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桐蔭横浜大学・石河睦生の「都市伝説になるかもしれない人たち」#7

桐蔭横浜大発ベンチャー代表・田中梨瑚「超音波で花をアートに変える若き科学者」

桐蔭横浜大発ベンチャー代表・田中梨瑚「超音波で花をアートに変える若き科学者」の画像1
「ミスティックフラワー」代表田中梨瑚さん

「制御システム」や「電子機能システム」を専門とし、特に超音波工学と圧電材料学に精通する桐蔭横浜大学専任講師・石河睦生が、“なぜか不思議と幅広い”ネットワークを活かし、「都市伝説になるかもしれない」事業家・アーティスト・科学者を紹介する本連載。

 その第7回は、太陽電池や超音波の若き研究者であり、超音波技術を駆使した花の保存技術を取り扱う企業「ミスティックフラワー」の代表・田中梨瑚さんです。今回、その技術の見本市として関係者に向けたエキシビションを開催、現場でインタビューをしました。

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石河 「Mystic Flower」は、超音波の作用とその応用の研究から生まれた花の保存技術。花の保存技術にはドライフラワーなどがありますが、従来の方法では難しかった植物(特に花冠や葉)の色や形状を、長期間保存することを可能にしました。そして、この技術を使い、[Mystic Flower (ミスティックフラワー)][Wave-E (ウェイビー)][HANASUMI (ハナスミ)][Mystic Flower SP (ミスティックフラワーSP)]の4種類の商品も展開しています。

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「Mystic Flower」。

 創業者の田中さん…というか田中ちゃんは、もともと僕が講師をしている桐蔭横浜大学の学生でした。次世代太陽電池の研究をしながら、なぜか僕の研究室にも来て、趣味のような感覚で超音波の研究を始め、「Mystic Flower」を生み出したんです。

 やっぱり20代で起業するのは大変だと思うんですよ。横で見ていると本当に辛そうな日々もありますが、今までにない挑戦をしていてすごいと思うし、周りの仲間が手厚くサポートしてくれています。最近では事業の展開も色々決まり始めています。会社はこれから軌道に乗っていくんじゃないかなと思ってます。多分。もちろん僕は中身を知っていますが、あらためて話を聞いてみたいと思います。

 というわけでこの技術や商品のお披露目で、関係者の皆様向けに展示会を開催したんですよね。

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ブランドロゴと商品をあしらったインスタレーション

田中 そうですね。「Mystic Flower」とはなんなんだというのを、直接見てもらえたらと思って、まずはお知り合いの方にお声がけしてお集まりいただきました。

石河 たしかに一般の人に、植物に超音波を当てて、プリザーブドフラワーでもない状態で長期保存が可能…といわれても「何言ってるんだ?」と思われてしまうこともあります。言葉にして伝えるのが難しいところがあるので、展示して見せるとわかりやすいですよね。

田中 花を炭化させた[HANASUMI]以外の商品はパッと見だけだとわかりづらいので、[Mystic Flower]と[Wave-E]ではどう違うのかがわかるように、色を一緒にして比較できるようにした。また、根っこまでMystic Flower化した[Mystic Flower SP]は、その根っこもうまく見せられるように、強調して展示しています。

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標本のような展示。

新開発の花材をフラワーアートで表現する

石河 たしかに単なる商品展示だけではなく、アーティスティックに造られていますよね。

 田中ちゃんは科学者だけど、アート的なアプローチも取り入れているのは何か理由があるんですか? もともとアートも好きだったとか?

田中 なんだろう…もともとは全然、アート好きとかではなくて。私、高校生の時とかも美術の成績なんてもう、ひどくて…美的センスには自信がなくて。だから最初からアート感覚があったというよりも、研究を通じていつも植物に触れているうちに、その結果を綺麗に見せたいと思うようになり、自然にこういう世界を作っていった感じです。

石河 フラワーアーティストの人たちにも喜ばれそう。商品としてはどんなものなんですか?

田中 [Mystic Flower]は標本アートっていうイメージです。[Wave-E]は[Mystic Flower]より低コストで製作できるお花です。お花のレッスンなどで花材として、多くの人に気軽に使ってもらえるよう、製造方法を簡略化するなど技術改良をしました。

 またもうひとつのポイントとして、ロスフラワーといってまだ美しい状態なのに検品基準を満たさず規格外になったり、サイズが大きすぎたり、店頭で売れ残ったりして廃棄されてしまうようなお花にも対応できるようになっています。

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盆栽的な世界観は海外で受けそう。

石河 エシカルとか、SDGs的な文脈にも対応してる商品なんですね。

田中 [Mystic Flower]だと、ロスフラワーの状態がそのまま保存されてしまうんですよ。例えば規格外とか売れ残り商品で、茶色く変色していたりすると、そこがそのまま残ってしまうんです。[Wave-E]は花びらの表面が波打った感じになるので、そういう傷が隠れて綺麗に残せるんですね。

石河 今回の展示で[Mystic Flower]の世界観がよく伝わりました。今後も色んなところで展示が増えていきそうですね。また改めてゆっくり話を聞かせてください。

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■田中梨瑚
株式会社ミスティックフラワーの創設者、代表取締役。2025年、桐蔭横浜大学大学院 工学研究科 修士課程修了。在学中に超音波工学を石河ラボにて学び、研究を続け、特許申請中の新技術によりミスティックフラワーを開発。2024年、「第39回 神奈川工業技術開発大賞 未来創出賞 受賞」。

石河睦生

1976年1月、山梨県生まれ。博士(工学)。桐蔭横浜大学講師。自由を勘違いしていた19歳の時、祖父が亡くなる前に私に言った。「睦生、人生は短い、やりたいことをやれ」と。そうかと心に決めて、憧れていたサイエンスの世界へ飛び込もうとしたけれど、義務教育と特に中等教育で遊び過ぎてしまった時間は、それを取り返すのに相当の時間がかかった。いや、いまだに影響は残っている。しかし、遊びにより人間関係の構築や“さまざまなこと”を企画するのことは出来るようになっていたため、まさに都市伝説の本流、フリーメイソンのグランドマスターや、有名作家、経営者、富豪たちまで幅広い方々との交流を楽しめてきた。それと同時に超音波の理解と活用というライフワークテーマを基に、世に喜んで頂けるであろう新しい“こと”作りとその提案も終盤に差し掛かるところまで来た。なんだか色々なことが共鳴していて、今は残響の中にいる。

石河睦生
最終更新:2025/04/17 19:14