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教育ジャーナリスト・後藤健夫の「Fランクから消滅大学になる日」教育ビジネス論#18

国を挙げた「半導体人材」確保、進学でもジェンダーギャップ解消に期待

[入稿済み]国を上げた「半導体人材」確保に期待の反面…女子の理系進学を阻む怪しい情報の画像1
イメージ(画像:Getty Imagesより)

 前回紹介したNewEducationExpo2025 で、地方の問題をテーマにパネルディスカッションをした。このセッションを主催した国立高等専門学校機構(高専機構)の谷口功理事長が「九州は変わる! 見ていてください」と、ひと言残して会場をあとにしたことが強く印象に残っている。

ロボットじゃない人間を育てる

 谷口理事長は、熊本大学の第12代学長を経て高専機構の理事長に就任した。


 熊本は、いまやTSMC の工場進出により、日本の半導体産業の新たな成長拠点へと急成長している。地域が大きく活性化しているのだ。TSMC の進出にともなって、関連企業が集積して半導体サプライチェーンを形成し、「世界一渋滞が激しい地域」と言われるほどだ。もちろん住環境や商業施設を含めて大きく地域が変わった。 半導体はスマートフォンをはじめとする電子機器はもちろん、医療や鉄道など多くの社会基盤で活用されており、生成AI が浸透することにともない、ますます高度な半導体の需要が強まる。


 ただこうした半導体を開発したり社会実装をしたりする「半導体産業人材」は世界的に不足している。とりわけ日本の人材不足は深刻だ。 高専機構では半導体産業人材の養成に取り組むべく、2024年度の補正予算による半導体分野の教育権基盤強化の資金を獲得した。熊本高専、佐世保高専を拠点校に、企業や自治体との連携を図るとともに、九州一帯の高専との連携を強める。目指すは「シリコンアイランド・九州」だ。


 これが、谷口理事長が言った「九州は変わる」の裏付けだ。こうして、高専が地域活性化のハブになる動きは大いに歓迎したい。

 政府は24年度の補正予算、25年度予算で、半導体人材養成に大きく踏み込んだ。24年度補正に約10億円、25年に約6億円が計上されたが、今後、継続して選定された大学、高専を支援していくことになる。半導体工場が進出した熊本、広島、北海道をはじめ、大学での半導体開発、人材養成、連携を推進している。


 東京大学もTSMC と連携してラボを設立した。先端半導体技術の研究開発、革新的なソリューションの創出、次世代人材の育成を目指す。この半導体開発の先には、NVIDIAなどによるスーパーコンピュータの開発があり、AIの開発、利用には欠かせないものだ。


 東京工科大学では、日本の私立大学で初めてNVIDIAのインフラとソフトウエアを活用してAI スーパーコンピュータを構築し、「AI 大学」構想を加速させる。東京工科大学では2019年にコンピュータサイエンス学部に人工知能専攻を開設した。日本の大学の中では先行してAI の開発、活用、人材養成に取り組んでいるが、今後、その動きがさらに活性化されるだろう。

 こうした流れの中で、高校生はどうなっているのだろうか。 以前(第9回)にも述べてきたように、いくつかの女子校で理系進学が増加傾向にある。

 メルカリの創業者である山田進太郎氏が設立した「山田進太郎D&I 財団」ではこうした女子の理系進学を後押しする。この財団は、D&I(ダイバーシティ& インクルージョン)、 つまり、ジェンダー、年齢、人種、宗教などに関わらず、誰もが自身の能力を最大限に発揮できる社会の実現に寄与することを目的とする。なかでもSTEM(理系分野)でのジェンダーギャップの解消を目指しており、奨学金を設けたりオフィスツアーや先輩女性との交流会を催したりして、女子生徒の理系進学を後押ししている。

 先日も山田進太郎D&I 財団と東京都が連携して開催する女子中高生のSTEM系のオフィスツアーについての記者発表会があった。

「Girls Meet STEM in TOKYO~女子中高生向けオフィスツアー~第1弾参加者募集!」(2025年5月21日東京都生活文化局発表/https://www.seikatubunka.metro.tokyo.lg.jp/danjo/jokatsu/25summer-office)


 品川女子学院中学高校の生徒たちがデモンストレーションに参加しており、旧知の漆紫穂子理事長も参加していたので「理系は増えているか?」と聞いたら「ぐんぐん増えている」とのことだ。

 私は20数年前に品川女子学院の進路指導のスーパーバイザーをしていたが、その頃の課題は、国公立大への進学を増やすことであり、理系の強化だった。

 参加していた高3生に話を聞いたら「昔は物理の受講者が3人だったと聞いてびっくりした」と言う。まさにそうだった。いまや高2生は理系志望者が文系よりも多い。「来年度の高2生はさらに増えそうだ」と生徒たちは言う。

 ただ、この傾向が共学校にも広がっていれば、大学入試における理工系の「女性枠」は必要なくなるだろう。

 さて、国を挙げて「半導体人材養成」を推進するが、その声は高校生に、そしてその保護者、特に母親に届いているだろうか。

(文=後藤健夫/教育ジャーナリスト)

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後藤 健夫

コラムニスト/教育ジャーナリスト/大学コンサルタント
南山大学を卒業後、学校法人河合塾、早稲田大学、東京工科大学等に勤務。現在、大学の募集戦略支援や高校の大学進学支援、「探究学習」のカリキュラム・教材開発、授業改善等に従事。日本経済新聞に「受験のリアル<大学編>」を連載するなど、コラムや記事を執筆。

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後藤 健夫
最終更新:2025/06/17 14:52