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主演映画『炎上』公開、快進撃・森七菜のもつ「揺らぎ」とは?――識者が語る「自我とこじらせの間」

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森七菜(写真:GettyImagesより)

「第49回日本アカデミー賞」で優秀助演女優賞に輝いた森七菜(24)。最優秀賞は逃したものの、『国宝』や『ファーストキス 1ST KISS』、『秒速5センチメートル』など数々のノミネート作に軒並み出演していることから、Xでは〈あちこちに森七菜がいる〉と、かえってその存在感に光が当たった。2025年は「森七菜の年」だったといって過言ではない。

公取委の新たな指針が芸能界に及ぼす影響

 なかでも、特に高評価だったのは『秒速5センチメートル』だ。森は、松村北斗演じる青年・遠野貴樹へ密かに想いを寄せる離島出身の女子高生・澄田花苗役。元のアニメに思い入れのあるファンが多いことから実写化は不安視されたが、森は独特の“こじらせ”を見事に匂い立たせ、〈好きな男の子の前でモジモジする森ちゃんが可愛すぎて人間国宝レベル〉〈懸命なのに空回る恋のやるせなさが響いた〉などとオタクたちを唸らせた。

オーディション無双からの『天気の子』

 2016年、中学生だった森は地元・大分県でのスカウトをきっかけに、芸能事務所「アーブル」にて芸能界入りした。直後から頭角を現し、『東京ヴァンパイアホテル』(2017、Amazonプライムビデオ)のオーディションに合格すると、2017年中に『先に生まれただけの僕』(日本テレビ系)で地上波ドラマ初出演、映画『心が叫びたがってるんだ。』で銀幕デビュー。オーディション情報サイト『Deview/デビュー』で「オーディションにめっぽう強い15歳の新人女優」(2017年6月28日配信記事)と紹介されるほど、破竹の勢いを見せた。

 ドラマ評論家の吉田潮氏は、森が18歳のときに出演した映画『最初の晩餐』(2019)で、その類を見ない力に惹きつけられたことを振り返る。

 同作は“通夜ぶるまい”を通じて父との思い出を振り返っていく家族物語で、森は病気で父を亡くした長女(戸田恵梨香)の少女時代役だった。小学生から高校生までを一人で演じ、父の再婚により新しく増えた家族との関係にギクシャクする空気感や、その繊細な機微を表現してみせた。

「“演技”の匂いがしなくて、完全に“その家の子”。家族って、家族にしか見せない表情や愛想のなさなど、家族ならではの空気感があるでしょう。それがあまりにもナチュラルに溶け込んでいて、見終わったあとで“あ、あれ森七菜だったんだ”と認識したほどでした」(吉田氏、以下同)

 同年7月には、2000人以上が参加した新海誠監督のアニメ映画『天気の子』でヒロイン・天野陽菜役に大抜擢、「第14回声優アワード(2019年度)」で新人女優賞を受賞した。勢いは止まらず、2020年にはNHK連続テレビ小説『エール』で朝ドラに初出演している。

移籍トラブルで“消えた女優”扱い、不発時代

 順調にキャリアを積んでいるように見えたが、2021年1月15日に突然インスタグラムが閉鎖、「アブール」公式サイトからは、プロフィールが削除。何があったのかとSNSがざわつくなか、同月24日に大手芸能事務所「ソニー・ミュージックアーティスツ(SMA)」との業務提携が発表されるも、週刊誌などで「掟破りの引き抜き移籍トラブル」が報じられ、微妙な立ち位置が続いた。密かに“消えた女優”扱いの向きもあった。吉田氏が、その頃の森の出演作を振り返る。

「(移籍後、ドラマ初主演となる)『真夏のシンデレラ』(2023、フジテレビ系)は、2022年度『第34回ヤングシナリオ大賞』の大賞を受賞した市東さやかが脚本を務めた完全オリジナル作。『コンフィデンスマンJP』シリーズ(2018〜2022、フジテレビ系)や『やんごとなき一族』(2022、フジテレビ系)の田中亮が演出・監督という、フジ的には相当気合いの入った作品でしたが、古臭い王道ラブストーリーで森七菜の良さが全然伝わらず、ズタボロ。以来ドラマは不発続きでした」

“自意識モンスター”が「エグい」業界人大絶賛

 そんな不遇の時を経て、現在の森は“覚醒状態”にあると吉田氏は見る。それを感じさせたのが、昨年NHK総合「夜ドラ」枠で放送された『ひらやすみ』だという。

 同作は、29歳フリーター・生田ヒロト(岡山天音)が、些細なきっかけで知り合った地域のおばあちゃんから譲り受けた平屋で暮らしながら、生きづらさに悩む周囲の人々の心を解きほぐしていくスローライフストーリー。森が演じたのは、美大に通うために山形から上京し、ヒロトが住む平屋に転がり込んだ18歳の従姉妹・小林なつみ役だった。

 元テレビ東京社員でテレビプロデューサーの佐久間宣行氏は、自身のYouTubeチャンネルで東野幸治とともに2025年のエンタメを総括するなか、口を揃えて「森七菜がエグい」と大絶賛。実際に同作で森は、「モデルプレス ベスト ドラマアワード2025」と「第126回ザテレビジョンドラマアカデミー賞」で助演女優部門1位を獲得している。

「(森が演じた“なつみ”は)漫画家になりたいという夢を持ちながら、周りからオタクだと思われるのが嫌な自意識モンスターの“こじらせ”女子。なつみは、『自分は美大生だし、センスが良い(はず)』と確固たる自信がありつつも、『でも、山形のド田舎出身だしな…』という自信のなさが消えず、自分で自分が面倒くさいタイプなんですよね。そして森七菜は、過剰な自意識と低い自己評価の間にある“揺らぎ”を体現できる」

 その揺らぎは、共演者の輪郭を際立たせる役割をも果たす。

「なつみは、居候のくせに、引越し初日から『こんなボロ家イヤだ』とか、『タワマンがいい』とか言い放つ遠慮のなさがあり、傍若無人感を全開にする。それが自然体だからこそ、ヒロト(岡山天音)の穏やかさが際立つ」

 吉田氏によれば、森の武器は「破壊力のある無頓着」。どういうことか。

「他人には言えないけど、家族なら許される悪態がある。嫌われる、嫌われない、といったことを考えないでぶつかることができる。裏を返せば、もともと人間は、家族以外の他人にはフィルターがあり、成長すればするほど『よそ行きの顔』を身につけてしまう。俳優も、家族を“演じる”ことに長ける人はいるけど、森七菜はフィルターがない、『自我が固まる手前』の顔を表現できるんだと思います。体当たりする無頓着の演技に“素”の破壊力がある」

 その破壊力は、Netflixドラマ『舞妓さんちのまかないさん』(2023)でも存分に発揮された。まかないさん(=舞妓たちが共同生活する屋形の料理担当)の野月キヨを演じた森について吉田氏は、「(同作の監督)是枝裕和さんは、邪気のない表情を撮るのがすごく上手な人。是枝組に森七菜をぶち込んだら最高だろうな、という期待通りのものを出してくれた」と評する。

『秒速』で宮﨑あおいが絶賛した“邪気のなさ”

 さて『秒速』で森が演じた澄田は、離島育ちのピュアな女子高生。ヨーグルッペを飲みながら意中の男子を横目で見る仕草ひとつとっても、「邪気のなさ」が自然に滲み出る森だからこそ、魅力的な演技になる。共演した宮崎あおい(「崎」の正式表記=たつさき)は、「リアルサウンド」のインタビュー(2025年10月27日配信)で、撮影当時、22〜23歳で高校生役を演じた森について

「全くそう(=年齢ギャップがあるように)は見えなかったんです。本当に『よしよし、いい子いい子』ってしたくなるようなかわいさで(笑)。映画の中でも、あんなに体中から“好き”が溢れている子は見たことがなかったですが、それを自然に出せるのは本当にすごいことだなと思いました」

と語っていた。

 そしてそうした「邪気のなさ」は、言い換えれば「色気のなさ」ということでもある。俳優にはどうしてもダダ漏れる、眩しい「色気」があるタイプとないタイプがいるが、森は“ない”側だ。もちろん、それこそが森の役の幅を広げている底知れなさであるのは言うまでもない。

「もし広瀬すずや永野芽郁が天衣無縫なキャラを演じたとしても、『お前、男まどわすだろ!』みたいな色気がダダ漏れるでしょ(笑)。森七菜はまだ、モラトリアムにいる。というか、そこにいてほしい。だって、“色気のある大人”は不可逆性で、もう戻れないから」

『炎上』では“トー横キッズ”

 森の「邪気のなさ」は、後天的に身に着けた「術」ではない。「無邪気なキャラ」を演じられる“実力派”、あるいは“憑依型”という修飾で語られない。

「言ってみれば“山猿感”。役者は人に見てもらうのが仕事だから、無意識のうちに役柄に合う表情を“作る”ものだけど、時にはそれが邪魔になることがある。たとえば無邪気を演じようとして変顔したり面白さに振ってみたり、手っ取り早くあざとい方向にいく人もいるけど、森七菜にはそれがない。カメラが回っているのに、作為なく立っていられるのは才能だと思います」

 4月10日には主演映画『炎上』の公開が控えている。森が演じるのは、宗教2世の少女。宗教教育を過度に行う両親から逃げるように家出し、新宿・歌舞伎町「トー横界隈」に救いを求めるところから始まる物語だ。自身、「週刊文春CINEMAオンライン」の取材に「日常を丁寧に演じることで、彼女たちが抱える闇がより浮かび上がるよう意識しました」と語っていた同作で、自意識と自己評価の間で揺らぐ森がどんな“こじらせ”を見せてくれるのか。

日本アカデミー賞も『国宝』の独壇場か?

(取材・構成=吉河未布 文=町田シブヤ)

町田シブヤ

1994年9月26日生まれ。お笑い芸人のYouTubeチャンネルを回遊するのが日課。現在部屋に本棚がないため、本に埋もれて生活している。家系ラーメンの好みは味ふつう・カタメ・アブラ多め。東京都町田市に住んでいた。

X:@machida_US

最終更新:2026/04/08 12:00