もはやお家芸!? 「紅白」の “追加発表”連発とアニバーサリー歌手の重用

歌手・矢沢永吉が、大晦日に放送される「NHK紅白歌合戦」に特別企画枠で出場することが12月25日、同局から発表された。
矢沢に関しては今年はソロデビュー50周年を迎えて9月には通算35枚目のオリジナルアルバム『I believe』をリリースし、11月8、9日の東京ドーム公演をはじめとしたコンサートツアーを行うなど精力的に活動。
それに加えて、8月には本人は不在ながら音楽番組『The Covers』で特集が組まれ、9月には特別番組「NHK MUSIC SPECIAL 矢沢永吉 ヤザワ×イチロー 〜俺たちの失敗〜」が放送され、その前日には2019年にオンエアされた「ドキュメント矢沢永吉」が再放送されるなど、NHKでもたびたびその存在がフィーチャーされていた。
こうした背景もあり週刊誌やニュースサイトの「紅白」の出場予想記事でコメントを求められた際にはサプライズ出場の可能性を示唆してきたが、ついに正式発表されることとなった。
76歳にしていまだ衰えを知らない歌唱力やライブパフォーマンス、絶大なスター性や存在感で多くのファンを魅了する希代のロックスターの13年ぶりの出場はまさに今年の「紅白」の目玉の一つと言っていいだろう。番組制作サイドとしてもこのタイミングでの満を持しての“発表”であるはずだ。
もっとも、“追加発表”という形で出場歌手の情報を小出しにする近年の「紅白」の手法にはインターネットやSNS上で疑問の声も上がっている。
とくに今年は11月14日の出場歌手発表以降、アイドルグループAKB48、人気バンドRADWIMPS、STARTO ENTERTAINMENTの人気グループSixTONES、back number、米津玄師、星野源、玉置浩二、松任谷由実、そして矢沢と現時点で9組もの出場が告知された。
そのうち4組が特別企画枠での出場となるが、疑問を抱く多くの視聴者は、何をもって特別企画なのか理解に苦んでいるものと察せられる。
また12月27日には特別企画として「B’z」の稲葉浩志が福山雅治とともに2人がタッグを組んだ新曲『木星 feat.稲葉浩志」をテレビで初披露、翌28日には松田聖子の出場も発表された。
近年ではすっかりおなじみとなった「紅白」における“追加発表”の背景には、11月半ばの出場歌手発表から番組放送まで1カ月半ほどの間が空くことから、本番に向けて番組への期待感を煽ったり、注目度を高めたりといった狙いがあるわけだが、さすがにここまで数が多いとそのプレミアム感も薄れる。
まして特別企画枠だけでなく、一部の「紅組」や「白組」の出場歌手も追加で発表するとなればなおさらだ。
その一方、“追加発表”と同様に近年の「紅白」が得意としているアニバーサリー歌手の重用に関しては一応の説得力はあり、それなりの効力を発揮している印象だ。
今年はデビュー60周年の布施明、ソロデビュー50周年の矢沢、デビュー50周年の岩崎宏美、デビュー45周年の聖子、デビュー40周年のTUBEと久保田利伸、結成20周年のAKB48らが久々の“復活”を果たした。
将来的な受信料確保の観点などから、かなり以前から若い世代の視聴者層をより意識した出場歌手選考や番組演出に苦心している「紅白」だが、今年からいわゆる“ネット受信料”がスタートしたことで、今後さらにその傾向が強まることが予想される。
そうした中、年配や高齢の視聴者層の溜飲を下げるべく、来年以降もアニバーサリー歌手の重用は続いていくことになるだろう。
Mrs. GREEN APPLEによる初の大トリやメドレーの増加など目新しさを強調する報道も一部見受けられる今年の「紅白」だが、昨年までと比べても今のところそこまでの変化は見て取れないというのが率直な感想である。
今年は放送100年の節目ということもあり、「紅白」に対しても例年以上に期待が大きかったことの反動もあるのかもしれないが……。
それどころか、世間では今年初出場を決めた韓国発の多国籍ガールズグループ「aespa(エスパ)」のメンバーによる過去のSNSアプリへの投稿に端を発した“キノコ雲ランプ”騒動が波紋を広げている。
スポーツ紙の芸能担当記者は語る。
「今年は戦後80年となりますが。中国人メンバーのニンニンさんが22年にファン向けアプリに『かわいいランプを買ったよ~どう?』とのコメントとともにランプの写真を投稿。その傘の部分が原爆投下の際のキノコ雲を連想させる形だったことからネットを中心に物議を醸しました。騒動は国会にも波及しており、12月2日の参議院総務委員会でこの問題を取り上げた『日本維新の会』の石井苗子議員の質問に対し、NHKの山名啓雄専務理事は『所属事務所から“当該メンバーに原爆被害を軽視・揶揄する意図はなかった”と確認した』とし、出場に問題はないとの認識を示しました。しかし、いまだその説明に納得していない視聴者も多く、『aespa』の出場停止を求めるオンライン署名は14万筆を超えています。このままでは『aespa』のパフォーマンスが今年の『紅白』の最大の注目を集めることになりそうです」
今年も若い世代の視聴者層におもねりつつ、もはやお家芸とも言える出場歌手の追加発表の連発とアニバーサリー歌手の重用で高視聴率獲得を目指す「紅白」だが、放送前から例年以上の逆風が吹き荒れる中、果たして好結果を得ることができるのだろうか。
(取材・文=三杉武)