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歴史エッセイスト・堀江宏樹の大河ドラマ『豊臣兄弟!』放送談義12

『豊臣兄弟!』ドラマの展開を左右するかつての大河で消された子だった万福丸の登場、そして過去最大の地獄が予測される信長らの葛藤

『豊臣兄弟!』ドラマの展開を左右するかつての大河で消された子だった万福丸の登場、そして過去最大の地獄が予測される信長らの葛藤の画像1
『豊臣兄弟!』に出演する小栗旬、池松壮亮、仲野太賀、宮﨑あおい(写真:GettyImagesより)

 筆者の周辺では、「淡白な気がした」「今後のための伏線回?」という声が出た前回・第12回の『豊臣兄弟!』。みなさんはいかがご覧になったでしょうか。筆者の感想もだいたい同じですが、大嵐の予兆を感じました。

市の夫による織田信長への裏切り

 まず注目すべきは織田家と兄・信長(小栗旬さん)のためだけに生きようとしてきた妹・市(宮﨑あおいさん)に別の幸せの形もあることを教えるため、あえて距離を置いてきた信長という設定です。市は浅井長政(中島歩さん)に嫁いで以来、自分が書き送った手紙に信長が返事すら書かないといって立腹していましたが……。

『豊臣兄弟!』の信長は怖いけれど、ヒューマンな部分も強く残したキャラクターです。京都奉行になったは良いものの、遊郭遊びを覚え、ぐうぐう寝ている秀吉(池松壮亮さん)を起こそうと顔を踏む信長でしたが、そのときもなんだかやさしい踏み方でしたよね(笑)。『どうする家康』(2023年)で岡田准一さんが演じていた信長であれば、猛然と蹴飛ばしそうな場面ではありました。

 また、自分の手が「汚れているから」と、市が産んだ茶々を抱くことにもためらいを見せる信長像は新鮮でした。代わりに秀吉が茶々を抱っこさせてもらっていましたが、そこに「豊臣を作った者と豊臣を終わらせた者の出会い」というナレーションが被せられ、興味を惹かれる一場面となりました。

 とてもきれいにまとめられているのを承知で無粋なツッコミを入れさせてもらうと、確かに秀吉・秀長(仲野太賀さん)兄弟に男系子孫はいなかったものの、秀吉の正室・寧々(浜辺美波さん)が「豊臣家」の祭祀を受け継ぐ者として、寧々の兄・家定の子孫に「木下家」として跡を継がせているのです。そして彼らは足守藩(現在の岡山県)と日出藩(現在の大分県)の藩主として、江戸時代を生き抜きました。公式文書の中では彼らは「豊臣姓」を名乗っているので、要するに「豊臣は終わってはいない」のですね。

織田信長になびいた浅井家の立ち位置

 さて脱線しましたが、ドラマの信長が冷徹な政治家としての顔を見せたのが、「大殿」こと浅井久政(榎木孝明さん)に呼び出された浅井長政の後をこっそり付け、信長と同じタイミングで小谷城を訪れていた越前・朝倉家の重臣・朝倉景鏡(あさくら・かげあき、池内万作さん)との密談を聞いただけでなく、部屋の障子をスパーンと開けて、わざわざ顔を見せるという場面でした。

 しかも信長は「朝倉の上洛を義昭さまが待っている」と宣言していました。筆者の周辺では「あれはどういうシーン?」という声もあったのですが、義昭(尾上右近さん)の将軍就任に挨拶すらしに来ない朝倉家当主・義景(鶴見辰吾さん)は、義昭公を長い間、手元に置いておきながら、上洛できずにチャンスを失った男なのです。

 信長はそんな義景という「不出来な当主」を抱える「落ち目」の朝倉家に「早く臣従の挨拶をしに来い!」と煽ったのでした。「織田弾正忠信長でござる」という官位強調の自己紹介や、どこかムッとした朝倉景鏡の態度も「生意気な成り上がりめ……」というところなのでしょう。

 だからこそ朝倉家は勢力を盛り返すためにも、昔から関係が深いのに、織田になびいてしまった浅井家に「長政の嫡男・万福丸を人質に差し出せば、これまでのことは水に流してやるし、織田信長の『義弟』として中途半端な立ち位置にしかなれない長政のこともひっぱりあげてやる」くらいの勢いで迫ったのでしょう。実際にそれが可能かはともかく……。

 しかし興味深いのは、長政はともかく、浅井家全体が織田だけでなく、朝倉にもいい顔をしようとしている中で、あえて信長は「義弟」長政に対し、自身の朝倉攻めの先鋒ではなく、後方支援をするだけでよいと優遇するというドラマの構図です。

 通常の歴史物語では、信長は「義弟」として信じ込んでいた長政に戦場で裏切られ、寝耳に水だと怒る構図を取りがちなのですが、今回はその真逆。つまり、ドラマの信長はかつて自分を2回裏切ったので殺害せざるをえなかった実の弟・信勝(中沢元紀さん)に対する後悔を、「義弟」長政を信じつづけることでなんとか取り戻そうとしているのです。

 同様に、筆者が注目したのは浅井長政の嫡男・万福丸(近江晃成さん)の登場でした。みなさんは『江〜姫たちの戦国〜』(2011年)を覚えておられるでしょうか。折からの「歴女ブーム」を背景に、そして『篤姫』(2008年)で打ち立てられた女性主人公の伝統を継いだ作品でした。

 浅井長政と市の間に生まれた「浅井三姉妹」の末っ子・江を主人公としていたのですが、10歳にもなっていない幼女時代の江も20代半ば(当時)の上野樹里さんが熱演するなかなかにカオスな演出でしたが、そこでは万福丸は名前すら登場せず、「消された子」として扱われていたのです! 『江』では、江の淡い初恋の男性が信長でしたので、万福丸のように禍根を残す存在は排除されたと推測されます……。

 実際、万福丸は市が産んだわけではなさそう(しかし実母の詳細は不明)ですが、彼の父・浅井長政が、朝倉家と結託して信長の命を狙ったことへの報復処置として、まだ10歳の子供だったにもかかわらず、磔(はりつけ)にされ(『信長公記』)、もしくは串刺しにされるという(『浅井三代記』)、実に酷い殺され方をしています。

 しかもこの処刑を担当させられたのが秀吉らしいのです。現時点ではドラマの市と秀吉・秀長は非常に関係良好ではありますが、この先、市が兄の信長、そして秀吉に猛烈な憎しみを抱くことになっても致し方はありませんね。

 ちなみに――『豊臣兄弟!』の信長は『大河ドラマ 豊臣兄弟! 豊臣秀長とその時代 (TJMOOK)』(宝島社)記載のあらすじ(第13回)によると、秀吉に命じて朝倉家から万福丸の救出を試みるのだそうです。しかしそれには残念ながら失敗(するはずです)。

 ここまでの配慮をしてやっていたのに、「義弟」長政には最終的に裏切られ、命まで狙われてしまったからこそ、信長はキレにキレまくって激怒し、「万福丸を殺せ!」と暴走する……という展開になるのでしょう。

 救出作戦に駆り出された秀吉だからこそ、信長の怒りの本質がただの憤怒ではなく、信頼と善意を裏切られたことへの深い悲しみであると見抜き、よりつらい立場に追いやられそう。今年のドラマでは信長による万福丸殺しの命令は、信長の自傷行為なのです。

 このあたりは歴史の闇であり、どのように描くのが正しいかはなんともいえません。ただ、脚本家の八津弘幸先生が信長という男をどう描きたかったのかは、これまでの本編で明らかなのでした。今年の信長は、傷つきやすい、人間的な一面を見せてくれそうです。

 さて前回には、その信長が、婚約者・直(白石聖さん)を亡くして以来、ずっと独身の秀長に嫁取りを命じるシーンがありました。相手はなんと美濃・斎藤家を攻めたときに豊臣兄弟が調略に成功した武将の一人・安藤守就(田中哲司さん)の娘・慶(ちか、吉岡里帆さん)だったのですが、この辺も驚かされました。史実では秀長の正室は、本名、実家、経歴、そして秀長と結婚した時期などすべてが不明です。ただ秀長の正室は、秀長を亡くした後に出家し、紹慶尼と名乗っていた記録があるため、おそらく慶をその女性だとして描くのでしょう。

 意識して直とは正反対の女性として描こうとしている意図も感じますが、現時点ではどうなるかは不明。慶の血筋の良さから考えると、農民上がりの秀長とはなかなか仲良くなれなさそうな気もします。

――しかしドラマの彼女の初登場シーンが、お供もつけずに寺の敷地をウロウロしている慶の姿を直の墓参りをしていた秀長が見かけるというものだったので、当初、彼女のことは「夜鷹(=下級の遊女)」の類いかと想像してしまっていました。そういう行動パターン含めて「評判がよくない」女性なのでしょうか。

 また、竹中半兵衛(菅田将暉さん)も安藤家の娘婿だと考えると、竹中と秀長という二人の「弟」を秀吉が抱えていたという構図にしたい制作側の意図も感じました。これはあまり見たことがない構図です。ドラマでは竹中だけでなく秀長も軍師ですから、この二人が「作戦」を巡って対立するというストーリーになることが想像されるのでした。

 この時期の秀長の結婚ですから、万福丸の処刑についても「受け入れるしかない」という竹中と「徹底的に抗わなくてはならない」という秀長――つまりは二人の「弟」の意見が割れ、秀吉はさらに苦悩するという展開になりそうな気がします。

 ちゃくちゃくと過去最大の地獄に向けて歩みを進めている気がしてならない『豊臣兄弟!』。本作が描くのは単純な「天下取りのサクセスストーリー」ではありません。信じようとした者に裏切られ、守ろうとした命を奪われる――逃げ場のない「家族の肖像」なのでしょうね。

信長から“カツアゲ”を命じられる兄弟

(文=堀江宏樹)

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堀江宏樹

1977年、大阪府生まれ。作家・歴史エッセイスト。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。原案監修をつとめるマンガ『エリザベート~神の手を持つ王女~』が無料公開中(KADOKAWA)。ほかの著書に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『本当は怖い江戸徳川史』(三笠書房)など。最新刊は『日本史 不適切にもほどがある話』(三笠書房)。

X:@horiehiroki

堀江宏樹
最終更新:2026/04/05 12:00