ハリウッド、「映画の都」の地位が危うくなっている⁉

映画産業で知られる米カリフォルニア州のハリウッドが存亡の危機を迎えている。製作コストの上昇や高い撮影手数料、税金をきらってロサンゼルスでの映画製作が激減しているからだ。ロサンゼルスが舞台の映画をオーストラリアで撮影したり、米国で放送するクイズ番組をアイルランドで収録するなどハリウッド離れが加速している。「次のハリウッド」を狙う世界の都市との競争も激しくなっており、「映画の都」の地位が危うくなっている。
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ストで人件費急増 撮影許可手数料も大きな負担に
映画産業の振興をめざす非営利団体「フィルムLA」の最新データによると、2025年第1四半期のロサンゼルスとその周辺での映画、テレビ番組の撮影日数は前年比で22.4%減少した。減少はここ数年続いており、2024年は2021年より58%も減少している。
ロサンゼルスの映画産業の衰退の要因は多岐にわたっている。人件費や機材の高騰による制作費の増加、高額な許可手数料や税金、他州や海外との競争の激化、頭打ちとなったストリーミング配信、そして地球温暖化によるとみられる山火事の増加などだ。
制作費の増加は、インフレによる物価の高騰で機材や消耗品の価格が上がっていることに加え、2023年に行われた俳優や脚本家らのストライキによる人件費の大幅アップによってもたらされた。
ストライキは全米脚本家組合が148日間、映画俳優組合が118日間にわたって実施した。賃上げについては、俳優組合が、新しい労働協約が有効になった際に7%、2024年に4%、2025年7月に3.5%引き上げることで合意した。出演料が安いエキストラ俳優はこれを上回る引き上げになっている。
組合側はネットフリックスなど動画配信に出演した場合の報酬についても賃上げを要求した。映画やテレビ番組の場合、二次使用のたびに印税が支払われるが、動画配信事業者向けの作品の場合、印税が少ないため「スーパースター」といわれる大物俳優以外は「食べていけない」状態が続いていた。
協議の結果、一定の視聴率など条件を満たせばボーナスが支払われることになった。脚本家についても米国内加入者の20%以上が視聴した場合は、ボーナスが支給されることで合意した。
裏方のスタッフの人件費も上がった。ニューヨーク・タイムズが入手した映画作品の予算書をもとに試算したところ、日本で「大道具」と呼ばれるセットの建て付けや維持、修繕をするスタッフについて、海外では約7人を雇える金額でも、ロサンゼルスではベテランスタッフを1人しか雇用できないという。
行政に支払う撮影許可手数料もロサンゼルスは群を抜いて高い。独立系の経済シンクタンク「ミルケン・インスティテュート」が5月に発表した報告書によると、撮影をめぐる行政へのさまざまな許可申請手数料を合計するとロサンゼルスは極めて高く、同じ条件で計算したニューヨークの約3.5倍、アトランタの約9倍にのぼるという。
安く仕上げるために海外でロケ 「ブダペストなら業界関係者に会える」
コスト削減は映画制作者にとっては至上命題だ。海外での撮影や収録に踏み切った作品も少なくない。
ドウェイン・ジョンソンが主役でカリフォルニア州を巨大地震が襲うという想定のパニック映画『San Andreas (邦題:カリフォルニア・ダウン)』(2015年)は、多くのシーンがオーストラリアのクインズランド州で撮影された。
地球外生命体とのコミュニケーションを描いたSF映画『Arrival (邦題:メッセージ)』(2016年)は米モンタナ州のシーンをカナダのケベック州で撮影されている。
米国のテレビネットワーク、FOXの人気クイズ番組『ザ・フロア』は俳優で映画監督のロブ・ロウが司会を務めるが、シーズン1ではロブ・ロウとクイズ回答者の約100人が大西洋を渡り、アイルランドで番組の収録に臨んだ。
この機会に映画撮影の誘致に力を入れ、大幅な税控除や優遇措置を設け、新しい撮影施設を建設する地域が多くなった。米国内ではケンタッキー州、ノースカロライナ州、テキサス州などが、海外では英国、カナダ、東欧諸国の取り組みが目立つ。
ハンガリーは映画製作者の中で特に人気のロケ地だ。ニューヨーク・タイムズは今年4月19日付けの記事の中で、『Arrival』のプロデューサーの1人、アーロン・ライダーがブダペストで企画探しをしていた際のエピソードを紹介している。
ライダーは高級ホテルのフォーシーズンズホテルで、英国の俳優、マーク・ストロングにばったり出くわし、『トップガン」や『アルマゲドン』などに携わった映画プロデューサー、ジェリー・ブラッカイマーがジムで運動しているところを目撃したという。
「ブダペストのフォーシーズンズのバーに入れば、ロサンゼルスのフォーシーズンズよりも多くの俳優や監督、エージェントと知り合いになれるだろう」とライダーは話している。
「映画の都」の地位が崩壊寸前のカリフォルニア州では、知事のギャビン・ニューサムが映画・テレビドラマ部門の税控除額を3億3000万ドルから7億5000万ドルに引き上げることを議会に提案し、業界の流出引き止めを探っている。
しかし、映画関係者の間では「カリフォルニア州は30年間、この状況を放置してきた。映画業界の流出の流れは止まらない」との見方が強い。
イーロン・マスクが率いるテスラやスペースXは2024年、本社をカリフォルニア州からテキサス州に移転した。カリフォルニア州の税金の高さなどをきらってのことだ。「脱カリフォルニア州」の動きは広い産業に及んでおり、州政府は行政の根本的な見直しを迫られている。
(文=言問通)
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