『教師びんびん物語』で一世を風靡した俳優・野村宏伸が還暦で挑んだ、役者と高田馬場でトンテキを焼く“二刀流”生活

ドラマ『教師びんびん物語』で一世を風靡した俳優・野村宏伸。
現在は俳優業と並行して、高田馬場でトンテキ定食が人気の店のシェフとして、月曜日から土曜日のランチタイムに、ひとりで厨房を切り盛りする日々を送っている。
2016年には『しくじり先生 俺みたいになるな!!』(テレビ朝日)に出演し、「全盛期の最高月収は6000万円」「28歳で世田谷に2億4000万円の豪邸を購入」など、勝ち組俳優からどん底のアルバイト生活へ転落した人生を赤裸々に語った。
そんな波乱万丈の人生を歩んできた彼が、今、新たに挑む60代からの“二刀流”生活とは――。
週6で厨房に立つ日々……還暦を機に飲食業へ参戦
――土曜日の営業時間にお邪魔しましたが、お店の前には長蛇の列。大盛況でしたね。
野村宏伸(以下、野村) まさか今日は、あんなに列ができるとは思いませんでした。お店を始めてちょうど1年になりますが、いまだに混み具合の予測が難しくて、いつも「今日はお米を何合炊こうか」って悩んでいるんですよ。
――もともとはこの小料理屋の常連だったんですよね。シェフを始めたきっかけは?
野村 昔からなんとなく飲食店をやってみたいという気持ちはありましたが、ひとりでゼロから始めるのは大変です。そんなときに仲間から「一緒にやらないか」と声をかけてもらったんです。ちょうど還暦を迎えるタイミングだったこともあり、「新しいスタートにはいい機会だな」と思って決めました。今は間借りという形でランチだけ僕が営業して、17時からはママの小料理屋に戻るんです。
――席からキッチンの様子が丸見えで、野村さんが実際に調理しているのがすごく伝わってきました。芸能人がやっているお店って、名前だけ貸していることも多い印象がありますが、本当にご自身でやられているんですね。

野村 普通は厨房までは立ちませんよね(笑)。でも僕は、トンテキも焼くし、皿も洗ってますよ。
――ファンの方が訪れることも多いのでは?
野村 いますね。遠くからわざわざ来てくださる方もいて、本当にありがたいです。忙しいときは難しいですが、なるべくキッチンが落ち着いているときにはホールに出て、お話ししたり、一緒に写真を撮ったりもしています。
――この1年で、だいぶ飲食の仕事にも慣れましたか?
野村 楽しいですよ。ただ、飲食ってやっぱり体力勝負なんで、改めて「大変な仕事だな」と感じています。でも、夜に居酒屋をやっているママはもう80歳なのに、いまだに元気に現役で厨房に立ってるんですよ。そう思うと、「自分もまだまだだな」って(笑)。
怪作『コアラ課長』に出演していたことは覚えている?

――今は俳優やタレントの仕事よりも、お店に軸足を置いているのでしょうか?
野村 舞台の仕事は続けていますが、正直「テレビの仕事をもっとガツガツやりたい!」という気持ちはまったくないんです。今もテレビで頑張っている人たちには申し訳ないけど、僕自身は今のテレビにあまり魅力や面白さを感じていないというのが本音ですね。僕たちの世代は、本当に恵まれた時代に仕事をさせてもらえたと思っています。
――俳優として、酸いも甘いも味わってきたからこその境地かもしれませんね。
野村 そうかもしれません。民放のバラエティ番組も含めて、いろんな仕事をやらせてもらいました。例えば、杉本彩ちゃん主演のSMをテーマにした『花と蛇』(2004年)や、コアラの着ぐるみが主人公の『コアラ課長』(06年)みたいな、世間的にはあまり知られていないコアな作品も、僕にとっては大切な作品です。
――ちなみに、サイゾーでは河崎実監督の新作をよく取り上げているんですが、なぜ『コアラ課長』に出演されたのでしょう? 若い頃には「役を選り好みしていた」という“しくじりエピソード”もありましたよね。
野村 あれはもう、シンプルに「面白そうだな」と思って(笑)。ああいう映画、けっこう好きなんですよ。そういえば、河崎監督も何度かうちの店に来てくれていますね。
――僕らの世代にとっては、むしろ『学校の怪談』シリーズの印象が強いです。
野村 同作のファンの方も、よくお店に来てくれます。「子どもにも見せています」と言って、親子で来てくれる方もいますね。いろんな作品を通じて僕のことを知ってくれた人がいるのは、すごく面白いなって思います。さすがに「『コアラ課長』でファンになりました」という人には、まだ出会ってないですけど(笑)。
家族と若い役者を支えるために今日もトンテキを焼く

――2015年に再婚された奥様は、このお店を始めるとき、どんな反応だったんですか?
野村 何も言われなかったですよ(笑)。僕の仕事にはあまり口を出さないタイプなんです。妻は妻で働いていますし、娘も今年で10歳になるので、あと10年くらいは父親としてしっかり頑張らないといけないなと思っています。
――舞台と飲食店の両立は、かなり大変そうですが、稽古や公演があるときはどうしているんですか?
野村 僕以外にもトンテキを焼けるスタッフがひとりいるので、シフトを組んで回しています。実は、この2月からは平日ランチをやめて、土日の通し営業に変える予定なんですよ。ママの居酒屋が始まる17時まで中休みなしで営業して、もっとトンテキ以外のメニューやお酒も楽しめるお店にしていきたいと思っています。
――確かに、トンテキ定食だけだとお腹いっぱいになって、お酒も1〜2杯で終わっちゃいますもんね。昼飲みできて、ゆっくり過ごせるお店のほうがファンも喜びそうです。
野村 あとは若い役者は、役者一本で食べていくのが本当に難しいんですよ。だから、そういう人たちの雇用や生活も考えています。ママの居酒屋が終わる23時以降に、深夜営業の店をやる構想も、共同経営者の友人と話しています。
――今日一緒に働いていたスタッフの方も、以前舞台で共演された役者さんなんですよね?
野村 そうです。深夜帯は、若い役者やそのファンが集まれるバーのような場所にできたらいいなと思っています。この店を、彼らの俳優活動にも活用してもらいたい。毎月家賃もかかっていますし、できるだけ長くお店を開けておきたいという思いもあります。まぁ、厨房に立つのは大変ですけどね。僕は今、経営者でもあり、現場のスタッフでもあります(笑)。
――セカンドキャリアに悩む人も増えている時代。61歳を迎える野村さんの、前向きで地に足のついた生き方に共感している人は多いと思います。
野村 ひとつの仕事だけで食べていくって、今の時代はなかなか難しいですよね。特に芸能界はそう。30年前に大豪邸を建てていた頃なんて、まさか今こんなふうになっているとは想像してなかったです(笑)。でも、自分としては良いタイミングで転機を迎えられたと思っています。役者として映像作品もたくさん残せたし、これからはまた新しい道で、自分の人生をコツコツ切り拓いていきたいですね。

野村宏伸(のむら・ひろのぶ)
1965年5月3日生まれ、東京都出身。1984年、薬師丸ひろ子主演の映画『メイン・テーマ』のオーディションに合格。このデビュー作で日本アカデミー賞・新人賞を受賞し、芸能界入り。1986年には映画『キャバレー』で初主演を果たす。その後、田原俊彦と共演した大ヒットドラマ『教師びんびん物語』をはじめとする“びんびんシリーズ”で、アイドル的な人気を集めた。近年は舞台を中心に活動しつつ、高田馬場の小料理店「ひさご」の厨房にも立っている。舞台『喰いタン』は5月5日から10日まで、三鷹RI劇場にて上映予定。
(構成=伊藤綾)