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教育ジャーナリスト・後藤健夫の「Fランクから消滅大学になる日」教育ビジネス論#6

募集停止大学は実は都市圏に集中していた…その理由とは?

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地方の若者にとっての憧れは、都市圏でのキャンパスライフ!?(写真:GettyImagesより)

 2023年の出生数は全国で727,288人だが、その中で最も少ない都道府県は鳥取県で3,263人である。続いて、高知県3,380人、秋田県3,611人、島根県3,759人、徳島県3,903人だった。ちなみに、東京都八王子市の23年の出生数は2,624人である。

消滅危機が迫る大学の条件

 一方、東京都は86,348人、神奈川県53,991人、埼玉県42,108人、千葉県35,658人であり、1都3県で3割を占めている。首都圏の出生数が際立ち、一極集中に拍車がかかっている様子がここでも見て取れる。

 さて、鳥取県をはじめ出生数が少ない県では大学が少なく、それらの入学定員を合わせてもそれほど多くない。地元の高校生の6割が進学してくれれば、定員割れを回避できる可能性もあるだろう。

 だが、都市圏の大学が地方から学生を引き寄せる力は極めて強い。しかも、高校生の進学先を地元に押さえ込むことなどできない。ドラマや映画で華やかな舞台となるのは、しばしば東京をはじめとする都市圏である。「いつか自分もあの街で暮らしてみたい」と思う地方の若者は少なくないだろう。しかも、東京工科大学をはじめ、大学のキャンパスがロケ地になることも多い。そのため、東京の大学への憧れが強くなるだろう。だから大学進学を契機に都市圏にやってくる若者が増える。地方と都市圏の生活スタイルに差が広がれば、この傾向はますます強くなるだろう。

 そもそも地方には自宅から通える大学は少ない。地方には、大学だけでなく高校ですら自宅から通えないケースもある。交通機関が発達した都市圏には大学が多く、自宅から通学できるという条件で絞っても選択肢が豊富だ。人口も多いため、そのような環境で育った若者も少なくない。

 こうした様子から、地方の大学は若者が地元から流出することと相まって、閉校しやすいと考えられる――こうした認識を持つ人は少なくないだろう。

 しかし近年、募集停止を公表した大学(短期大学を除く)は、意外にも都市圏に集中している。

 毎年、日本私立学校振興・共済事業団が私立大学・短大等の「入学志願動向」を調査して資料にまとめているが、そこには大学の入学定員充足率を地域別にまとめたものがある。それを見ると2024年度の大学入学定員充足率は以下の表のようになっている。

地域 2000年度 2024年度
北海道 106.05 94.28
東北(宮城を除く) 95.70 78.14
宮城 104.51 96.85
関東(埼玉、千葉、東京、神奈川を除く) 109.21 102.35
埼玉 107.63 91.19
千葉 105.74 94.52
東京 101.16 102.20
神奈川 103.12 96.29
甲信越 103.13 91.67
北陸 106.93 88.66
東海(愛知を除く) 105.69 90.50
愛知 103.61 98.89
近畿(京都、大阪、兵庫を除く) 105.70 80.88
京都 98.86 98.44
大阪 105.60 101.46
兵庫 101.72 94.87
中国(広島を除く) 97.25 78.31
広島 100.29 86.68
四国 91.37 76.23
九州(福岡を除く) 101.91 94.34
福岡 106.10 104.56
全国 102.61 98.19
【表】大学入学定員充足率(日本私立学校振興・共済事業団「令和6(2024)年度 私立大学・短期大学等入学志願動向」より作成)

首都圏を囲む「環状8号線」という境界線

 地方の大学が、すべて入学定員を満たせていないわけではない。とはいえ、それらの大学も経営が万全とは言い難い。その一方で、都市圏でも定員割れを免れているのは、東京、大阪、福岡のみである。若者は埼玉、千葉、神奈川から東京へ、京都、兵庫から大阪へ、九州各県から福岡へと流入する。広島から大阪、宮城から東京への流入も少なくないだろう。愛知に至っては、名古屋のトップ私立大学である南山大学は、成績上位層が東京、関西の双方に入学者を獲られていることを嘆く状態だ。

 さらに、同じ東京でも、環状8号線の内側と外側では募集状況は変わる。若者はますます都心へと向かっているのだ。例えばバブル期には、多摩地区への予備校進出が相次いだ。駿台予備学校は八王子に、河合塾と代々木ゼミナールはより新宿に近い立川に校舎を設けたが、おわかりになるように最初に校舎を手放したのは駿台だ。

 こうした傾向はこの話に限ったものではない。同じ大学でも都心にあるキャンパスと郊外のキャンパスでは募集状況が明らかに異なる。当然、都心キャンパスに学生は集まる。名古屋市のターミナル駅周辺には、多くの私立大学がキャンパスを進出させている。若者が集まりやすい立地を求めての進出だ。同じ学部であれば、なにかと便利な都心の大学を選ぶ傾向はもちろん強い。だから環状8号線よりも外にある大学で募集に苦戦する大学が多くなる。

 神奈川大学、関東学院大学は横浜市街地にキャンパスを設けた。東京方面からの学生流入は見込めないが、東京までの通学が難しい小田原、横須賀、藤沢、静岡といった地域からの入学者は期待できる。つまり、都心へ流れる学生の確保は難しいが、キャンパスよりも遠方の地域からの入学者には期待できるということだ。

 これは東京の環状構造を考えるとわかりやすい。私が環状8号線を例に挙げた理由でもある。立川には八王子があるが、八王子の外には多くの受験生を抱えた町がない。こうした地理的な問題はどこにもあるのだ。

 通学の利便性は受験生に重視される。最寄駅からバス移動が必要な大学は、受験生に敬遠されやすい。一度に乗車できる人数が少なく、さらに交通渋滞に巻き込まれて遅れることがある。雨の日は特に時間を読めない。

 こうした状況から、募集停止に追い込まれる大学は、むしろ都市圏に多い傾向がある。すでに2月の時点で、極端に募集状況が悪化している郊外の大学があると聞く。

 この4月の入学状況によっては、都市圏郊外の大学のキャンパス閉鎖や募集停止がさらに増えるかもしれない。

(文=後藤健夫/教育ジャーナリスト)

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後藤 健夫

コラムニスト/教育ジャーナリスト/大学コンサルタント
南山大学を卒業後、学校法人河合塾、早稲田大学、東京工科大学等に勤務。現在、大学の募集戦略支援や高校の大学進学支援、「探究学習」のカリキュラム・教材開発、授業改善等に従事。日本経済新聞に「受験のリアル<大学編>」を連載するなど、コラムや記事を執筆。

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後藤 健夫
最終更新:2025/03/06 18:00