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歴史エッセイスト・堀江宏樹の大河ドラマ『豊臣兄弟!』放送談義3

『豊臣兄弟!』雑兵が武将の首を討ち取ってはならない戦でのマナーと織田家による武器のレンタル

『豊臣兄弟!』雑兵が武将の首を討ち取ってはならない戦でのマナーと織田家による武器のレンタルの画像1
『豊臣兄弟!』で織田信長を演じる小栗旬(写真:Getty Imagesより)

 前回(第3回)の『豊臣兄弟!』では、大きな変化がありました。

兄弟の実父・実母が史実で歩んだ“道”

 第2回までの印象では、脚本家・八津弘幸さんの想像だけで「推して参る」作品になるのかと思われた『豊臣兄弟!』ですが、秀吉(池松壮亮さん)が織田信長(小栗旬さん)の草履を懐(ふところ)に入れて温めていたという例の逸話が登場。「史実」が巧みに解釈され、ドラマの世界が形作られている様子がハッキリしてきました。

 実際のところ、この逸話は江戸時代中後期に成立したフィクション――『絵本太閤記』が初出とされるエピソードではあります(昨年の『べらぼう』に登場した喜多川歌麿がこの書物の一場面を描き、幕府から手鎖五十日の刑を喰らったという因縁の作品)。

 つまり本当の意味での史実性はないのですが、誰もが知る逸話ですから、ドラマで採用しないのはもったいないのですね。それに普通なら兄弟とはあまり接点もない信長に「こんな暖かい日に草履を温めているのか?」などといわせ、その後の会話につなげられていたので、扱い方にセンスのよさを感じました。『豊臣兄弟!』、今後も期待できる作品になりそうです。

父の仇、城戸小左衛門という人物

 さて、ドラマ冒頭部では故郷を出て、清洲(ドラマでは清須)の町にやってきた秀吉・秀長(仲野太賀さん)兄弟、直(白石聖さん)の3人が「浅野さま」こと浅野長勝(宮川一朗太さん)にご挨拶するシーンがありました(今回以降、「小一郎」など、ドラマの名前ではなく、秀吉・秀長という呼称を採用します)。

 浅野長勝は、兄弟の父と「合戦に行ったことがある」と発言。さらに兄弟の父親は敵将の首を取ったにもかかわらず、その首を槍の名手・城戸小左衛門(加治将樹さん)に奪われ云々という「悲劇」も明かされていました。

 信じられないかもしれませんが、城戸は実在の武将で、信長直属の「六人衆」――ボディガードみたいな役割の武士でした。

 が、歴史に詳しい方ほど「どんな設定やねん……」と疑問に思われたかもしれません。

 城戸に関しては、「史実の読み替え」ということで今回は触れません。また、史実でも氏名不詳の兄弟の父親が、戦場における織田信長の側近の「御弓衆」に属するだけでなく、そのリーダー的存在である「弓頭(ゆみがしら)」の浅野長勝と一緒に戦った記録などない! という話でもありません(実際にそれはその通りなんですが)。

 そもそも兄弟の父親と浅野長勝とでは身分が違いすぎて、「一緒に戦に出る」ようなことがありうるのか、という「疑念」についてです。

 足軽の弓部隊と、織田家中における御弓衆は名前こそ似ていますが、ステイタスは大きく異なります。御弓衆になれるのは、身分が高く、広い領地を有している武士たちだけでした。織田家における御弓衆は騎馬武者ですから、複数の馬を保有しておける広い屋敷や金銭的余裕が必要とされたのです。

 さらに騎馬武者たちは自前の鎧兜、武具に加え、「草履取り」と呼ばれる雑用係の雑兵(ぞうひょう)を数名従えて出陣しなくてはいけませんでした。厳格な身分社会であった戦国時代について考えさせられるエピソードですね。

 しかしそれゆえに、浅野が雇用していた草履取りの一人が兄弟たちの父親であったという設定でなら、この二人が「合戦に行ったこともある」というセリフに史実性が生まれてくるのですね。

 そういう「当時あるある」の身分差を過剰に気にしていると、物語がまったく進まなくなってしまうのですが、前回のドラマを見ていると、登場人物たちの自然なやりとりの中に、史実性もちゃんと反映できていることがわかるのです。

 それゆえ次回以降、2万5000もの大軍勢を引き連れた今川義元(大鶴義丹さん)と、数には劣る織田信長が激突し、どのように両雄の合戦シーンが描かれるかに期待が高まります。

 当時の基本的な合戦は、まず両軍の騎馬武者たちが交戦し、その次が雑兵――つまり足軽たちが血まみれ泥まみれになって戦い、命のやり取りだけでなく、お互いの持ち物まで奪い合うという地獄のような光景になるのが通例でした。

「身分による棲み分けがそこまで徹底されていたのか」と思われるでしょうが、騎馬武者たちは出陣にあたり、現在の価格でざっくりいえば数百万円かそれ以上の大金をかけていてもおかしくはないのですね。

 だから、そういう経費のかかった人同士が戦って、利益を奪い合うのは当然のこと。藪の中から、数万円程度の装備しかしてない雑兵が飛び出てきて、そういう装備に金がかかった人――武将たちの首を討ち取ったりしたら、当時ではマナー違反というわけです。

 とすれば、浅野さまの草履取りにすぎなかったであろう兄弟たちの父親が、身分ある敵将の首を取ったのに(それを城戸に奪われた)……という秀吉のセリフに史実性がないのかといえば、「そういうわけでもない」のが興味深いところです。

 江戸前期(一説に天和3年・1683年以前)に成立した、『雑兵物語』という「兵法書」があります。戦国時代の武士たちの特異なルールを、身分の低い雑兵の目線から語った書物といえるでしょう。

 この書物には、騎馬武者の草履取りとして参戦した加助という雑兵が、鉄砲で(彼の主人を殺そうとしていた)武将を仕留め、主人を守ることに成功したという逸話が描かれています。こういう攻撃はあくまで「忠義」であって、「マナー違反」ではないのですね。

 しかし、報奨金は加助には支給されませんでした。

 加助は人から聞いた通り、死んだ敵の顔から鼻を削いで持ち帰ったのですが――実際に誰かの首を切り取ったり、それを持ち歩くのは重たいし、手間がかかるので、戦国の武士でも忌避しがちなのです――、その鼻を見た「殿様(=領主、いわゆる戦国大名)」は「これではダメだ。褒美はやれん」と言い出しました。

 当時の格の高い武将はほぼ全員、立派なおヒゲを生やしているものですから、鼻だけでなく唇もヒゲつきで削いでいなければ、武将の鼻だと証明できないではないか! と難癖を付けられてしまったのです。

 まぁ、身分の低い雑兵「なんか」に支払う報奨金は少なくしたいのが雇用主こと「殿様」の本音なので、そこで加助は足下を見られてしまったというわけですね。

 草履取りなどは、武将たちと一緒に戦っているのですが、その身分はあくまで使用人でしかありません。正規の武士の一員とは認められていないのでした。

戦場での略奪行為と産業化した戦

 また、前回のドラマでは秀吉が「戦場で拾った」刀を秀長に手渡すシーンもありました。戦国時代は「戦」がいわば主要産業で、戦を通じてしか大きな利益を得ることができない人々も多いのです。また、当時の戦場には、自分あるいは誰かが殺した相手の持ち物を奪って、自分のものにできるというチャンスが転がっていました。

 一般的に1カ月以上の長期戦にならない限り、食物ですら自給自足ですから、雑兵たちは1カ月分の食料――コメやら何やらを背負って戦っているわけです。下手すれば食物すら戦って手に入れなければならない時代でした。

 のちに織田信長は、この手の略奪行為は厳禁していくわけですが(違反者は処刑)、ドラマの時代ではまだまだ棚ぼた式の利益を求め、参戦する貧農たちが多かったでしょうね。ドラマの秀吉も戦場で、おそらく武将レベルが持つような良い刀を手に入れることができていたのでしょう。

 すでにドラマの秀長は第1回から腰に刀を指していた記憶がありますが、それはおそらく雑兵用の刀です。一振り(刀を数える単位)あたり、数百文程度の安物だったと思われます。戦国時代の1文あたり現在の数十円くらいとして、5000円もあれば手に入るのでした。

 もちろんそれらは「数打ち物(=量産品の意)」と呼ばれ、切合いなどすれば1度で刃毀れして使い物にならなくなるジャンク品だったはず。まぁ、当時の刀といえば、重荷相手の鎧の隙間を狙って突き刺し、相手が激痛のあまり戦意喪失するのを狙うための武器でしたから、それでも雑兵には十分だったのでしょう。

 ちなみに武将クラスが使う刀は、「数打ち物」の最低でも数十倍以上の値打ちがありましたが、秀吉が秀長に手渡したのは、そういう品だったのではないか……と想像できるのでした。高品質で高級な武器を所持しているほうが生き残れる確率が上がるので、兄としての愛情だったのでしょう。

 なお、自前で装備すら整えられない貧困層ではあるが、「戦に出たい」いう志さえあれば、織田家は武器をレンタルしてくれました。有名なのは「御貸刀」と「御貸筒(=レンタル鉄砲)」です。こういう領主による武器貸与システムは全国的に見られるのですが、織田信長はやる気がある農村出身者のリクルートにたいそう熱心で、織田家中には大量のレンタル武器のストックがあったそうです。

 ちなみに、ドラマで城戸先生の荒っぽい槍の稽古を身分の低そうな者たちが受けさせられているシーンにも史実性があります。足軽たちの定番武器はすぐに傷む安物刀より、実際は槍なのです。『朝倉孝景十七箇条』という史料によると、1本だいたい100文。現在ならこれまた数千円――2000~3000円程度というお手頃価格なのです。

 そういう金銭負担でもそれなりの武具が買えるからこそ、兄弟たちの父も農民から武士に「ジョブチェンジ」を夢見てしまった志願者の一人だったのでしょうね。次回以降、がっつり合戦が描かれ、血まみれのシーンだらけになりそうな気がしますが、盛り上がることは必至でしょう。楽しみに拝見したいと思います。

視聴者を釘付けにした脚本家の胆力

(文=堀江宏樹)

堀江宏樹

1977年、大阪府生まれ。作家・歴史エッセイスト。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。原案監修をつとめるマンガ『エリザベート~神の手を持つ王女~』が無料公開中(KADOKAWA)。ほかの著書に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『本当は怖い江戸徳川史』(三笠書房)など。最新刊は『日本史 不適切にもほどがある話』(三笠書房)。

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堀江宏樹
最終更新:2026/01/25 12:00