『ザ・ノンフィクション』密着の古着ビジネス 元RADWIMPSメンバーも参戦、沸騰する“令和のゴールドラッシュ”の危うさ

近年、ファッション業界で一大ブームの「古着」。東京の古着屋の聖地・下北沢では、一攫千金を狙う若者がオーナーを務める古着屋が軒を連ねているが、ドキュメンタリー番組の『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)が2週にわたってその内情に迫った。
「番組は下北沢の3人の古着店経営者に密着。大学を中退して退路を断ったヨウさん、“金持ちになるのが夢”と語る現役大学生のアイリさん、古着愛に溢れるタカラさんという3人ですが、結論は“そう甘くない”の一言に尽きます。
ヨウさんは精力的にビジネスを拡大しますが、パタッと売れない時期が訪れ、頭を抱える日々。アイリさんは他人に店を任せることができず、留年の危機に晒されたかと思えば、無理して体調を崩す始末。タカラさんは常に全財産が数万円のカツカツ生活で、スタッフに逃げられてしまう。タカラさんが古着業者の倉庫に積まれた数トンの古着の中から1枚のお宝を発見して狂喜乱舞するも、その服が古着の山に埋もれてしまい、落胆する様子は涙を誘いました」(WEBメディア編集者)
ブームには必ず光と影がある。古着業界は近年右肩上がりで成長を続けており、『セカンドストリート』を筆頭に大手リユースチェーンはどこも堅調だが、この状況を「単なるバブル」だという関係者は少なくない。カルチャー誌の編集者は言う。
「古着ブームの認知度が高まったのは、昨年5月放送の『クレイジージャーニー』(TBS系)にヴィンテージTシャツのバイヤーが登場し、数十万円、数百万円の値が付くTシャツを紹介したこと。以降、古着のTシャツの値付けは明らかに変わりましたし、タンスの奥に眠っていたロックTシャツを売る客も増えた。古着屋も次々とオープンしています。
ただ、個人店が大型チェーンに立ち向かうのは相当に難しい。大型チェーンは毎日のように古着を持ち込む客がいるので、黙っていても仕入れができる上、買い取り値も二束三文ですが、個人店は自分で仕入れをする必要があり、仕入れ値も高くなる。安定的に良い品が確保できるルート、2~3カ月売り上げが落ちても耐えられる経済力、他店との差別化、SNSを使った集客、目利きのスキル、どれか1つ欠けても経営は上手くいきません」
番組ではタカラさんが、飛び込みで営業に来たバイヤーから購入したヴィンテージTシャツに4万5800円の値を付けるシーンも放送された。しかし、元ミュージシャンで、現在は関西地方でアパレルショップを経営するYさん(40代/男性)は、ヴィンテージTシャツの危うさについてこう語る。
「例えばロックTシャツの場合、原価はせいぜい1500円ぐらい。もともと古着業界はニセ物に寛容で、“コピー品”“ブート”などと言って平気で店に並べる文化がありますが、原価が1000円台のものが数万円で売れるなら、必ず偽造品が出回ります。古着屋のオーナーやマニアは目利きができるでしょうが、たとえ粗悪品でもニセ物が出回れば、“悪貨は良貨を駆逐する”です。
正規品とコピーの見分けがつくのかどうかも疑問です。世界を回るメジャーバンドの場合、輸送費がバカらしいのでTシャツは現地の工場でオーダーすることが多い。さらに、途中で売り切ってしまって急遽発注することもあり、同じTシャツでも製品にブレがあるケースなどいくらでもある。何枚作って何枚売れたかなんて、本人たちだって正確に把握していません。あらゆる情報があやふやなのに、自信を持って本物だと言い切る人の意味が分からない。
正規品かどうかを見分けるポイントはタグ、コピーライト、かすれ具合などですが、どれも“偽造”は可能です。タグだけ別のTシャツから剥がしたり、偽造したと思しきタグを貼り付けたTシャツも見かけますし、コピーライトに至ってはもともと付いていないバンドも多い。ヨレヨレ具合も再現できます」
それでも元RADWIMPSの桑原彰は、昨年秋にヴィンテージTシャツショップを開店。超人気バンドメンバーのまさかの転職先は大きな話題となったが、一部からは“転売ビジネスだ”との批判も寄せられた。前出のカルチャー誌編集者はこう話す。
「業界全体が転売ヤーのようなことをしている状況で、“勝ち組”に回れるのは結局ごく一部。古着シーンは盛り上がっていますが、購買層は非常に少ないのが現実です。そもそも古着が好まれる最大の理由は安さだったはずなのに、くたびれたネルシャツやTシャツに“レトロ”“ヴィンテージ”“レア物”といった宣伝文句をつけて、数万円で売りつけるビジネスにはどう考えても限界がある。90年代の古着ブームが終わったように、ファッショントレンドの移り変わりは早いですから、これから古着業界に参戦するのは相当なチャレンジでしょう」
ブームが長続きすれば1つの文化として業界が成熟するかもしれないが、シーンの中心となる移り気な若者が、そこまで待ってくれるか……。
(取材・文=藤井利男)