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「スーパーボウル」を政治利用しようとしたトランプ大統領 帰りは渋い顔

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Super Bowlで国歌斉唱のために起立するPresident Donald Trump and Ivanka Trump(写真:Getty Imagesより)

 就任以来、大統領令を連発し世界に衝撃を与えているトランプ大統領は、米国最大のイベントであるプロフットボールNFLの王者決定戦「スーパーボウル」を政治利用しようとした。

 純粋なスポーツイベントを国民が一体となって楽しめるようにと、これまでの現職大統領は決戦のスタジアムに足を向けなかった。トランプ大統領はこの伝統を無視し、2月9日、今年の会場となったルイジアナ州ニューオーリンズのスタジアムで観戦した。途中、大統領専用機内では記者団の前で大統領令に署名。試合前の特別番組内での異例のインタビューでは、一方のチームを応援するかのような発言をする「暴走ぶり」だった。試合では応援したチームはまったくいいところなく惨敗。トランプ大統領は試合半ばでスタジアムを後にした。

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決戦前から対立あおる? チーフスには祝意、イーグルスは無視

 「スーパーボウル」は米国最大のスポーツイベントだ。アメリカン・フットボール・カンファレンス(AFC)とナショナル・フットボール・カンファレンス(NFC)の2リーグの覇者が対決してNFLの王者を決める試合だ。多くの米国市民がアボカドで作ったワカモレ(ソース)をチップスにつけて食べながら、テレビの前に座って観戦するという国民的な行事である。

 「スーパーボウル」の試合中継は毎回、驚異的な視聴率をたたき出す「お化け番組」だ。視聴者への影響力は計り知れず、スポンサーは「スーパーボウル」で放送するためのCMをあえて制作し、毎回、その面白さを競う。政治家が利用するには、これ以上のイベントはない。

 今回はカンザスシティー・チーフス(AFC)とフィラデルフィア・イーグルス(NFC)の対戦となった。3連覇を狙うチーフスのクォーターバック、パトリック・マホームズはトランプ大統領の熱烈な支持者であることでも知られ、チーフスが「スーパーボウル」進出を決めた際には、トランプ大統領はソーシャルメディアでお祝いのメッセージを送っていた。

 一方のイーグルスは、トランプ大統領と因縁の仲だ。2018年にイーグルスが「スーパーボウル」を制した際、人種差別に抗議する一部の選手が試合前の国歌斉唱で起立しなかったことにトランプ大統領が激怒し、ホワイトハウスへの祝賀招待を取り止めた。

 トランプ大統領は2018年のことを根に持っているのか、今回、イーグルスがカンファレンス優勝し「スーパーボウル」の出場を決めても、お祝いのメッセージは発信しなかった。

専用機内で2月9日を「アメリカ湾の日」とする大統領令に署名

 日曜日の2月9日朝、トランプ大統領はフロリダ州の自宅「マール・ア・ラーゴ」近くでプロゴルファーのタイガー・ウッズとゴルフをした後、大統領専用機「エアフォースワン」でニューオーリンズに向かった。娘のイヴァンカ・トランプ氏ら家族や親しい共和党上院議員、記者団も同乗した。

 メキシコ湾を「アメリカ湾」に名称変更した後、初のメキシコ湾地区への訪問となることから、記者団を前に2月9日を「アメリカ湾の日」とする大統領令に署名した。

 現地時間の午後3時45分ごろ、トランプ大統領はニューオーリンズの空軍施設に降り立った。試合を中継した保守系メディアのFOXテレビは夜の試合を前に、昼から長時間の事前特番を放送していた。トランプ大統領が機中にいるころ、特番の中で、単独インタビューを7分間にわたって流した。

 放送の中でトランプ大統領は、両チームを称えてはいるものの「私はカンザスシティーに行かなければならない」と語り、チーフスの勝利を予想した。

 マホームズがいかに優秀な選手であるかを強調し、さらにマホームズの妻も「トランプファンであり、MAGA(メイク・アメリカ・グレート・アゲイン)のファンだ」と称賛した。

 まるで支持者集会での話のようなコメントが並び、「気に入らない」イーグルスではなく、チーフスを応援していることを、内容的にはきっぱりと表明していた。

 また、「51番目の州になるべきだ」と繰り返し主張しているカナダについての話もあり、自分の申し出をカナダが受け入れることがカナダ国民にとって最も適切なことだとする考えを述べた。

フィールドから「End Racism」のメッセージ消える

 すべてがフェアであるはずのスポーツの、それもナンバーワンを決める試合の特別番組にふさわしいとは言えないインタビュー内容だった。

 トランプ大統領が直接見つめたフィールドにも変化があった。NFLは黒人選手が多いこともあり、これまで差別や多様性の問題には敏感だった。

 タッチダウンを奪う両サイドの「エンドゾーン」には、チーム名の後ろの部分に社会的メッセージを記す習慣がある。

 2021年以降、「スーパーボウル」では2つのメッセージのうちの1つのメッセージを「End Racism(人種差別を終わらせろ)」と表記してきた。しかし今回は、これを止めて「Choose Love(愛を選択しろ)」という抽象的なメッセージに切り替えた。

 NFL側は社会問題にかかわる姿勢に変更はない、としているものの、ことあるごとにトランプ大統領と摩擦を起こしてきたNFLがスタジアムに来たトランプ大統領に配慮したと指摘するファンは多い。

 試合は、チーフスは精彩を欠き、イーグルスの一方的な展開となった。40対22でイーグルスの快勝。トランプ大統領はハーフタイムショーが終わった後、第3クォーターが始まって10分がたったぐらいのころにスタジアムを出た。

 苦虫をかんだような顔で「エアフォースワン」に乗り込んだが、ふがいないチーフスのせいで「スーパーボウル」の政治利用は失敗に終わったと感じていたのかもしれない。
(文=言問通)

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言問通

フリージャーナリスト。大手新聞社を経て独立。長年の米国駐在経験を活かして、米国や中南米を中心に国内外の政治、経済、社会ネタを幅広く執筆。

最終更新:2025/02/13 09:00