利用停止措置できても警察に通報できない──子どもたちが夢中の動画アプリに「違法薬物を見せびらかす」動画が蔓延中

「エトミデート」の乱用が若者の間で広がりつつある。
昨年5月、指定薬物として規制されたエトミデートは、使用や所持、輸入などが原則禁止されている。しかし、警察庁によると、規制開始から9月末までにエトミデートをめぐっては沖縄で10人、大分で3人、三重で2人、福岡で1人が摘発されている。
エトミデートには麻酔や鎮静の作用があり、一部の国では医薬品として承認されている。しかし、適正に使われなければ、幻覚が現れたり、全身にけいれんが起きたりして、死に至ることもある。
すでに香港や台湾などアジア各地で乱用が社会問題となっており、規制当局は症状から「ゾンビたばこ」と名付けて警鐘を鳴らしている。
「見てよ、これマリファナ」と見せびらかす動画
エトミデート蔓延の背景には、その「親しみやすさ」がある。SNS経由で入手できるだけでなく、リキッド(液体)を電子たばこで吸引することができる。電子たばこのリキッドは自ら調合することができるため、エトミデートを混ぜても、周囲は普通の電子たばこだと思い、気づきにくい。
それに、大麻のように独特の匂いがなく、覚せい剤のように痛々しい注射痕も残らない。エトミデートは違法薬物摂取の「入り口」になるおそれがあるのだ。
一部のアプリではエトミデートの広告が表示されているが、他方で、中高生の間で人気の動画投稿アプリには、違法薬物の使用を「見せびらかす」動画が投稿されているという。
問題の動画アプリの「動画審査」を行う企業に勤める男性は、こう語る。
「基本的にはショート動画がメインのアプリですが、ライブ配信機能が搭載されたことに伴い、私たちはその中から、視聴者から通報があった動画をチェックしています。通報される動画のジャンルはとにかく多く、複数のチームで、暴言、ヘイトスピーチ、薬物、偽造品などを確認しています」
生配信で行きすぎた排外主義を主張したり、自殺をほのめかしたりすると、男性たちは配信をBAN(利用停止措置)し、動画を視聴できないようにする。
「そんな中、最近は地方のヤンキーのような若者たちが、自室などで『見てよ、これマリファナ』と見せびらかしたり、屋外で違法薬物と思われるものを摂取するライブ配信を見かけます。実際に大麻の葉を見せびらかすケースもあれば、巻いて吸っている動画もあり、この国の麻薬汚染の深刻さを思い知りました」(同)
大麻はほかの違法薬物と異なり、比較的入手しやすく、若者たちの間では「海外では合法」といった言説が広がっていることが、こうした動画を投稿する背景にあるのだろう。
2024年の大麻事件の摘発者数は6342人で、過去最多だった前年からは減少したものの、依然として高水準であり、さらに摘発者のうち30歳未満が72.5%を占めていた。
「私がチェックしている動画アプリでは、ジョイントやボング(パイプ)で大麻を吸う動画だけでなく、コカインを鼻から吸引(スニッフィング)する動画も散見されます」(同)
コカインは脳内でドーパミン・ノルアドレナリン・セロトニンなどの神経伝達物質の再吸収を阻害し、これらを異常に増加させる作用がある。
大麻と比べても、依存性・致死性・精神障害リスクはケタ違いであり、国際的にもコカインはヘロイン・覚醒剤と同じ“ハードドラッグ”に分類されている。
BANされても「度胸試し」で投稿されつづける
それにもかかわらず、2024年の全国のコカイン関連検挙者数は586人と前年より大幅に増加。過去10年で約7倍に増えている。警視庁の集計では、東京だけで約350人がコカインで検挙され、そのうち20代以下が約230人(全体の約7割)と若年層の割合が高い。
「1日300件ほど動画審査をしていますが、そのうち30本ほどが日本人による薬物関連の動画です。多くは大麻ですが、10本ほどはコカインの動画です。麻薬には隠語があって、例えばコカインは『チャリンコ』と呼ばれます。こうした隠語も運営会社から提供されるマニュアルに載っており、その用語を使えばBANの判断となります。違反の度合いも決まっていて、薬物については現物を見せずに言及するだけならセーフです。ただし、現物が少しでも画面に映ったり、写真などを表示した場合でもアウトになります」(同)
一方で、服のデザインやポスターなどは許容されるという。
「大麻の場合、ボングはアウトですですが、巻かれた状態(ジョイント)で葉が見えず吸っているだけなら、たばこと判断されます。あくまで葉が見えているかどうかが基準です。コカインも白い粉なので、ただ袋に入っているだけでは判断できません。鼻から吸っているかどうかが重要な判断基準になります」(同)
当然、そのような動画を投稿したアカウントはBANされるが、若者たちの間ではそれすら楽しんでいる様子も見受けられる。
「『ヤバいよ! 逮捕されちゃうよ!』と発言しているため、『BANチャレンジ』というか度胸試しですね。アカウントが停止されても、新たにアカウントを作って配信するという、まさにイタチごっこ。しかもフォロワーが一桁の人たちの配信のため、非常に見つけづらいのです」(同)
この男性のように動画を審査する者たちがいるからこそ、事前に「検閲」されているわけだ。しかし、審査する動画数が増え、通報と検閲が追いつかなくなれば、野放しにされる動画も出てくる。そして、それらを子どもたちが視聴する可能性も十分にある。
結果的に、そうした動画が入り口となってゾンビたばこをはじめとした、違法薬物摂取へとつながるおそれもある。
「そして、我々はあくまでも動画を審査するだけであって、警察に通報することなどはありません。そのため、完全に野放しという状態なのです」(同)
違法薬物の使用は刑事罰の対象であり、検挙されれば逮捕・起訴を含む重大な結果を招く可能性がある。興味本位の行動が、自らの将来を大きく損なうことにつながることを忘れてはならない。
(取材・文=千駄木雄大)
