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ナイキの新作スニーカーを狙って「列車強盗」多発

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イメージ画像(写真:Getty Imagesより)

 米西部の砂漠地帯で貨物列車から輸送中の積荷が奪われる事件が多発している。窃盗団は分業化されており、手早く貨物列車を止め、盗みを働き、並走したトラックに盗品を積んで逃走する。世界的に人気のナイキのスニーカーが標的で、この1年で200万ドル(約3億円)相当の新作のスニーカーが盗まれた。盗品はAmazonなどオンラインで販売されていた。「列車強盗」は西部劇によく登場する古典的な犯行だが、オンラインショッピングの隆盛が、列車から金目の商品を盗み出す行為を21世紀によみがえらせた形だ。

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列車のブレーキシステム切断し急停止させ…

 米西部カリフォルニア州からネバダ州、アリゾナ州にかけては広大なモハベ砂漠が広がる。米国を横断し、アメリカン・ドリームの象徴といわれた国道「ルート66」はこの中を走っていた。現在は廃線となり、「インターステート(州間高速道路)40」がかつての「ルート66」をなぞるように走っている。

 走行中の列車を狙った窃盗事件は、この「インターステート40」に沿って走る大手貨物鉄道「BNSF」で起きていた。

 1月13日午前11時ごろ、アリゾナ州の辺境地域ペリンを走行していた貨物列車が急停止した。車両間を結ぶ空気圧縮ブレーキホースが切断され、緊急ブレーキシステムが作動したためだ。

 米国の鉄道会社はそれぞれ「Police」を名乗る法執行機関を社内に設置し、現職の警察官らが任務に就いているが、この貨物列車にも捜査員が乗り込んでいた。急停車を受けて、周辺を捜索したところ、線路脇にナイキのスニーカーの箱が散乱していた。

 さらに調べたところ、男らが貨物車両をこじ開けて積荷のナイキのスニーカーを2台のトラックに運び込んでいるのを発見した。

 捜査員は男らの身柄を確保するとともに、盗んだ品を押収したが、男らが狙っていたのは3月14日に発売される予定の「ナイジェル・シルベスターxエアジョーダン4S」だった。米国では1足225ドル(約3万3000円、日本国内価格は税込み3万4650円)で販売される予定のスニーカーで、1985足、約44万ドル(約6565万円)相当を盗んでいた。

 「ナイジェル・シルベスターxエアジョーダン4S」は自転車競技「バイシクルモトクロス」(BMX)の人気選手、ナイジェル・シルベスター氏とナイキのコラボ商品で、かかとに「NIKE」ならぬ「BIKE AIR」と記されているのが特徴だ。 発売前から大人気となり、転売サイトなどでは既に価格がつり上がっている。

逮捕の11人はメキシコ人 うち10人は密入国者

 アリゾナ州の地区検察局によると、この事件では11人が逮捕された。いずれもメキシコ人で、うち10人は不法滞在者、もう1人は米国への亡命手続き中だった。

 2024年12月6日にはアリゾナ州ヤンパイ近郊で、窃盗団が同様の手口で、当時未発売だったナイキの「ダンクロー・ミッドナイトネイビー」を盗み出した。被害額は約4万8000ドル(約700万円)だった。

 11月20日にはアリゾナ州ハックベリー近郊で、当時未発売だったナイキの「エアジョーダン11・レトロレジェンドブルー」約4万1400ドル(約610万円)相当が盗まれた。

 捜査当局によると、9月、6月、4月にも発生しており、2024年3月以降、同様の事件は10件にのぼっている。

 このうち9件はナイキのスニーカーが標的となっていた。被害総額はスニーカーだけで約200万ドル(約3億円)にのぼる。

 いずれも貨物列車の乗務員らを脅したり、暴力でけがをさせるようなことはなく、強盗とはいえない窃盗事件である。

ギャング組織が深く関与か

 列車からの窃盗行為は「専門的な技術」が必要とされる。走行中の貨物列車に飛び乗り、空気圧縮ブレーキホースを切断して列車を止め、コンテナの鍵をこじ開け、積荷を運び出す。運び出した盗品は素早くロサンゼルスなどに運搬し、インターネット上で販売される。

 荒っぽいようで、計画性の高い緻密な犯行で、個人や数人レベルが興味本位でできるものではない。ナイキのスニーカーなどマーケット価値が高い商品が、いつ、どのルートで運ばれるかという情報も事前につかんでおかないとならず、場合によっては内通者も必要になる。

 こうしたことができるのは、大規模な犯罪組織である。米国の司法当局は、メキシコ・シナロア州を本拠地とする暴力団組織「シナロア・カルテル」が一連の犯行を手引きしているとにらんでいる。

 6月に捜査当局がリーダー格とみられる男を逮捕したが、犯行が衰える気配はない。

 今回、標的となったナイキのスニーカーはアジア諸国で製造されたものとされ、西海岸のロサンゼルスで陸揚げされて、貨物列車で米国各地に運ばれる最中だった。

 オンラインショッピングが発達し、顧客へのスピード配達が必要となった現在、貨物輸送は商品輸送の要となった。

 貨物列車を走らせる鉄道会社の成長性への期待は高まっており、有名投資家のウォーレン・バフェット氏が2009年に「BNSF」を買収したほどだ。

 20世紀初頭には西部で鉄道強盗が頻発し、映画などにも登場したが、電子商取引が広がった現代もギャング組織は人気のない西部の砂漠で荒稼ぎしている。

 鉄道貨物を狙った盗難被害は、こうした派手な犯行だけに限らない。車両の出発前に都市部で盗みに入られるケースも多い。

 米国鉄道協会の推計によると2024年の貨物列車での盗難事件は6万5000件で、前年比で40%も増加している。大手鉄道会社の被害額は1億ドル(約148億円)以上になるという。

(文=言問通)

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言問通

フリージャーナリスト。大手新聞社を経て独立。長年の米国駐在経験を活かして、米国や中南米を中心に国内外の政治、経済、社会ネタを幅広く執筆。

最終更新:2025/03/12 09:00