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ファンの熱量はビジネスの規模感を超えるか? 「DOWNTOWN+」に立ちはだかる高い壁

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ダウンタウン(写真:Getty Imagesより)

 吉本興業が独自のプラットフォームで展開する「ダウンタウン」の松本人志と浜田雅功によるインターネット配信サービス「DOWNTOWN+(ダウンタウンプラス)」が11月1日からいよいよサービスを開始する。

 吉本の公式サイトによると「DOWNTOWN+」は定額でサービスを利用できるサブスクリプションで月額1100円、年額1万1000円(いずれも税込み)の2つのプランを用意。

「ダウンタウン」と「松本人志」、「浜田雅功」という3つのカテゴリでコンテンツを配信していくそうで、「初めに、松本人志カテゴリーにおいて、松本がプロデュース・出演する新コンテンツと、各カテゴリーの過去のテレビ番組・映画等のアーカイブ作品の配信からスタートします」とのこと。

 さらに、「松本の新コンテンツは、芸人が参加する大喜利やゲストとのトーク番組など、多彩な企画を準備しています。今後、各カテゴリーの作品を充実させていく予定」としている。

 初日に配信される動画には浜田は出演しておらず、松本のみでの始動となるようだが、同サービスがスタートすることにより松本は24年1月の活動休止以来、約1年10カ月ぶりに復帰を果たすことになる。 

 サービス開始前から話題となっている「DOWNTOWN+」だが、ダウンタウンのNSCの同期でもあるトミーズがMCを務めるMBS『せやねん!』で10月4日放送回でさっそく同サービスに言及。

 番組内で「(有料会員は)まず1万人ぐらいいくでしょう」との専門家の見解が紹介され、売上は単純計算で年間約1億円と説明されると、トミーズ雅は「もっといくよ」と断言。

 さらに、「『ダウンタウン』っていうタレントはボクシングと同じようなレベルで考えて、ボクシングというのは見たい人はナンボ払っても見るから、絶対ペイテレビ(有料配信)にした方がいいんですよ、ボクシングは」や「『ダウンタウンなら払う』って言う人がいてはるから、こういう人は民放やなしに絶対ペイテレビやで」、「井上(尚弥)のファイトマネーが10億(円)になったのよ。これは夢あるでしょう」などとボクシングの世界戦のインターネット配信を例に挙げて力説した。

 もっとも、インターネットやSNS上では「松ちゃんは好きだけど、月1000円払うかと言うと微妙だな」や「コンテンツ次第だけど、『ダウンタウン』のファン層はネット課金にそれ程積極的ではなさそうだから苦戦するかも」といった厳しい見方も見受けられるが、ITライターはこう語る。

「番組では『DOWNTOWN+』の公式Xの登録者が番組放送時点で6万人いることも伝えていました。サービス開始に向けて今後さらに増えることが予想されますが、とはいえXの登録は無料ですし、実際に課金して会員になるのはその内のせいぜい数%ほどでしょう。それに、話題性から当初はそれなりの会員数が集まったとしても、その“数字”をキープするのがこれまた至難の業。月額1100円という価格設定は大手サブスクと比べてもけっして安いものではないですし、ユーザーの期待値が高いぶん、コンテンツの内容や更新頻度に不満を感じたらあっさりとサービスを解約する人も出てくるでしょう。これが月額数百円程度なら『まあ、いいか』と解約せずに様子見の“保留”したりするパターンも期待できるんですけどね」

 確かに、かつてのガラケー時代の低額な月額課金サービスの中にはいわゆる“幽霊会員”によって支えられていたサービスもあったものだ。

 だが、今はガチンコ勝負を求められるスマホの時代、まして月額1000円を超えるサービスとあってはユーザーの目もかなりシビアなものとなりそうだ。

 そういう意味においてはサービスを支える「ファンの熱量」も気になるところではある。

 近年の芸能ビジネスにおいてもいかにコアなファン、いわゆる“太客”を抱えて客単価を上げられるかが重要なファクターとなっているが、ネットビジネスにおいてはその傾向はより顕著だ。

 世間一般的にはそれほど知名度のないユーチューバーやライバーたちが動画投稿や配信、スパチャ、投げ銭などで多額の収益を得られる背景として当人の魅力や活動内容だけでなく、「夢を応援したい」や「自分たちが支えてあげたい」といったファンの熱量の存在もけっして無視できない。

 伸び盛りの若手芸人ならいざ知らず、すでに芸能界の頂点を極めて大成功を収めている今の「ダウンタウン」に対して高い熱量を持って応援するファンがどれだけいるのかも、「DOWNTOWN+」の成否のカギを握りそうだ。

 また、知人の放送作家はコスト面も気になるところだという。

「月額1100円という金額設定が高いか安いかはサービスの内容を見ない限り現時点では何とも言えませんが、仮に有料会員が1万人として年間1億円を超える売上となったとしても、『ダウンタウン』の2人のギャラやコンテンツの制作費を考えるとペイできるかも微妙なところです。他の芸人が参加する大喜利やゲストとのトーク番組なども準備しているそうですが、その場合は当然2人以外のギャラも発生しますし、コンテンツの制作陣には『ダウンタウン』に縁のあるテレビ各局の精鋭テレビマンたちが集結しているなんて話もありますからね。ビジネスの規模感からして年間1億円強の売上では赤字になる公算大でしょう。もっとも、『DOWNTOWN+』に関しては吉本が独自のプラットフォームで展開するサービスとあって厳密な会員数や売上などについては公表しない可能性も高そうですけどね」

 吉本は「DOWNTOWN+」を皮切りに独自のプラットフォームでの配信サービスに本腰を入れるべくコンテンツファンドを組成し、国内外の企業からの出資を含め数十億円規模の資金を調達・準備することを発表している。

 もちろん、今回のコンテンツファンドは「DOWNTOWN+」だけに特化したものではないが、同サービスが万が一にも失敗するようなことがあれば今後の他の芸人によるプロジェクトへの影響も計り知れない。

独自のプラットフォームを構築しての吉本と「ダウンタウン」による今回のチャレンジは地盤沈下が進む芸能界における新たなビジネスモデルの可能性という意味合いにおいても業界内での関心度は高いが、数々の高い壁を乗り越えて成功を収めることはできるのだろうか。

 

(文=三杉武)

三杉武

早稲田大学を卒業後、スポーツ紙の記者を経てフリーに転身し、記者時代に培った独自のネットワークを活かして芸能評論家として活動。「AKB48選抜総選挙」では“論客”の一人とて約7年間にわたり総選挙の予想および解説を担当する。

最終更新:2025/10/20 22:00