ドラマ初ヒロインで、女教師コスプレ専門で働く風俗嬢に挑戦! 矢野ななか×谷健二監督インタビュー
──矢野さんは、風俗業界で働く女性について、どのように感じましたか。
矢野 言い方は悪いかもしれませんが、自分自身が商品という点では、私たちのお仕事に近い部分があるのかなと思います。特に売り出し方や自分の強みを磨いていく作業は似ているなと感じます。お店のサイトや写メ日記を見ると、それぞれキャラクターが違うから、ハマる人はハマるんだなと。グラビアをやっていると、いろんなタイプのグラビアの子たちがいる中で、「この体型が好き」とか、「この子のここが好き」とか、それぞれ好きになってもらえるポイントがあります。そういう部分では共通点があるなと思いました。ただ、風俗のお仕事を心から好きでやっている子もいると思いますが、大半はお金が必要でやっている。そこが私たちと大きく違うところですね。もちろんお金が第一でやっている人もいるかもしれないけど、それ以上に明確な目標を持って、活動している子が多いですからね。
──夏恋は主人公の新人スタッフ・誠にえこひいきをしてもらうことで多くの客を獲得しますが、その気持ちは理解できましたか。
矢野 店長の権田はえこひいきに怒りますが、そういう手法で売れていく女の子もありだなと思うんですよ。途中で夏恋が嫌な女の子に映るかもしれないですけど、これはこの子なりの戦い方だと感じ取ってもらえるとうれしいですし、逆に「この子ずるい!」と思われても、それはそれで面白い見方だと思います。
谷 今の矢野さんの意見は共感します。芸能界で上に行く近道は、事務所の社長やマネージャーに気に入られることだと思うんです。僕らはオファーする際に、タレントさんと直に話すことはないので、事務所さんが推してくる人を、まずは候補にします。身近にいる人たちが推してくれないと売れないんですよね。それで言うと、主演の倉須洸さんもお付き合いのあるマネージャーさんからの推薦で、オーディションに来てもらいました。

初めてのキスシーンは張り詰めた空間だった
──倉須さんを主演に抜擢した理由は?
谷 倉須さんは2023年にアミューズボーイズオーディション「NO MORE FILTER」でグランプリを受賞していて、写真からも分かりますが、すごくイケメンです。なので、オーディション前に写真を見て役と合わなすぎて、全くピンとこなくて、さすがに無理はあるだろうと思ったんです。でも、実際に会って、芝居をしてもらったらなぜか役にはまったんです。写真から伝わらない本人のパーソナリティな部分もあるかもですが、芝居をはじめてまだ1年だったので、その緊張感がよかったのかもしれません。
──矢野さんから見て、倉須さんはどんな印象でしたか。
矢野 愛されキャラなんですが、ちょっと不器用で初々しいところがあって。お芝居の経験も少なくて。まだまだ不安がある中で、それが誠という役に良い感じで作用していたと思います。年上なんですが、誠のようにフレンドリーに接してくれるから、お芝居についても「こうしたほうがいいかもね」と対等に意見を言うことができました。洸くんも素直に受け入れてくれるから、すごくやりやすかったです。
──撮影現場の雰囲気はいかがでしたか。
矢野 北代さんは事務所の先輩ですし、誠の先輩・矢代を演じた大岩世奈くんも、たまたま過去に同じレッスンに通っていました。知っている人が多い現場だったので安心感とホーム感がありました。
──特に苦労したシーンは?
矢野 基本的に順撮りだったので気持ちを作りやすかったのですが、セットの関係で撮影初日にラストシーンを撮ったんです。なかなか洸くんとのセッションも上手く行かなくて、何度も撮り直しをしました。

──懸念だったキスシーンはいかがでしたか。
矢野 演じながら、すごく緊張しました。私は運動神経が良くないので、キスシーンに限らず、動きがあるお芝居になった瞬間に固まるんですよ。しかも洸くんも緊張していて、張り詰めた空間だったんです。でも、カメラマンさんが良い感じの画角と動きで撮ってくださって。完成した映像を観たら、その緊張感が生々しくてよかったです。すごくリアルで、観ている側も緊張するようなシーンになったと思います。
谷 タイトなスケジュールだったので、キスシーンは「まずは好きにやってみよう」と本番に入ったんです。そしたらカメラマンのカメラワークも良くて、これは一発で撮れるなと確信しました。矢野さんと倉須さんをはじめ、みんなが集中していたので上手くできたんです。
矢野 確かに動きをガチガチに決められていたら、もっとぎこちなかったと思うので、自由にやらせてもらってよかったです。
──コメディでありつつ、全体に切なさも漂うドラマですが、その辺は意識されましたか。
谷 ひょんなことから誠は風俗業界に入ることになって、夏恋に好意を抱くけど、仕事としてお客さんをつけなきゃいけない。いくつかあるテーマの一つとして、いろいろな葛藤を抱きながらも若者が成長をしていく姿をちゃんと描きたかったんですよね。そこに、少しの切なさを込められた気がします。また、最初にしていたスカウトマンの話に戻ると誠はすごく優秀なのかもしれませんね。
──最後に矢野さんからドラマの見どころをお聞かせください。
矢野 ここまで風俗業界のことを理解している監督はいないと思いますし、ちょっと踏み込んだ世界をポップに描いてくれています。その中で、女の子たちがどういう気持ちで働いているのか、それを支えるボーイの方たちがどういう気持ちで女の子をお客さんにつなげていくのか。その姿を見て、「こんなふうに頑張って生きている人たちがいるんだ」と共感してもらえたらなと。個人的に、誠と夏恋が居酒屋でやり取りするシーンが大好きで、洸くんと話し合いながら作りましたし、映像も綺麗なので、そこにも注目してもらえたらうれしいです。

(文=猪口貴裕/撮影=西邑泰和)