映画『爆弾』10月公開 2025年3作連続で主役の山田裕貴、“静”の演技が光る「負のオーラ」

映画『爆弾』が10月31日に全国公開される。主演は山田裕貴(35)。連続爆破事件を起こすスズキタゴサク(佐藤二朗、56)に正面から対峙する警察官・類家役を怪演した。なお山田は、今年下半期には『爆弾』のほか『木の上の軍隊』(7月25日公開)、『ベートーヴェン捏造』(9月12日公開)と計3作もの主演作が公開されている。一気に3作の主演映画とは、一体山田に何が起こっているのか。
「ネチっこくてキモい」役がハマる山田裕貴
特撮テレビドラマ『海賊戦隊ゴーカイジャー』(2011年、テレビ朝日系)で俳優デビューした山田は、『東京リベンジャーズ』シリーズ(2021年~2023年)のようなヤンキーもの、『となりの怪物くん』、『あの頃、君を追いかけた』(ともに2018年)などの恋愛映画に多数出演。女性ファッション誌「ViVi」(講談社)の人気投票企画「国宝級イケメンランキング」では2022年度上半期・下半期の2度にわたってADULT部門1位を獲得し、殿堂入りを果たした“イケメン俳優”だ。
しかし昨今の山田は、“イケメン”とはまったく別の方向性でブレイクの兆しを見せている。前述『爆弾』、『木の上の軍隊』、『ベートーヴェン捏造』というどれもが“イケメン枠”とは遠い役どころなのだ。
特筆すべきは『ベートーヴェン捏造』と本作に通ずる“不気味”な演技。『ベートーヴェン捏造』では、ベートーヴェンに心酔するあまり実像とはかけ離れた“聖なる天才音楽家”へ仕立て上げた秘書・シンドラーを演じ、Xでは〈ネチっこくてキモい山田裕貴が最高〉〈不気味で怖い役を完璧に演じている〉など、言い表せない不穏さを称賛する声が続出している。
近年、山田の演技が光る役どころには“不気味”“キモい”“負のオーラ”といったワードがよく上がる。
たとえば『キングダム 運命の炎』(2023)。山田はギョロ目で禍々しいオーラを放つ趙国の将軍・万極を熱演し、全身から漂う“ヤバい奴”感は、〈万極が放つ負のオーラを三次元でできる俳優は山田裕貴しかいないのでは?と思うくらい似合っていた〉〈いい意味で最高にキモい!〉と好評だった。
なぜいま、山田の“キモさ”が花開き、世間に刺さりつつあるのか。ドラマ評論家の観点から吉田潮氏に、そして本作の監督・永井聡氏に話を聞くことで、その理由に迫る。
イケメンなのに“埋もれ”られる、絶妙な「2.7枚目」感
吉田氏は「ずっと(山田の)“売れ筋”がわからなかった」と、ある種その“突出した特徴のなさ”を振り返る。
「色気はあるしイケメンなんだけど、全力で正統派二枚目枠かといわれると微妙。NHK連続テレビ小説『なつぞら』(2019年)では、吉沢亮さん(31)と並んで主演・広瀬すずさん(27)の幼馴染という重要な役でしたが、女性ファンからキャーキャー言われる役は吉沢さんの方。山田さんは空回りする“三の線”のポジションでした」(吉田氏、以下同)
山田について「影が薄く、『あれに出てたの!?』というものが多かった」という吉田氏。
「熱血漢やヒーロー感あふれる暑苦しい王道系主人公は、守備範囲外。かといってバイプレーヤーでもない。器用だけど、同じ作品に主人公み溢れるキャラクターや圧倒的なコメディキャラクターがいると、影を弱めてきたのかなと」
「冷静沈着で愛想がない“静”の役」という新境地
そんな山田の『ゴーカイジャー』以降の連続ドラマ初主演は『SEDAI WARS』(2020年、TBS系)だ。ひょんなことから日本の未来を決めるバトルロイヤルに巻き込まれた冴えないサラリーマン役で、同年は学園サイコ・ラブコメディ『ホームルーム』(毎日放送)でも主演に抜擢。生徒を四六時中ストーキングするド変態教師を演じた。この頃から、山田は次々に主演を張るようになる。
吉田氏が、山田の“新境地”を感じたのはドラマ『ここは今から倫理です。』(2021年、NHK総合)だったという。同作で山田は、高校の倫理教師・高柳役。暴力や性、ドラッグといったセンシティブな問題を抱える生徒に対して常に冷静な態度を崩さず、問いを投げかける教師を好演した。
「(上から)教えたり諭したりせず、生徒が自分で答えを見つけるまで待つ。無愛想で、誰からも陽気に慕われるタイプではない。ただ『教育として“正解”でも、果たして生徒たちが求めている“答え”なのか?』と、視聴者にとっても考えさせられる演技がしっくりきました。山田さんは相手に気に入られようとして動く“動”タイプではなく、“静”の演技でメッセージを伝える役者なのだ、とこの作品で明確になった印象です」
この頃山田は“固い”とされる職業の役が続いた。同作以外にも『先生を消す方程式。』(2020年、テレビ朝日系)や前述『ホームルーム』で教師役、『特捜9』シリーズ(2018年~2025年、テレビ朝日系)や『ハコヅメ~交番女子の逆襲~』(2021年、日本テレビ系)などでは警察役。ただし教師にせよ警察にせよ、山田が担うのは一辺倒に“正しさ”を振りかざすキャラではない。
「ベースは真面目で、ちょっとだけ殻を破る。力技や破天荒といった、わかりやすい激しさはない。顔立ちが2.7枚目だから、コメディのなかの真面目さ、あるいは真面目さのなかの人間臭さ、どちらにも寄れる。その間の揺らぎがあるのが山田さんという俳優なのではないかと思います」
自分が思っている「正しさ」は、もしかすると他人にとって「正しい」ものではないかもしれない。二項対立が煽られがちな社会で、その「かもしれない」という余白を見失いそうな心の隙間に、山田は滑り込んでくる。“動”ではなく“静”の演技で、揺らぎながら「正しさ」に問いを投げかける──それはまさしく、映画『爆弾』で山田が演じた警察官・類家にも通じる姿勢でもある。
(映画『爆弾』永井聡監督インタビューに続く)
映画『爆弾』
10月31日全国ロードショー!
https://wwws.warnerbros.co.jp/bakudan-movie/
(取材・構成=吉河未布 文=町田シブヤ)