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トランプ政権のメディア攻撃が先鋭化 「包囲」された報道の自由

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トランプのメディアたたきが再び始まったの画像1
ドナルド・トランプ(写真:Getty Imagesより)

 米国の言論の自由が危機にひんしている。2期目のトランプ政権によるメディア攻撃が先鋭化しているためだ。大統領令の内容に従わないからと取材場所への出入りを禁止し、報道内容が気に入らないからと大手メディアのワークスペースを取り上げ、内容が偏っているからと連邦機関が公共放送に調査に入り、トランプ派の議会がトップを呼び付ける。国際的なジャーナリスト組織「国境なき記者団」は、米国の報道の自由は歴史的に悪化しており、トランプ政権の「包囲網の中にある」と指摘している。

「スーパーボウル」を政治利用しようとしたトランプ大統領

大統領令に従わず「アメリカ湾」と呼ばないから「出入り禁止」

 米国を代表する報道機関であるAP通信は2月11日以降、ホワイトハウスでの公式行事の取材ができない。13日にはインドのモディ首相がホワイトハウスを訪問したが、その際もトランプ政権に取材を断られた。大統領専用機「エアフォースワン」での取材も拒否されている。

 原因は「メキシコ湾」を「アメリカ湾」に名称変更するとした大統領令だ。AP通信は通信社として世界の多くのニュースメディアに記事を配信しており、AP通信が使用する用語は各メディアの用語の基準にもなっている。AP通信は、トランプ大統領が大統領令に署名した後の1月23日、「アメリカ湾」は使わず、これまで通り「メキシコ湾」を使用することを、表記の基準として明らかにした。

 「アメリカ湾」という表現を米国以外の国が広く認めていないことや、メキシコ湾の多くの部分が米国の外にあることなどを考慮して、400年以上使用されている「メキシコ湾」の呼称を今後も使用するとした。

 呼称については大統領令署名後も、一部の保守系メディアを除きほとんどのメディアが「メキシコ湾」を使用しているが、トランプ政権はAP通信をやり玉に上げて攻撃した。

 トランプ政権のテイラー・ブドウィッチ広報担当次席補佐官は、ソーシャルメディアの「X」に「AP通信の決定は分断をもたらせているだけでなく、AP通信が誤った情報に関与していることを露呈している」と強く批判した。その上で「無責任で不誠実な報道に対する権利は憲法修正第1条(言論の自由)で保護されているが、大統領執務室やエアフォースワンなどの限られたスペースに自由にアクセスできる権利は保障されない」と記している。

 AP通信の記者は、ホワイトハウスの入館証を取り上げられたわけではないが、ホワイトハウスでの取材の自由を奪われた。

国防総省ではリベラルメディアがワークスペースから締め出される

 国防総省では「メディアの粛清」が行われた。大手新聞社のニューヨーク・タイムズや3大ネットワークの1つであるNBC、公共ラジオ放送のNPR(ナショナル・パブリック・ラジオ)、政治専門ウェブメディアのポリティコが国防総省内の記者室のワークスペースを失った。NBCは生中継するスペースも使用できなくなった。
「メディアローテーション」という制度を設け、毎年、国防総省内の記者室のワークスペースを使用できるメディアを見直すことにしたという。

 国防総省内では、性的暴力疑惑が浮上してさんざんたたかれたヘグセス国防長官のメディアへの復讐だという見方が広がっている。

 ワークスペースを奪われたのは、リベラル派と言われるメディアで、事前に説明はなかったという。

 代わりにワークスペースを与えられたのはワン・アメリカニュース・ネットワーク、ニューヨーク・ポスト、ブライトバード・ニュース・ネットワーク、ハフィントン・ポストだ。ハフィントン・ポスト以外は保守系メディアである。

 リベラル派のハフィントン・ポストは国防総省に専従記者は配置しておらず、ワークスペースを希望したこともないという。

 国防総省が「口うるさい」リベラルメディアを排除し、トランプ政権の主張を好意的に流すメディアを優遇したと見るのが自然である。

米連邦通信委員会がテレビ局を調査、公共放送はトップが議会に呼び付けられる

 「公共放送たたき」も目立っている。

 NPRとPBS(公共放送サービス)は、民間企業である3大ネットワークやCNNなどのニュース専門チャンネルとは一線を画した冷静な報道が米国民から評価されている。しかし、トランプ大統領は1期目のころから、連邦予算を主な運営費としているNPRとPBSの放送内容がリベラルに偏っているとして不満だった。

 トランプ大統領は2期目で、メディアに対して強硬派のブレンダン・カー氏を、放送業界を監督するFCC(米連邦通信委員会)の委員長にした。カー氏はNPRとPBSの放送内容が的確かどうかなどの調査を始めた。また、FCCと連動する形で共和党が与党の議会はNPRとPBSのトップを証人に呼び、予算を盾に圧力をかけた。

 さらにFCCは3大ネットワークへの調査も進めている。CBSには、ニュースの歪曲があったかどうか、ABCについては大統領選でのトランプ氏とハリス氏の討論会の扱いに問題がなかったかどうかを調べている。NBCニュースの親会社が所有するコムキャストに対しては、同性愛者などが優遇されているようなことはないかなど、多様性の問題を持ち出しての調査を行っている。

 3大ネットワーク自身はFCCからライセンスを受けていないが、放送を流している傘下のローカル放送局はFCCから放送免許を受けている。免許を盾にした圧力だ。

 米国では大統領選の最中から、メディアの委縮は始まっていたと言われている。ワシントン・ポストやロサンゼルス・タイムズがオーナーの命令でハリス氏支持の公表を見送った。選挙後、ABCは、ニュース番組のキャスターの発言をめぐってトランプ氏から訴えられた名誉棄損で、法廷闘争を避けるため1500万ドル(約23億円)を支払うことを決めて早々に和解した。

 そのABC系のスポーツ専門局のESPNは、トランプ大統領の就任式があった1月20日に行われた大学フットボールのプレーオフの生中継で、ハーフタイムの時間に事前収録したトランプ大統領の政治的なメッセージを放送した。ABCやESPNの社内でも、スポーツの政治利用を許した社の姿勢に批判が出ているが、トップが責任を取るような事態には発展していない。

 トランプ大統領は放送や記事の内容をめぐってCBSやアイオワ州の地方紙デモイン・レジスターも提訴している。

 権力からの圧力で委縮するようではジャーナリストの名折れだが、「国境なき記者団」は米国メディアがトランプ政権の「包囲網の中にある」と指摘し、米国の報道の自由が危機的状況にあると警告している。
(文=言問通)

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言問通

フリージャーナリスト。大手新聞社を経て独立。長年の米国駐在経験を活かして、米国や中南米を中心に国内外の政治、経済、社会ネタを幅広く執筆。

最終更新:2025/02/25 09:00