるを得ない側面があります」(影山氏)

 犯罪である以上、ダメなものはダメ――当然、それは今も昔も変わらない。ただし、かつてはスターの非日常的な言動を大衆が“面白がる”風潮があったのも事実だという。

「1990年、勝新太郎さん(1997年没、享年65)が薬物をパンツの中に隠し持っていたとしてハワイの空港で現行犯逮捕された時のこと。勝さんは記者会見で『今後は同様の事件を起こさないよう、もうパンツを履かないようにする』と発言し、批判を煙に巻いたことが“薬物パンツ事件”として今や面白おかしく、伝説的に語られています。

 もちろん、当時だって薬物はアウトです。ただ、昔は芸能人といえば雲の上の存在で、一般人とは大きな隔たりがあった。危ない世界を知っているのも芸能人という“特別枠”だからで、何か非日常な姿を見せてくれる存在として受け入れられ、視聴者には『勝さんならやりかねない』という声も多かった印象です」(同前)

 しかし現代ではインターネットやSNSの台頭もあり、芸能人との距離が『近く』なってきた。ブログやSNSで見せる日常生活や配信ライブによる素顔・生声などは、ファンからの親近感を醸成するには有効だが、そうなると今度は「芸能人にも一般庶民と同じ社会規範が求められるようになる」(同前)。

 芸能人と一般人の“距離感”を象徴した事例として、9月10日、お笑いコンビ・チョコレートプラネットの松尾駿(43)がYouTubeで『素人はSNSやるな』と発言し、「お前だってお笑い以外素人だろ」などと炎上を巻き起こした件が挙げられる。

「もともと関西には、芸人が一般視聴者のことを“素人”と呼ぶ文化があります。西川きよしさんらがMCを務めた『素人名人会』という一般参加型の演芸番組はラジオ放送期を含めると、1955年から2002年まで半世紀近く愛された長寿番組でした。今でも大御所のなかには一般人のことを“素人”と呼ぶ人がいます。連綿と芸人界で受け継がれてきた文化が、現代社会にはそぐわなくなっていることが浮き彫りとなりました」(同前)

復帰のカギを握るのは「裏切られ感」レベルと「制作側の好感度」

 芸能人と視聴者の距離が縮まったことで、より重視されるのが「好感度」だ。瀧の“禊の期間”が比較的短かった理由として、影山氏はズバリ「“受け手=視聴者(ファン)”と“送り手=制作側”双方の好感度が高い」ことを挙げる。

「そもそも芸能界には、復帰に関する明確な基準がなく、“好感度”によるところが大きい。好感度の種類にもいろいろありますが、スキャンダルともっとも相性が悪いのは清純派や、誠実さを売りにしていたタレントです。たとえば今年4月に田中圭さんとの不倫疑惑が報じられた永野芽郁さんは“清純派キャラ”だったため受け手の『裏切られた感』が強く、アレルギー反応を引き起こしました。

 瀧さんの場合、そもそもイケメン枠でもなければ疑似恋愛的な売り方をしていたわけでもなく、どこか型破りな部分がある兄貴分のような頼もしさが魅力だった。『裏切られた感』が低かったうえ、送り手(制作側)にとっても、独特な雰囲気を持つ役者として重宝されてきた。芸能界が“人”で成り立つ業界だからこそ、周囲のスタッフに愛されているというのは、復帰への大切な要素です」(同前) 

“不祥事俳優”、禊が長くかかるケースとは?

 では興行面において、瀧の出演映画を公開するリスクはなかったのか。業界事情にも詳しい映画評論家・前田有一氏は、「性犯罪は一発アウトだが、薬物不祥事は必ずしも興行成績に直結しない」とその傾向を語る。

「伊勢谷(友介)さんのケースでも、当時制作中だった吉永小百合さん主演の『いのちの停車場』(2021)という作品が予定通り公開。興行収入10億円を超え、『北京国際映画祭』にノミネートされるヒットとなりました」(前田氏)

 くわえて、前出・影山氏が指摘したように、瀧は元来「個性派俳優」あるいは「性格俳優」的な側面が強い。

「イケメンやアイドルなど“推し”の対象になるような人は、その人格も含めて推し活がなされるので、幻滅させるようなスキャンダルのダメージは大きい。その点瀧さんは強面や人生に苦しんでいるような役どころが得意で、そうした俳優のプライベートと作品の評価は切り離して捉えられます。作品によっては公開を見送らないでもリターンがあるという制作側の判断で、事実、Netflix『全裸監督』は大ヒットし、瀧さんはシーズン2も続投。『引っ越し大名!』も興収11億円超えを記録しています(同前)

時代を味方につけ、瀧が「消えなかった」最大の理由

 前田氏は、瀧が“消えなかった”最大の理由として『全裸監督』の記録的な大ヒットを挙げる。折しも当時はコロナ禍による巣篭もり需要で、動画配信系のサブスクが一気に浸透した頃。配信時代への移行と、瀧が“ネトフリ俳優”としてキャリアを積み始めた時期がピッタリと重なるのだ。

「地上波のコンプライアンスが年々厳しくなるなかで、瀧さんは配信コンテンツにしか出られなかったともいえますが、タイミングよく配信系のほうが話題性を獲得する場になった。結果として、シームレスに活動の場を広げる格好になりました。また、配信系ではドキュメンタリーが人気ですが、ドラマや映画も人間の内面や業を描く話が得意。瀧さんはそうした物語に欠かせない高圧的、情緒不安定、凶悪といった一面をもつ役柄をやらせたらピカイチで、かつしっかり数字を残していることも継続起用への一助でしょう」(同前)

 今秋公開の2作の映画でも、瀧の“人生”を滲ませた演技は光る。

「『宝島』では戦後の混沌とした無法地帯感と、アメリカの占領軍の影響がすごく強い時代を生きた人の“顔つき”を見事に表現していました。また『ホウセンカ』は永遠の命を持つ、喋る花の役。降板となったオラフ以来の声優で、人間社会の歴史を見守ってきたホウセンカ独特の達観した雰囲気が抜群です。“社会の尺度”から外れ、自由に生きている植物という役がまた瀧さんの人生を思わせ、しっくりきます」(同前)

 求められるまま地道に活動を続けた瀧が、満を持して地上波復帰を果たした『メシドラ』。Xでは、〈瀧の演技もっと見たい〉〈薬は悪いけど、ピエール瀧さん好きだから、また見れるのは純粋に嬉しい〉などといった声が上がり、「ピエール瀧」「メシドラ」がトレンド入りするほどの大反響となった。さて、地上波ドラマで瀧の姿が見られる日はいつだろうか。

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(取材・構成=吉河未布 文=町田シブヤ)

町田シブヤ

1994年9月26日生まれ。お笑い芸人のYouTubeチャンネルを回遊するのが日課。現在部屋に本棚がないため、本に埋もれて生活している。家系ラーメンの好みは味ふつう・カタメ・アブラ多め。東京都町田市に住んでいた。

X:@machida_US

最終更新:2025/10/06 12:00