「2024年問題」で運転士はますます稼げない…交通網が大ピンチ! 人手不足でバスの運休・減便が止まらない驚きの理由とは?

都営バスは人手不足により、昨年10月から全126路線のうち19路線・206便を減便することを発表。
近年「人手不足」を理由に減便するバス会社は多く、こうした動きは東京に限らず全国的に広がっている。
その背景には、「給与の低さ」や「休暇が取りにくい」といった労働環境の問題がある。なぜここまでの事態に陥ったのか?
『日本のバス問題 高度成長期の隆盛から経営破綻、再生の時代へ』(中央公論新社)の著者である、交通評論家の佐藤信之氏に話を聞いた。
慢性的な人手不足と「2024年問題」の衝撃
――かつては年収1000万円という時代もあったバスの運転士ですが、なぜ人手不足に陥っているのでしょうか?
佐藤信之(以下、佐藤) まずひとつは、少子高齢化社会の影響です。東京では少子高齢化の実害はあまり出ていませんが、地方では30年ほど前から若者の人口が減少し続けています。すると、バスで通勤や通学をする人も同様に減少します。通勤客や通学客は最低でも毎日2回バスを利用するため、若者や働き盛りの世代が減ると、自然と乗客も減るわけです。これにより、バス会社の経営は徐々に厳しくなっていきました。
――そこからバス業界が立て直されることはなかったのですか?
佐藤 ありません。そもそも、バス会社は国の規制によって守られている立場でした。赤字を出しても国から補助金が出ていたため、「努力しなくてもよい」という風土が業界に根付いてしまったのです。知恵を出して事業を展開しようという気概が感じられない業界になってしまった。さらに、意欲的な新規事業者が参入しようとしても、国が既存のバス事業者を保護するために参入を規制していました。
――国の保護が裏目に出てしまったのですね。
佐藤 しかし、この状況が長く続くのは良くないと判断され、1998年前後に規制緩和が行われました。国は競争原理を導入し、バス業界に「もっと頑張ってもらおう」と期待したのです。その結果、アイデア豊富で優秀な事業者が新たにバス事業に参入するようになりました。
――良い流れが戻ってきたように思えますが……。
佐藤 ところが、新しく参入してきた事業者たちは、儲けることにのみ注目していたのです。つまり、既存のバス事業者が利益を上げていたサービス領域、例えば都市間高速バスやスキーツアーバスなどに目をつけて参入しました。その結果、既存事業者の利益は奪われ、業界全体の体力が失われる結果となったのです。
――まるで、サービスを“横取り”されたような形ですね。
佐藤 体力のない業界には、当然ながら若い人材も集まりません。そこで、「人を増やせないなら、今いる社員に多く働いてもらおう」と考え、手当で収入を補う体制になりました。実は、バス運転士の給与の多くは超過勤務手当で成り立っているのです。
――それは持続可能とは言いがたいですね……。
佐藤 企業情報サイト「ライトハウス」によると、バス専業のドライバーの年収は、北海道中央バスが422万円、宮城交通が346万円、三重交通が390万円、両備ホールディングスが342万円、南国交通(高知県)が318万円となっており、全体としてはおおよそ318万〜422万円の水準にとどまっています。
――バス運転士は「大型二種免許」が必要な専門職であるにもかかわらず、かなり低水準ですね。
佐藤 一方、大手私鉄系の子会社では、東急バスが546万円、京成バスが418万円、阪急バスが477万円、南海バスが369万円で、369万〜546万円程度とやや高めの水準です。しかし、東京商工リサーチによれば、上場企業における運輸・情報通信業の年間平均給与は617万円とされています。つまり、バス業界の給与は同業種と比較しても、平均でおよそ70万円ほど低いことになります。
――その金額だと、確かに残業代で補わざるを得ないのも納得です。
佐藤 ところが、2024年4月から施行された「働き方改革関連法」により、物流業界では時間外労働が年間960時間に制限されました。いわゆる「2024年問題」です。この影響で、これまで超過勤務によって生活を成り立たせていたバス運転士が生活維持できず、他業種に流出してしまったのです。特に中小のバス会社ではその傾向が顕著ですが、公営交通や大手事業者においても深刻な問題になっています。
――最近になってバスの減便が急増しているのは、そうした背景があったのですね。
佐藤 さらに深刻なのが運転士の高齢化です。1975〜1985年頃から、運転士の平均年齢は年々上昇を続けてきましたが、近年では「2024年問題」の影響もあり、その傾向に拍車がかかっています。高齢化が進んだ結果として、例えば「降車した乗客をはねてしまう」「ドアに乗客が引っかかり怪我をする」といった事故も報告されています。
都市構造の変化「自家用車依存型社会」のツケ

――2020年代の新型コロナウイルスによる世界的な感染拡大も、バス業界には大きな打撃だったと思います。しかし、それだけでなく、さまざまな要因が複雑に絡み合い、現在のような深刻な状況を招いてしまったのですね。
佐藤 もし、コロナがなければ、もう少し持ちこたえられたかもしれませんが、いずれにしても時間の問題だったと思います。そして、もうひとつ注目すべきなのは、日本社会が自動車依存型へと大きく舵を切ってしまったことです。
――バスや電車ではなく、「車社会」になったということですね。
佐藤 例えば「GMS(General Merchandise Store/総合スーパー)」と呼ばれる、イトーヨーカドーやイオンといった大型商業施設は、広い敷地を必要とするため、鉄道駅前ではなく、高速道路のインターチェンジ付近など、自動車でのアクセスが便利な郊外に建設されがちです。こうなると、人々は自然と自家用車に頼らざるを得なくなります。
――確かに最近では、役所などの公共施設も郊外に移転するケースが増え、公共交通機関ではアクセスしづらくなっていますね。
佐藤 大型商業施設というのは、ただ物を買う場所というだけでなく、家族全員が楽しめる“エンタメ施設”のような存在にもなっています。そうなると、子ども連れの家族がバスを使うのは現実的ではなく、自家用車への移行が加速する。その結果、街全体が「車がなければ生活できない」構造に変わってしまったのです。
――特に地方では、その傾向が顕著です。
佐藤 しかし、忘れてはならないのが、自家用車を使えない人たちの存在です。免許を持っていない人や、高齢になって免許を返納した人もいます。現在では、自動車の運転に不安を感じる高齢者も増えていますから、彼らにとって公共交通は欠かせないライフラインなんです。
――免許を返納した高齢者が「足を失う」ことになるというわけですからね。
佐藤 道路や大型商業施設はどんどん整備されていく一方で、公共交通は人手不足や採算悪化で次々とサービス縮小・撤退を余儀なくされています。このように、社会全体が“公共交通を前提としない街づくり”をしてしまったことが、バス業界の危機をさらに深刻にしているのです。
――現状をなんとかしようと、国は外国人労働者の活用も検討しています。西鉄(西日本鉄道)ではすでにインドネシアやベトナム出身のドライバーを採用しているそうですね。
佐藤 私が懸念しているのは、言語の壁です。バス車内は騒がしく、マイク越しの案内など、ある程度の語学力が必要です。特に、運賃の支払いでトラブルが起きたときなど、乗客との対応に高度なコミュニケーション能力が求められます。
――ほかにも、自動運転技術にも期待が寄せられています。国土交通省は「5年以内の実現・普及」を掲げているようですが、現実的にどうなのでしょうか?
佐藤 国はかなり前のめりに期待していますが、バス会社側の反応は懐疑的です。自動運転を実現するためには、多額の設備投資が必要となりますが、そのコストを誰が負担するのかが大きな課題です。また、運転士が乗車して自動運転が作動する際に、どんな問題が起こり得るのかを検証する必要がありますし、労働組合との調整も避けては通れません。実用化は、まだ時間がかかるでしょう。
――道のりは険しそうですね……。
佐藤 近年では、大型二種免許の取得費用を自治体が助成する取り組みも一部で行われています。ただ、根本的な人手不足の解決には、やはり手当を増やし、給与水準を引き上げることが不可欠です。待遇改善なしに若い人材は集まりません。バス業界がこの先も持続可能であるためには、早急な対応が求められますね。
(文=桃沢もちこ 取材・編集=サイゾーオンライン編集部)

佐藤信之(さとう・のぶゆき)
1956年、東京都生まれ。交通評論家。亜細亜大学講師、一般社団法人交通環境整備ネットワーク相談役、鉄道インサイトプロジェクト代表。交通・鉄道・バスをめぐる政策や歴史に詳しい。主な著書に『通勤電車のはなし』『鉄道と政治』(ともに中央公論新社)、『日本のローカル線 150年全史』(清談社Publico)、『都バスの90年史』(グランプリ出版)がある。
