能年玲奈“解禁”も…公取委の新たな指針が芸能界に及ぼす影響とは

昨今は芸能人の独立のニュースを目にする機会が増えているが、女優・のんが自身のSNSのプロフィール欄に「本名:能年玲奈」と本名でかつての芸名でもある「能年玲奈」を併記する動きを見せて話題となっている。
のんは2013年に放送されたNHK連続テレビ小説『あまちゃん』でヒロインの天野アキ役を演じてブレーク。翌14年公開の映画『ホットロード』や『海月姫』で主演を務めたりと活躍の場を広げていた矢先に当時の所属事務所「レプロエンタテインメント」からの独立を巡る騒動が勃発。古巣を離れて芸名を「のん」へと改名し、現在に至るまで俳優、アーティストとして活動を続けている。
スポーツ紙の芸能担当記者は語る。
「改名後もアニメ映画『この世界の片隅に』で主人公・すずの声を好演したり、LINE NEWSオリジナルドラマ『ミライさん』や映画『私をくいとめて』、『さかなのこ』で主演を務めたり、映画『おちをつけなんせ』で監督デビューを果たしたり、個展を開いたりとマルチな活躍を見せています。他方、長きにわたって民放の地上波ドラマへの出演はなく、独立騒動の影響も取り沙汰されました」
実際、のんが独立後にエージェント契約を結んだコンサルティング会社「スピーディ」の代表で後に「STARTO ENTERTAINMENT」の代表取締役を務める福田淳氏が19年7月、自身のFacebookや会社のホームページで《のんが3年間テレビ局で1つのドラマにも出演が叶わないことは、あまりにも異常ではないでしょうか?》、《エンターテイメント産業も、ひとつの立派な産業であるならば、このような古い体質を変えていかなければなりません》などといった文章を投稿して物議を醸したこともあった。
そんなのんだが、25年4月にはTBS系連続ドラマ『キャスター』の第3話や同月に配信がスタートしたNetflixの映画『新幹線大爆破』に、そして今年1月には日本テレビ系連続ドラマ『こちら予備自衛英雄補?!』に出演したりと、昨年あたりから新たな動きも見せている。
そうした中、ここに来てかつての芸名でもある本名の「能年玲奈」をSNSで“解禁”したことでその関連性に注目が集まっているのが、昨年9月に公正取引委員(公取委)が公表した芸能界の取引等に関する新たな指針の存在だ。そもそも、公取委は令和に入ったあたりから芸能界に強い関心を示していた。大手芸能事務所の顧問はこう振り返る。
「19年には元SMAPのメンバー3人のテレビ出演に圧力をかけた疑いがあるとして旧ジャニーズ事務所を注意したり、同年には『闇営業騒動』で揺れていた吉本興業に対し、当時の事務総長が同社が所属タレントと契約書を交わしていないことに疑問を呈したりもしました。旧ジャニーズ事務所に対してはあくまで疑いがあるとしたうえでの“注意”にとどめましたが、それでもこの一件を機に元SMAPの3人のテレビ露出は増えた印象はありました。吉本についても所属タレントと契約書を交わすようになるなど、公取委のアクションが芸能界に大きな影響を及ぼしたのは間違いないでしょう」
その公取委が昨年9月30日に公表したのが「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」である。
公取委は一昨年12月までに行った「芸能事務所と実演家の取引」、「放送事業者または番組制作会社(=放送事業者等)と芸能事務所・実演家の取引」、「レコード会社と芸能事務所・実演家の取引」に関する実態調査の結果、その一部について独占禁止法上の観点から問題となり得る行為を確認。実態調査報告書を踏まえて上記3つの取引における芸能事務所、放送事業者等、レコード会社の採るべき行動についての指針を取りまとめたという。
同指針の中には退所した実演家の「芸名・グループ名の使用制限」の項目もあり、「芸能事務所が採るべき行動 として「芸名又はグループ名(以下「芸名等」)に関する権利を芸能事務所に帰属させる場合には、あらかじめ契約上に明確に規定した上で、実演家に対して十分に説明し、実演家と協議すること」や「合理的な理由が無い限り芸名等の使用の制限を行わず、制限する場合においてもその制限の方法は合理的な範囲の使用料の支払等の代替的な手段も含めて合理的なものとし、その理由について実演家に十分に説明し、実演家と協議すること」としている。
芸能界ではのん以外にも1993年には加勢大周、2022年に岡田健史(現・水上恒司)の芸名使用を巡るトラブルなどが勃発し、そのつど世間の耳目を集めた。
「のんさんに関して言えば、レプロエンタテインメントは当時取材を受けたメディアに対し、『双方の協議があれば使用できる』としてきましたが実際に『能年玲奈』が使用されることはなく、独立後ののんさんの出演作のほとんどのクレジットは『のん』となっていました。加えて、『能年玲奈』は本名でもあることから、『なぜ、本名で活動できないのか?』といった疑問の声も噴出していました。そうした経緯もあり、今回、公取委が芸名、グループ名に関する具体的な指針を示したこと、その後にのんさんがSNSのプロフィール欄に『能年玲奈』を併記するアクションを起こしたことは業界内外で注目されるのも頷けるところです」(前出のスポーツ紙記者)
芸能人の芸名使用に限らず、芸能ビジネス全般に関してかなり細かく言及している公取委の新たな指針だが、前出の芸能事務所の顧問はこう語る。
「今回の新たな指針では芸能事務所などが芸能人としての商品価値を高めるための育成費用や宣伝費などの投資費用の回収や収益確保についても言及されており、その点に関してはある程度芸能ビジネスというものに対する理解も見て取れます。一例を挙げれば移籍、独立した実演家の活動を妨害するような言動はしないように記されている一方、『実演家が退所する際に金銭的給付の要求を行うことがある場合には、あらかじめ契約上規定しておくことが望ましい』と、投資費用の回収や収益確保の観点から、実演家の退所時に芸能事務所が金銭的要求をすること自体は否定していませんし。とはいえ、『あらかじめ契約上規定しておく』といっても、その実演家がデビュー間近なのか、ある程度売れてからなのか、ブレークを果たしてからなのか、どのタイミングで契約するかによってかなり変わってくるでしょうけどね。結局のところは芸能事務所の実演家、双方の協議に委ねる形になるのではないでしょうか」
もっとも、今回の新たな指針によって双方の協議がこれまで以上に円滑にすすむ可能性があるという点は否定できないだろう。
「確かにそうですけど、見方によっては芸能ビジネスがよりシビアになる可能性もはらんでいますよね。言い方は難しいですけど、例えば芸能事務所が売れっ子タレントのAで稼いだお金をまだ売れていない若手のBに投資するといったようなやり方もやりづらくなりそうです。ましてBが『育成や投資をしても売れるかどうかは分からないけど大化けする可能性はある』といった粗削りタイプだったならなおさらのこと。そもそも、芸能ビジネスに関してはこの手のパターンが多く、デビュー前や若手時代の周囲の評価や期待そのままに“売れるべくして売れた”タレントなんてほんの一握りですし。本を正せば売れっ子のAも下積み時代は先輩タレントたちの稼ぎに支えられていた時期もあるわけで…」(同芸能事務所顧問)
近年はテレビ離れやSNSの普及などの影響により地盤沈下が叫ばれて久しい芸能界だが、公取委による新たな指針は今後も大きな余波を及ぼしそうである。
(取材・文=三杉武)