ニューヨークの高齢者にのしかかる生活苦 5人に1人が貧困ライン以下

ニューヨーク市の高齢者が貧困にあえいでいる。高齢者の約5人に1人が貧困ライン以下で暮らしているとされ、退職後の貯蓄もなく働き続けている。特にアジア系、ヒスパニック系の貧困は深刻で、白人層との格差は広がるばかりだ。米国生まれではない移民の高齢者の生活はさらに厳しく、自由と夢を信じて米国に渡ってきたものの、人生の終盤で安らぎさえ得られない移民の実態が浮き彫りになった。
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貧困高齢者、10年で40.9%も上昇
社会的不平等の解消に取り組む非営利団体のシンクタンク「都市未来センター(CUF)」が「全米退職者協会(AARP)」の支援で実施した調査によると、ニューヨーク市内に住む65歳以上の高齢者のうち18.4%にあたる25万901人が貧困ライン以下での生活を強いられている。公共機関が公表している最新の2023年のデータをもとに弾き出し、今月公表した。その10年前の2013年のデータによる調査では貧困高齢者は17万8067人で、40.9%の大幅な増加となった。
AARPが定めた基準では、2023年の貧困ラインは単身世帯で年収1万4580(約210万円)、2人世帯で年収2万1150ドル(約305万円)だ。
2013年のころの米国は景気が順調に推移し、社会が比較的安定していた時代だった。その後、新型コロナウイルスの感染拡大による社会活動の停止や、トランプ政権誕生による社会の混乱、コロナ後のサプライチェーンへのダメージ、ロシアのウクライナ侵攻、インフレによる物価高騰など世界は激変し、ニューヨーク市の経済・社会情勢も大きく変化した。
社会情勢の悪化は真っ先に弱い人々に影響を及ぼす。ニューヨーク市の高齢者の生活は恐ろしいほどのスピードで悪化の一途をたどった。
ヒスパニック、アジア系を直撃 「白人優位」くっきりと
高齢者の中でも特に移民層が荒波を受けた。人種別での高齢者の貧困率はヒスパニック系が最も多く27.2%、次いでアジア系が24.7%、黒人が18.2%となっている。これに対し白人の高齢者の貧困率は12.9%にとどまり、白人の経済的優位性が高齢者の貧困率にも表れた結果となった。
移民高齢者の貧困率は21.7%となり、米国生まれの14.9%を大きく上回っている。人種別のこの10年の増加率はアジア系が最も高く82%にのぼっている。またヒスパニック系は42.1%を記録している。これに対し、白人高齢者の貧困率は5.1%減少しており、人種的格差が鮮明となった。
貧困レベル以下の高齢者が一気に増えた背景には、加速するニューヨーク市の高齢化がある。CUFによると65歳以上の人口は135万人(ニューヨーク州会計監査事務所のまとめでは約143万人)を超え、この10年で33.5%も増加した。高齢化率は16.1%(同17.3%)にのぼっている。
高齢化率が24%に迫り、年々、高齢者人口が増加している東京でもこの10年の高齢者人口の増加は約8%だ。ニューヨーク市の高齢者人口の増加は、東京の4倍以上のペースで進んでいることになり、その異常性が際立っている。135万人という数字は米国で9番目の人口を誇るテキサス州ダラスの総人口よりも多い。
また、ニューヨーク市の65歳以上の人口のうち半数を超える51.1%は、米国外で生まれた移民だ。10年前の割合は46.5%で、移民の高齢化がニューヨーク市の高齢化を押し上げている。
地域別でみると、高齢者の貧困率が最も高いのはメジャーリーグのニューヨーク・ヤンキースの本拠地「ヤンキースタジアム」があるブロンクスで、24.9%にのぼった。元々はイタリア系や黒人の多い地域だったが、食品物価や住宅費が比較的安いためヒスパニック系住民が多くなった。
居住者の人種が最も多様化しているとされるクイーンズでは、貧困状態に置かれている高齢者の数は、10年前に比べて48.8%も増加した。
年とっても働くしかない 経済的安定に手届かず
高齢者の収入については70歳台以上の約60%が退職後に収入がない状態だという。ブロンクスでは63.6%が退職後の所得を税務署に報告していないという。
一方で、働く高齢者は増加している。就業高齢者の数は10年前に比べて66.1%も増加した。同じ時期の65歳未満の就業人口は6.4%の増加で、高齢者の就業人口の伸びも驚異的数字である。特にアジア系の高齢者の就業数は114.9%も増加している。
より長く健康的な生活を送るようになったため、退職後も働くことを選択する高齢者が増えていることは確かだが、CUFは「高騰する物価と不十分な退職後の貯蓄に迫られるように働いているとみられる」と分析している。
別の非営利団体「ロビンフット」とコロンビア大学が今年2月に発表した全世代を通じたニューヨーク市の貧困率は25%となった。多くのニューヨーク市民にとって経済的安定は手の届かないものとなっている。
(文=言問通)