『M-1グランプリ2025』振り返り、赤木とバンドのたくろうが笑いを取った夜……【週末お笑い雑話】

今週あったお笑い界隈の話題をピックアップ! ライター・新越谷ノリヲと担当編集Sが勝手にしゃべります。お聞き流しのほどを~。
赤木とバンド、笑い取らんぞ
新越谷 あのね、スタミナパンがですね。
編集S ちょっと待ってください。
新越谷 なんでしょう。
編集S 今年の『M-1』の話で、スタミナパンから入る人いるかなと思って。
新越谷 いいじゃないですか。スタミナパンの話しましょうよ。
編集S まあ、じゃ聞きますけど。
新越谷 スタミナパンがね、本番前日にYouTubeで今年の『M-1』の「決勝大予想」をアップしてるんですよ。
編集S あら、自分たちも敗者復活に残ってるのに。
新越谷 で、優勝予想とかではなく、麻婆がファイナル進出者に歌われるであろうラップがどんなリリックになるのか予想しているわけです。梅田サイファーがどんなラップを当ててくるのかと。
編集S 歌われませんよね。
新越谷 歌われないんですよ。歌われるのはキングオブコントであって、『M-1』ではないんです。だけど、麻婆が『M-1』でもラップがあるという前提でどんどん話を進めていく。
編集S あー、なるほど。そういう。
新越谷 で、勝手にラップを作っていく麻婆に対して、トシダは最初「いや、M-1はラップないだろ」「それはキングオブコントだろ」って否定しつつも、だんだん麻婆の勢いに押されて話題に乗っていくわけです。いつまでも否定してたら話が進まないから。
編集S はいはい。
新越谷 「ママタルト、こいつでウケなきゃまぁまぁアウト」みたいなのがあって、たくろうの番になったときに、麻婆が「たくろう、優勝、いただこう」みたいな、しょうもないのを練ってると、渋々話に乗っていたトシダから「赤木とバンド、笑い取らんぞ」というのが出るんですね。
編集S おお、なかなかのパンチライン。完璧に韻踏んでる。
新越谷 完璧に踏んでるんです。その赤木とバンドが笑いを取った夜でしたねえ。
編集S そこにつながるわけね。
新越谷 そんで、この麻婆が勝手に話を進めてトシダが渋々乗ってるという構図は、まんまスタミナパンの今回のネタの構図なんですよね。勝手に忍者になりたい麻婆に「くのいちをやれ」と言われて、渋々乗るトシダ。そこに笑いが生まれていく。
編集S 確かに、そんな感じでしたね。
新越谷 そしてくしくも。
編集S なんすか。
新越谷 たくろうも同じ構図なんです。木村バンドが勝手に話を進めて、赤木が渋々乗り始めてからグルーブしていく。
編集S ああ、まあそう言われてみればそうかも。
新越谷 そして実は。
編集S その話し方どうにかなりませんか。途中で止めるやつ。
新越谷 エバースも同じっちゃ同じなんですよね。片方が狂ったことを言い出して、もう片方が渋々乗ってるうちにおもしろくなっていく。そして、渋々乗ったほうの人が、なんだか優しく見える。そういうわけで、今年の『M-1』のトレンドは優しさだったのかなという、そういう話です。
編集S それならそれでいいです。そろそろ振り返りませんか? 長くなるんでしょう?
新越谷 長くなりますよねえ。
編集S ですよね。
敗者復活Aグループ
編集S 敗者復活Aグループから行きましょう。ミカボ。徳永英明押し。ウケましたね。
新越谷 おもしろかった。おもしろかったし、徳永英明ってそうなんだ、という気づきもありましたね。
編集S 気づきを与える漫才。
新越谷 徳永英明って全然通じるんですね。「壊れかけのRadio」1990年リリースですよ、35年前。
編集S いきなり強者からスタートしたという感じはしましたよね。
新越谷 ライブとしては最高のスタートだったと思います。
編集S 続いておおぞらモード。
新越谷 あ、言い忘れてましたけど。
編集S はい。
新越谷 これ、準決に残ってるメンツですから、全員どうしようもなく超おもしろいという前提での話ですからね。
編集S はいはい。もちろん。
新越谷 超おもしろいという前提でなんですけど、おおぞらモード、やっぱちょっと入りが不自然なんですよね。アカリップが「子どものころ、友達のお母さんと話すのが楽しかった」というもリちゃんの投げかけに納得していないわりに、コントインしたらいきなりノリノリでお芝居してしまう。さっき言った、「乗るにしても渋々」という感じがない。
編集S うん。
新越谷 結果、おばさんが最初からおばさん過ぎて、逆に見た目スーツのおじさんであることがずっと引っかかってしまう。このネタはコントのほうが素直に見られると思う。
編集S 結果は83-17でミカボ。順当ですかね。
新越谷 そこまで差が開くネタではないよなーと思ったんですよね。あ、客票審査だな、という感じ。ミカボのネタは確かに強いんだけど、徳永英明という固有名詞の強さにある程度依存しているわけで、プロ審査だとそこにマイナス要素が出ると思うんですよ。客票に強いネタというか。そういうこの日の傾向が見えた気がした。TCクラクションで、その印象がさらに強まるわけですけど。
編集S 55-45でミカボでした。
新越谷 これ私はTCの勝ちに入れたいんです。内容としておもしろい話をしているのはミカボなんだけど、TCのネタは坂本そんなに怒るなよ、というおもしろさなんですよね。おもしろい人なのは坂本で、そのへん伝わってほしいなーと願ってたんですが、届かなかったですね。
編集S 固有名詞の強さで勝負するのはそんなによくないんですかね。
新越谷 よくないというか、違和感というか。これテラサで井口が言ってたんだけど、オンバト世代って「NHKで放送できるネタを作る」っていう前提があって、という話をしていて、なるほどと思ったんですけど。
編集S それにしても、ツッコミがやかましいコンビが3組続きましたね。
新越谷 元気があってよろしいと思います。そのへんも時代なのかもしれない。
編集S で、イチゴです。
新越谷 時代とか関係ない。すげえ超おもしろい。
編集S ずっと笑ってましたね。
新越谷 もちろんイクトがやばいおもしろいわけですけど、会場が屋内になったことが効いてると感じました。スペースが限定されて周囲がちゃんと暗いことで視野が狭くなる分、ステージそのものが広く見えている。ダイナミック感が増している。
編集S 52-48でミカボ。
新越谷 これも意外でした。イチゴが抜いたかなと思った。このあたりでホントに、ミカボが置いた石は重いぞ、と思ったんです。何か、ミカボよりおもしろい漫才をするだけじゃダメで、日本語としてミカボよりおもしろいことを言わなければならない感じになっている。
編集S 漫才ってそういうもんじゃないの。
新越谷 もちろんそういうもんでもあると思うけど、なんというか、岸田戯曲賞的と言いますか、そこで起こった現象よりも用意された台本が重視されているというか。
編集S ふむふむ。
新越谷 で、台本激つよのゼロカランがまくるわけですよ。
編集S 55-45でゼロカラン。
新越谷 まさしくツッコミマンという感じですね。粗品YouTubeの「ツッコミマン」出てからウケがよくなったってワキが言ってたけど、確かに、次にワキがどういうフレーズを言うかを見る側が待てるようになったところはあるんでしょうね。ボケが弱くてもあきらめる必要がないという。
編集S 赤ちゃん。フレーズvs赤ちゃんは赤ちゃんが53-47で勝利。
新越谷 ミカボがかけた呪いを赤ちゃんが解いた感じがしますね。何しろ赤ちゃんですからね。
編集S 赤ちゃんっていうか、幼児ですよね。0歳児はあんなにしゃべらない。
新越谷 それはいいじゃん。今年のネコニスズのネタって、去年の麻婆が麻婆のままキャバ嬢になったのと同様で、メタが嫌味なく入ってるんですよね。最初から赤ちゃんが赤ちゃんのままだと許容されないことを計算した上で、どうすれば「おっさんが赤ちゃんやってる」というキモさを受け入れさせることができるかという戦い。ペーソスを最後まで取っておいたオチもきれいでした。
編集S 最後は20世紀。44-56でまくりました。接戦が続きましたね。
新越谷 カッコいい漫才でしたねえ。結果、しげがマンパワーでブチ抜いたことで、シンプルに笑ったほうに入れていいという空気というか、現象に注目し始めた感じがしました。Bからは審査基準が変わりそうだなと思ったんですよね。それだけ、ミカボのネタの強さがここまでの空気を作っていたということでもあるんだけど。
編集S なんか、Aブロックは激戦でしたよね。
新越谷 激戦だったな、というのはBブロックが始まってすぐ実感しましたね。イクトやばかったね。
敗者復活Bブロック
編集S センチネルから。
新越谷 荒れ果てたところにトラディショナルな漫才コントを持ってきたことで、めちゃくちゃインパクト不足になってしまった不運。センチネルのこの見た目でインパクト不足になるんだから、やっぱりすごいレベルで戦ってるんだと思いますよ。15-85で負けるような出来ではなかったと思います。
編集S 勝ったのはひつじねいりでした。
新越谷 人として強いやつが勝つという流れにうまく乗れた感じがしましたね。ウザいほど声がでかいということに、客席が慣れている感じ。Aブロックが全体的にうるさかったことが、松村のウザさをマイルドにしてた感じがした。結果、強さだけが残ったというか。
編集S ドーナツピーナツ。
新越谷 やってる途中から、めっちゃ負けるけどありがとうと思ってました。ただ普通にちゃんと上手くておもしろい漫才がここに挟まったことで、また少し目線が変わるというか、そうか漫才ってこういうものだよなと思い出せるというか。ドーピーにとってはこんな見られ方は不本意だと思うけど、ここに絶対必要なコンビだったと思う。
編集S 残酷ではありますね。64-36でひつじねいり。
新越谷 犠牲になった感じはしますよね。でも、この36は価値あると思いますよ。
編集S フランツ。ここも64-36でひつじねいり。
新越谷 まだ客席に「ネタの内容より強いやつを見たい」という願望が残ってる気がしました。松村の残像というか、Aとは真逆の空気ですよね。フランツはこの感じで来年ストレート決勝も全然あると思う。
編集S 例えば炎です。
新越谷 その松村の残像をタキノが振り払えるかという見方になっちゃったなーという。松村の熱とタキノの存在感が対消滅して、ようやくネタ自体の強さの比較になったというか。だとすれば例えば炎なんですよね。ひつじねいりは「細田が整形したがってる」という設定の部分で、やっぱり説得力とかリアリティがないもん。ひつじねいりには、やっぱケンカしてほしいんですよね。「整形したいんだよなぁ」じゃなく、細田のベクトルが松村に向いたほうが強みが出ると思う。
編集S そして出てきましたね、みんな大好きカナメストーン。
新越谷 もう彼らがラストイヤーであることも、ずっとくすぶってきたことも、泣くほど決勝に行きたかったこともみんなわかってるわけです。いちばん物語を背負って出てきてる。前に、野田クリがラジオで、準決で負けた人が敗者復活を勝つためにという話をしていて、「M-1をやめるな」と言ってたんですよね。負けたときの振る舞いが敗者復活での勝負を分けるぞと、すごく真剣に言ってたの。野田クリ自身が物語を背負ったことで優勝してるからすごく説得力のある話だったんだけど、まさにあの零士の号泣VTRはそういうものだったと思う。
編集S めっちゃ泣いてましたもんね。
新越谷 だから、カナメストーンというコンビの死刑ボタンを押せるかどうか、という審査なんですよ、これは。何かこうM-1好きの良心に訴えかけるような、これはM-1なんだから、よっぽどスベらなければカナメだろという空気だったと思うんです。そこで少なくとも、カナメはベストパフォーマンスをしたし、まったくスベらなかったわけですから、素直にとりあえずおめでとうと思いました。
編集S カベポスター。
新越谷 夢の続きの中にいるカナメに対して、カベポスターが文字通り壁になれるのか。ホントに、対決対決で問われる要素が変わってくるのがおもしろいんですよね。カベポスターはそのクオリティでカナメの壮大な夢物語ごとブチのめす必要があったことを思えば、狂暴といえるほどのクオリティを出してはいなかったと思います。単体のネタ比較でみればカベポなんだろうけど、これはM-1ですからね、良くも悪くも。
編集S 良くも悪くもですね。
敗者復活Cブロック
編集S カナメのドラマがひとしきり終わって、生姜猫です。物語など背負いようもない超若手。
新越谷 なんか、チェーンソーマンとかRADとか、話題の若さが「普遍性のなさ」になってしまってる感じがしましたね。今度は、おっさん中心になった今のM-1の不健全さが垣間見えたというか。それを差し引いても前半のテンポ感があればもっと乗れたかなと。
編集S 2番手の大王が84-16で圧倒しました。
新越谷 逆にポットの小汚さが安心材料になってしまうという変な現象が起こった感じがしますね。もとより生姜猫と大王では訴求対象が全然違うわけで、だからこそ生姜猫には挑み甲斐があると思ってほしいところです。にしても大王おもしろいですね。10億円解散してこんなにすぐ上がってくるとは思わなかった。
編集S 続くスタミナパンも65-35で撃破。
新越谷 ダブルインパクトの決勝に出たこともあって、スタミナパンのハードルが上がり切ってるのが厳しいですよね。来年以降も、予選段階から「今年のスタミナパンやばいよ」という前評判が出るくらいじゃないと突き抜けられない状態になってしまっている。トム・ブラウンは1回ファイナル行ってからそういう状態になったけど、準決の段階でそういうハードルが出ちゃうのも今のM-1ということなんでしょうね。いろんな顔のM-1が見られますね。
編集S 今夜も星が綺麗も71-29で敗退。
新越谷 このネタ好きでしたねえ。まず「5階に着くまでの物語ですよ」という大枠が提示されるので、お話としてめちゃくちゃ見やすくて、あんまり漫才では見たことない構成だった気がする。オクムラがどうして今、5階に着かなきゃいけないのか、途中で降りればいいんじゃないかという選択肢を、必ず三福が降りるふりをすることで潰してるのが上手い。どうしたらいいんだろ、単に三福の怖さがポップになればいいということでもないだろうし、これ以上怖いとさすがに引くだろうし。
編集S 黒帯が51-49という超僅差で大王に勝ちました。
新越谷 同じような空気感の2組ですけど、黒帯はラストイヤー、大王は結成1年目。すごいコントラスト。でも、新鮮に見えたんだろうなということなんでしょうね。黒帯が新鮮だった。15年かけて煮詰めてきたものに「新鮮」という要素が加わること自体が黒帯の蓄積だし、そのぶん本当に悔しい思いをね、死ぬほどしてきたということなんですよねえ。M-1やなぁ。
編集S ミキです。68-32で黒帯に引導を渡しました。
新越谷 さっき、今年のカナメの物語性に勝つためには狂暴なまでのクオリティが必要だったという話があったじゃないですか。
編集S ありましたね。カベポはそこまでじゃなかった。
新越谷 出た、と思ったんですよね。クソ強い、狂暴なまでのクオリティ。技術とシステムと華。「M-1のために漫才すな、漫才のためにM-1せえ」という言葉の答えを見せつけてきた。ミキってすげえところにいるんだなと思った。
編集S 豆鉄砲にも64-36で勝利。
新越谷 豆鉄砲はホントおもしろい。全然これでいいと思う。東は東というジャンルになれる人だから、何も変えないでほしいと思います。今回のミキとタイマン張って36獲れるというのはなかなかよね。
編集S ファイナルのドンデコルテの影響はないですかね。来年以降、「ドンデコルテじゃん」って言われるリスクというか。
新越谷 あるよなぁ、めちゃくちゃあるよ。どうすんだろ。しばらく悩むことになるんでしょうね。がんばれ。超好き。
編集S 最終的にはカナメが敗者復活。
新越谷 かなり明確にミキだと思ってたのでびっくりしたけど、カナメが行くのもM-1らしくていいなと思いましたよ。これはホント。あれだけの人たちがカナメを選んだんだもん。やっぱ誰がカナメで誰がミキだったかは気になるけど。
編集S 匿名投票ですからね。
新越谷 うん。
