高校生活と進路調査2024が暴く “適性迷子”高校生と地方大学4倍負担の現実
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前回に続いて、「高校生活と進路に関する調査 2024」(東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所による共同調査)の資料を参考に高校生の進路選択を論じたい。
「人気学部は4年後に後悔する」
今回、取り上げるのは下記のデータだ。
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ここで言う「年内入試」とは「総合型選抜」および「学校推薦型選抜」を、「一般入試」は「一般選抜」を指す。
この調査で特に気になることは「自分の適性(向き・不向き)が分からない」と回答した人がいずれの入試方式でも5割を超えている点だ。しかも「自分の適性」と大学で学ぶ内容が比較的合致していることを求められる年内入試において、学力中下位層(偏差値54以下)では75.2%が自分の適性が「分からない」と回答。一般入試においても、学力中下位層は68.8%、つまり3分の2以上が同様に回答している。
さらに「どういう基準で進路を選択すればよいか分からない」と、入試方式に関わらず、6割を超える人が答えている。「進みたい進路に関する情報が不足している」という回答も、学力中下位層が5割を超えている。
果たして彼らは、何を基準にして大学選びをしているのだろうか。
現在、高校で行われている「キャリア教育」が、これらの結果を見る限り、無力であることを示唆しているとも捉えられるが、本当にそうだろうか? 「総合的な探究の時間」をキャリア教育に結びつけようとする高校もあるが、それが本当に有効なのだろうか?
まず、大きな要因として大学の偏在が挙げられる。「総合的な探究の時間」で、「やりたいこと」「好きなこと」を将来の職業や進路に結びつけようと促されても、それを実現するような大学は「都会」に集中しているのが現状だ。
地方では、幅広い分野を地元の大学に求めることは難しい。自宅から通える大学がない地域は都会に住む人が想像する以上に多く存在し、そこにも多くの高校生が暮らしている。 誰もが、自分のやりたいことを自宅から通える大学で、実現できるわけではないのだ。 ここに生徒の困惑が始まる。
「都会」の大学に通うためにはどのくらいの費用が必要なのか。奨学金はどのくらい借りられるのか、その返済の将来的な負担はどのくらいになるのか。そもそも保護者が「都会」の大学に通うことを許してくれるのか?
仮に、東京に出て、「やりたい」ことを実現しようとした際に、家計の負担は想像以上に大きい。東京で一人暮らしをするとなると、家賃が必要となり、食料品の物価も高い。さらに、都心の大学に通うとなると、家賃は高く、それを回避しようと郊外に住めば、交通費がかかる。この交通費も意外と大きな負担となる。
国立大学の授業料の値上げが話題となる一方で、私立大学はさまざまな理由で学費を上げざるを得ない状況にありながらも、なかなか学費値上げには踏み出せなかった。さすがに耐えきれずじりじりと学費を値上げする大学も少なくない。人文社会科学系でも年間140万円を超える大学もある。こうなると、国立大学の授業料の2倍を大きく上回る。学費に加えて、地方から進学するとなると、家賃や食費など生活費が上乗せされ、地元の国立大学に通うことに比べると、4倍以上の支出になるのではないだろうか。
加えて、地元の自宅から通いやすい国立大学や私立大学があったとしても、総合大学であるとは限らない。志望する学部があるとも限らない。それに定員が大きいわけでもない。 生徒の「やりたい」ことの実現はさらに遠のくのだ。
こうした現実を目の当たりにしたときに、生徒は自分の適性も進路もわからなくなり、自分が「やりたい」ことを実現するための情報は不足してしまうのだ。
これらを「教育格差だ」と叫ぶのは容易だ。この問題の解決に、大学の教育学者は問題を叫ぶばかりである。彼らは本当に無力なのか。
今、高校生は「総合的な探究の時間」で課題解決を学ぶことも少なくない。重要なのは、いかに解決するかであることを高校生は知っている。その解決策を見出すことにこそ価値があるのだ。
このデータや地方の問題、高校生の進路については、次回以降も引き続き考察していく。
(文=後藤健夫/教育ジャーナリスト)