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大麻への考えが変わらない日本は規制強化 合法化広がる米国では中国マフィアが甘い汁

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イメージ画像(写真:Getty Imagesより)

 大麻の規制を強化する大麻取締法と麻薬取締法の改正法が、昨年12月12日に施行された。若年層を中心に大麻の乱用が拡大しているためで、大麻を「麻薬」としてとらえ、他の規制薬物と同じように「使用罪」を適用することにした。米国では大麻の娯楽目的での使用が州レベルで広がっており、現在では半分近くの24州が合法化している。大麻についての日米の考えの違いは広がるばかりだ。

 35年ほど前、横浜で駆け出しの事件記者をしていたころ、薬物事件を飽きるほど取材した。捜査員は来る日も来る日も、薬物に手を染めた「どうしようもない」常習者や密売人を追いかけていた。

 大方の薬物犯罪は事件としては「大きなヤマ」にならない。ましてや大麻となればなおさらで「しょぼい」事件ばかりだった。警察が容疑者をあげて胸を張って発表しても、テレビでは放送されず、新聞でも地域面のベタ記事になるのが関の山だった。

 当時、警察署レベルでは防犯課が薬物の取り締まりと捜査を担当していた。ある日、大麻事件の捜査が終わって、ほっとした顔をしていたある署の防犯課長に「もっと派手な仕事をやりたいでしょ」と水を向けた。すると防犯課長は「とんでもない。小さくても大きいのが大麻事件だ」と切り替えしてきた。

「大麻は間違いなくコカインやヘロインなど他の薬物への入り口だ。ここで薬物常習者になる芽を摘まないと、こっちは忙しくなって死んじまう」

 この時の防犯課長の言葉は、今回の大麻の取り締まりの強化の理由を明確に物語っている。大麻を他の薬物の「ゲートウエー」としてとらえる日本の姿勢は長い間、変わっていない。米国のように大麻を娯楽用途として認めようという考え方は、現在も当局には微塵もない。

 その大麻事件の摘発者数が年々、増加してきた。厚生労働省によると2023年は6703人にのぼり、初めて覚醒剤の摘発者数を上回った。

 このままでは大麻だけでなく、他の違法薬物が国内にまん延する恐れが一段と高まったという危機感が法改正の背景にある。

合法化が進むアメリカ

 一方で薬物のまん延から抜け出せず、毎年10万人以上が薬物の過剰摂取で死亡している米国では、大麻は合法化の道を歩んでいる。

 2012年にコロラド州とワシントン州で大麻の娯楽使用が認められて以降、2014年にアラスカ州、オレゴン州、首都ワシントンが、2016年にカリフォルニア州、メーン州、マサチューセッツ州、ネバダ州が、2018年にミシガン州、バーモント州が、2019年にイリノイ州、グアムが、2020年にニュージャージー州、モンタナ州、アリゾナ州が、2021年にニューヨーク州、バージニア州、ニューメキシコ州、コネチカット州が、2022年にロードアイランド州、メリーランド州、ミズーリ州が、2023年にデラウェア州、ミネソタ州、オハイオ州が、それぞれ住民投票で合法化を決めている。その数は24州と2地域に上る。

 個人が所持できる大麻の量や、個人で栽培できるかどうかは州によって異なる。例えばマサチューセッツ州では、21歳以上の成人なら1オンス(28.35グラム)まで持ちあることができ、自宅に10オンス(283.495グラム)まで保管することができる。家庭での栽培も認められており、1人当たり6本まで、成人2人以上の世帯では12本までの栽培ができる。

 米国は、連邦の法律では大麻は違法薬物である。薬物の製造や乱用を取り締まる「規制物質法」で、大麻はヘロインや合成麻薬LSDなどとともに、乱用の可能性が高い「スケジュール1」に分類されている。

州が大麻を合法化する理由は

 連邦法に反してでも州が大麻を合法化させるのは、税収の拡大と犯罪件数の減少を達成させるためだ。

 合法化された州では、当局の許可を得た業者だけが大麻の製造と販売が許される。州は売り上げに対して課税するが、大麻だけの物品税を導入している州もある。

 大麻合法化を推進する米国最大のロビー団体「マリファナ・ポリシー・プロジェクト」の試算では、2023年だけで合法化した州の大麻関連の税収は40億ドル(6000億円)に上ったという。

 犯罪の減少は、合法化によって警察が大麻をめぐる捜査をやめることで、凶悪事件への捜査に力を振り向けることができ、治安の向上につながるという理屈によるものだ。

大麻合法化の現実

 コロラド州とワシントン州では合法化後に凶悪事件の検挙率が向上したとの指摘もある。しかし、犯罪だったものを犯罪としてカウントしないというだけの見せかけの「犯罪減少」という側面もあり、本当の意味での治安回復にはつながらない。
ニューヨーク市内では、外を歩けば必ずと言っていいほど大麻の臭いがする。車で窓を閉めて走行していても、どこからともなく大麻の臭いが漂ってくる。それほど大麻は身近に存在する。

 ブロンクスなどでは地下鉄の駅近くに、違法な大麻販売の露店が並び、街路樹の根元で大麻栽培が行われている。

 合法化によって消滅するだろうと州当局が期待した大麻のブラックマーケットは、活況を呈している。許可された業者だけでは大麻の需要はまかないきれない。合法化で需要は伸びるばかりだ。米CBSなどによると、ブラックマーケットは中国マフィアが牛耳るようになり、メーン州などでは、中国マフィアの巨大な違法大麻栽培農場が摘発されている。

 中国マフィアは違法大麻で得た資金を、米国で最も深刻な薬物過剰摂取を引き起こしている合成麻薬「フェンタニル」の製造・密輸に回しているとされる。大麻の合法化が違法薬物のまん延を助長させてしまっている。

(文=言問通)

言問通

フリージャーナリスト。大手新聞社を経て独立。長年の米国駐在経験を活かして、米国や中南米を中心に国内外の政治、経済、社会ネタを幅広く執筆。

最終更新:2025/01/04 20:00