2人にひとりは借りる時代…マイナビ調査で判明 今春卒業予定の大学生の22.0%は「奨学金返済が企業選択に影響」

学ぶために借りたはずの奨学金が、将来の選択肢を狭める原因となっている。理由は、何十年にも及ぶ返済だ。月々の返済は経済的な負担になるだけでなく、精神的にも重くのしかかる。そんな中、福利厚生の一環として、社員が学生時代に借りた奨学金を代わりに返済する企業が増えている。今後の潮流となる奨学金代理返還企業の最前線に迫る。
初任給が20万円以下だと返済が難しい!?
かつて、奨学金は「苦学生のもの」という印象が強かった。しかし、日本学生支援機構(JASSO)が実施した「令和4年度学生生活調査」によれば、大学生のおよそ2人にひとりが、何らかの奨学金を受給、または貸与されている。奨学金はすでに、一部の学生だけの制度ではなく、一般的な進学手段のひとつとなっている。
その一方で、奨学金の平均借入総額は、学生ひとりあたり313万円にのぼる。20代にして数百万円の借金を背負い、社会に出る若者も珍しくない。そしてこうした負債が、その後の人生設計や生活に重くのしかかるケースは少なくない。
こうした状況を背景に、近年は社員が学生時代に借りた奨学金を、企業が「肩代わり返済」する動きが広がっている。
2021年4月に始まった「企業等の奨学金返還支援(代理返還)制度」では、企業が日本学生支援機構に直接返済を行うことが可能となった。導入企業数は、2024年10月時点で2587社だったが、2025年6月末には3721社へと急増している。
しかし一方で、本来は学びを支えるために借りたはずの奨学金が、結果として将来の選択肢を狭めているのではないかという指摘もある。さらに、奨学金返還支援(代理返還)制度についても、「社員を辞めにくくするための“枷”になっているのではないか」との疑問が、SNSを中心に広がりつつある。
奨学金は、若者たちの職業選択を支えているのか。それとも、縛っているのか――。
株式会社マイナビが、2026年卒業予定の全国の大学生・大学院生を対象に実施した「マイナビ 2026年卒 大学生キャリア意向調査6月<奨学金について>」によると、奨学金の返済が企業選択に影響があったという学生は22.0%に上った。
「この“2割”という数字をどう受け止めるかは難しいところですが、奨学金が就職先の選択に影響を与えていることは事実だと思います。『奨学金があるから、より収入の高い企業を選ばざるを得なかった』『やりたいことよりも収入を優先した』など、希望に沿わない就職先を選んだ学生が一部いる可能性は、この数字からも示唆されます」
そう語るのは、同調査を担当したマイナビのキャリアリサーチラボ研究員の中島英里香氏(以下、「」内コメントは中島氏)。
影響があったと回答した学生に、奨学金返済の存在によって重視した企業選択のポイントを尋ねたところ、「初任給の額(69.6%)」がもっとも多く、次いで「福利厚生の充実度(53.5%)」が続いた。
また、奨学金返済支援制度の有無を注目ポイントとして挙げた学生は28.1%にのぼる。およそ3割の学生が、「奨学金代理返還制度」の有無を確認していたことになる。
「ただ、そのように回答した学生が全員、実際にそうした企業を志望したというわけではありません。『エントリーしてみようかな』『インターンシップに参加してみようかな』といったように、何らかの行動に影響があったかどうかという意味合いです。その一方で、自由回答の中には、『奨学金を返済してくれる企業を探してみたが、見つからなかった』『奨学金の返済支援制度がある企業しか受けていない』といった声もありました」
自由回答では、「給与の高さだけを求めていたわけではありませんが、初任給が20万円以下だと、さすがに返済が難しいと感じ、そのような企業は最初から見ていませんでした」といったように、待遇面で一定の基準を設けて企業を選んだという意見も見られた。
親に頼らず奨学金を全額自分で払う学生は66.7%
同調査の回答者はマイナビ2026会員で、アンケート回答者数は1801人。「今春から社会人になる学生」が対象だ。
彼らに奨学金の利用状況について尋ねたところ、奨学金を借りている学生は36.9%だった。その内訳は、貸与型が24.6%、給付型が12.3%で、返済義務のある貸与型が多数を占めている。
「大学生キャリア意向調査は毎年行っていますが、今回のように奨学金をテーマとして掘り下げたのは初めてです。現在の就活生は、将来に対する金銭面の不安が非常に強い傾向にあります。例えば『副業や投資に興味がある』あるいは『やってみたい』と考えている学生は約6割にのぼります。こうした“お金への感度の高さ”を踏まえ、今回は奨学金をテーマに調査を行いました」(同)
奨学金の返済予定について聞くと、「全額を自分で支払う予定」と回答した学生が66.7%と、半数以上を占めた。次いで「一部を支払う予定」が24.3%となり、9割以上の学生が何らかの形で返済を自身で負担する予定であることが示された。
「当初は、学生が一部を負担し、保護者と半々で支払うケースが多いのではないかと予想していました。しかし、結果として“全額支払う覚悟”を持つ学生が多かった点は、非常に大きなポイントです。学生自身の意識の高さとも取れますし、家計の厳しさの表れとも言えるかもしれません。進学率が上昇し、多様な背景を持つ学生が大学に進学するようになったことも影響していると考えられます」
こうした状況を踏まえれば、奨学金を借りた学生たちが、企業選びの際に初任給など金銭面を重視するのは、ある意味で当然とも言える。
「学生にとって、最も直接的な影響があるのはやはり給与面です。本調査とは別に、今年社会人になる学生を対象に実施した調査でも、企業選びの傾向に変化が見られました」
かつては「やりたい仕事ができる会社」を重視する学生が多かったが、コロナ禍や物価高などを経て、近年は「安定している会社」や「給与が高い会社」を志向する学生が増えているという。
「企業選びの際に注目するポイントとして、もっとも多いのは『給与・賞与が高いこと』、次いで『福利厚生の充実』です。その後に『勤務地』など、働き方に関わる要素が続きます。近年は“どの企業も初任給を引き上げる”という報道が多く、それらが学生の意識にも影響していると感じます」
ちなみに、学生が「初任給はいくらぐらい欲しい」と考えているかについての調査結果もある。
「27年卒を対象とした夏の調査では、25万〜26万円という回答が最も多く、一部では『30万円以上欲しい』という声もありました。これも報道の影響も大きいかもしれませんが、ちょうどインターンシップが始まった時期の学生の意識が反映された結果だと考えています」
インターンシップが初任給人気を上げた!
一方で、企業選びにおいて重視される要素そのものにも変化が見られる。近年、企業選択のポイントとして「給与・賞与の高さ」に注目が集まっている。
こうした価値観の変化には、物価高や初任給引き上げの報道だけでなく、就職活動前のキャリア形成活動からの影響もうかがえる。
「企業と学生とのコミュニケーション機会も以前より増えています。現在、就職情報の解禁は3月ですが、学生はそれ以前にインターンシップやキャリア形成活動を通じて、仕事理解をするだけではなく、企業についても深く知ることができるようになっています。学生が早い段階で企業の実情を知ることができるため、仕事内容や社内の雰囲気に過度な不安を抱かなくなっている側面もあるでしょう」
同社が行ったインターンシップ関連の調査によると、就職活動直前の学生のインターンシップ・仕事体験の参加率は8割を超える状態である。
「3月より前に一定の就業体験を積むことで、『自分に合う職業は何か』『どのような会社が合いそうか』といった点が、ある程度見えてきます。その結果、3月の段階では『どの企業を、どのような待遇で受けるか』という判断に移っている学生が多いと感じています」
つまり学生側は、早い段階で「職場の雰囲気」や「働き方」を具体的に把握したうえで、最終的な比較軸として「待遇面」をより強く意識するようになっているようだ。
「初任給の額や福利厚生の充実度といった項目は、奨学金の有無にかかわらず、学生が共通して注目しているポイントです。学生にとって“待遇”とは、単なる数字ではなく、『どれくらい安定した生活ができるのか』『どれだけ生活に余裕を持てるのか』という実感に直結するものです。企業側として、もしそうした点をアピールできる要素があるのであれば、学生にしっかり伝えていくことが重要だと感じています」
いくら希望する職種であっても、奨学金の返済がある以上、現実的な判断を迫られる場面は少なくない。だが一方で、大学に進学したからこそ、これまで想像もしていなかった職種やキャリアに出会える可能性が広がるのも事実だ。
給与などの待遇面を重視することは、決して否定されるべきではない。しかし同時に、20代という限られた時間の中であればこそ、「自分は何をやりたいのか」を模索し、挑戦する余地も、まだ十分に残されているはずだ。
(取材・文=千駄木雄大)
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