発泡酒と第3のビールの値上げで「ストロング系」缶チューハイの勢いが復活!? 2026年秋の酒税一本化と「ビール離れ」

毎日が楽しくない……。いくら仕事に打ち込んでも給料は据え置きだし、何も悪いことをしていないのに、野菜も運賃も高くなっていく。海外旅行に行きたいと思っても、どうせ円安で、現地に行っても惨めな思いをするだけだ。
そうなると、毎日のストレスや生きづらさは、晩酌のビールで胃に流し込むしかない。嫌なことは酔って忘れなければならない。
それなのに、10月から酒税改正で発泡酒や第3のビールが高くなる!?
価格差の縮小によってビールの需要が増える
昨年10月7日、飲料業界大手のアサヒグループホールディングス(以下、アサヒ)がサイバー攻撃を受け、国内での受注・出荷に大きなダメージを受けるなか、キリンビール(以下、キリン)は新ブランドのビール「グッドエール」の発表会を行った。
鮮やかなオレンジ色のブランドカラーで、缶は明るさと上質さをイメージした同商品の350ミリリットル缶の店頭想定価格は、同社の既存ブランドよりも17円ほど高い。これは、今年10月の酒税改正により、ビール、発泡酒、第3のビールの税率が一本化されることを見据えた戦略である。
2020年からビールは段階的に減税されてきたが、発泡酒や第3のビールは増税されており、今年10月からは、ビール、発泡酒、第3のビールの税率がすべて350ミリリットルあたり54.25円に統一される。
この価格差の縮小により、今後はビールの需要が増えると見込まれており、各社はそれぞれの戦略を打ち出している。キリンはグッドエールを「一番搾り生ビール」と「晴れ風」に次ぐ第3の柱として育てたいと考えており、アサヒは昨年4月、スタンダードビールとしては7年ぶりとなる新ブランド「ザ・ビタリスト」を発売している。
さらに、サントリーは今年の10月以降、主力ブランド「金麦」の麦芽使用比率を高め、「第3のビール」から「ビール」へと格上げして販売する方針を、昨年9月に発表している。
ビールをあまり飲まない人には分かりづらいかもしれないが、「第3のビール」とは、ビールや発泡酒とは異なる原料や製法で作られた、ビール風味の発泡性アルコール飲料である。つまり、ビールではない。
「ビールが売れていない」から酒税法改正?
昨年4月、アサヒやサントリーなど酒造各社が、お酒を5〜12%程度値上げした。アサヒのスーパードライの350ミリリットル缶は、昨年3月末までは税込225円程度で販売されていたが、昨年4月からは240円程度に値上がりしている。
値上げの対象品目は、ビール類・輸入洋酒・輸入ワイン・国産ワイン・ノンアルコール飲料など多岐にわたる。酒造各社が値上げに踏み切った主な理由は、梱包資材などの原材料価格や物流費の上昇によるコスト増と見られている。
「物価高なら仕方がない……」と自分を納得させられるかもしれないが、前述のように10月には酒税改正が控えている。
酒税とは、「酒類の製造者」および「酒類を外国から輸入した者」に対して課される国税である。製造場からの出荷時や外国からの輸入時に、お酒の種類・原材料・アルコール度数に応じて税率が計算され、価格に上乗せされる。製造者や輸入者が国に納税する仕組みだ。
2018年の酒税法改正により、2023年10月の改正時点で、350ミリリットルあたりの税額がビール63.35円、発泡酒46.99円、第3のビール37.8円となっていたが、2026年にはこれらが54.25円に統一される。
さらに、缶チューハイや低アルコール飲料なども、2023年10月時点では350ミリリットルあたり28円だったが、35円に引き上げられる見込みである。
「誰の許可を得て勝手に税金を上げているんだ!」と言いたくなるが、財務省は今回の酒税改正について次のように説明している。
「類似する酒類間の税率格差が商品開発や販売数量に影響を与えている状況を改め、酒類間の税負担の公平性を回復する等の観点から、税収中立の下、実施」
――財務省「酒税改正(平成29年度改正)について」より
なるほど。よく分からない。しかし、そこには「ビールが売れていない」という背景がある。
2020年から始まった酒税改正(ややこしいが、2018年は法律が変わっただけ)によって、もともと高かったビールの税率は引き下げられ、その代わりに発泡酒や第3のビールの税率が引き上げられることになった。
もはや、若い世代にとっては何のことか分からないかもしれないが、まず、発泡酒や第3のビールは「ビール」ではない。あくまで「ビール風味飲料」である。平たく言えば、発泡酒は麦芽の使用率が5%未満の酒で、第3のビールは麦芽をほとんど使わずに造られる。
なぜそんなややこしい飲み物が登場したのか? これにも酒税が関係している
ちまちまと引き上げられてきたビールの税率
まず、酒税は昔から国税収入の柱のひとつだった。そのうえで、戦後、現在の酒税法が整備されて以降、税率はちまちまと引き上げられてきた。
特に清酒(日本酒)の消費が低迷した平成期以降、ビールに対する増税が繰り返された。というのも、かつてビールは「舶来からの高級酒」とされ、税額が高く設定されていたという背景もある。
ビールにかかる税率が年々上がっていく中、1994年、サントリーは麦芽比率を65%以下に抑え、ビールの定義を下回る「雑酒(発泡酒)」に分類される「ホップス」を発売。「ビールのような味なのに、ビールより安い」という理由で、発泡酒は一気に家計の味方として全国に広がった。
ところが1996年、財務省は麦芽比率が50%を超える発泡酒にビールと同じ税率を課す税制改正を実施。要は、ビールの消費が落ち込んだ分を発泡酒から回収しようとしたのだ。
それに対抗して、ビールメーカー各社は麦芽比率50%未満の発泡酒を相次いで発売。1998年には、キリンが「麒麟淡麗〈生〉」を発売し、記録的な大ヒットに。発泡酒市場は一気に拡大した。
その結果、2003年4月には発泡酒が市場の半分を占め、過去最高を記録。しかし、財務省はすぐに動き、翌5月に酒税法を改正。再び発泡酒の税率が引き上げられた。まさにイタチごっこである。
そこで登場したのが「第3のビール」だ。2004年にサッポロが「ドラフトワン」を全国発売し、「ビールにも発泡酒にも該当しない新しいジャンルのアルコール飲料」として、さらなる低価格を実現。続いて、キリンの「のどごし〈生〉」なども市場に出回り、急速に一般に受け入れられた。
しかし、2006年には財務省が第3のビールに該当する分類に対しても酒税法を改正し、増税を実施。
それから20年以上が経った今でも、税率の調整は細かく続けられ、ついに発泡酒と第3のビールの税率も統一されることとなった。
2017年度税制改正大綱をまとめた自民党税制調査会幹事・竹本直一衆議院議員(当時)は、発泡酒と第3のビールの増税理由について「週刊ポスト」(小学館)の取材に対してこう語っている。
「同じような味のお酒なのに税金や価格が大きく違うのは税制的に不適切との声が以前からあり、この不公正を是正するという目的がまず1点。加えて、日本のビールは割高だとの世論も根強く、価格の押し上げ要因となっているビールにかかる税額を改める必要があると考えたためです」(「週刊ポスト」/2016年12月9日号)
なるほど。よく分からない。
“家飲み”の主役はサワー・チューハイ
ビールの増税から始まり、その煽りを受けて誕生した発泡酒や第3のビールも増税された結果、2026年にはすべて同じ価格帯となる。
「発泡酒や第3のビールのような“偽物”よりも、本物のビールが売れるならいいのでは?」と思うかもしれない。しかし、ビール、発泡酒、第3のビールに対する度重なる増税の結果、「若者のアルコール・ビール離れ」が進行している。
調査会社インテージによると、2013年から2023年の10年間で、自宅内・自宅外(お店)ともに、お酒を飲まない人が増加している。
自宅内の非飲酒率に注目すると、全体(20〜60代)では31.6%の人が「自宅では飲まない」と回答しており、これは10年間で7.7ポイントの増加となった。また、20代に限ると7.1ポイント増加し、2023年には35.2%の人が「自宅でお酒を飲んでいない」と答えている。
そんな中でも飲酒している20代が、普段自宅で何を飲んでいるのか? 2023年の調査結果によると、67.4%の人が「サワー・チューハイ」と回答し、1位となった。実は2013年の時点ですでに1位だったが、当時は2位の「ビール・発泡酒・第3のビール」との差がわずか0.3ポイントと接戦だった。
ところが、2023年には、2位のビールとの差が25.6ポイントと大きく開き、10年で20代の“家飲み”の主役は、完全にサワー・チューハイへと移行した。
一体、何が起きたのか? そう、「-196℃ ストロングゼロ(以下、ストロングゼロ)」をはじめとする“ストロング系”缶チューハイの台頭である。
同じくインテージの調査によると、缶チューハイの市場規模は年々拡大しており、2023年には5333億円に達した。2013年は2672億円だったため、10年間でほぼ倍増している。
度数別に見ると、アルコール度数8〜9%の“ストロング系(高アル)”の市場規模は、2013年から2018年の5年間で2倍以上となる1650億円に拡大。2023年には、度数8%以上の製品がチューハイ市場全体の約25%を占めるまでになっており、2017年には40%近くを占めていたことも見逃せない。
実は、第3のビールが登場した時期と前後して、それまで主に焼酎メーカーが手がけていたチューハイ市場に、ビールメーカーが相次いで参入してきた。そこからコロナ禍にストロング系が猛威を振るうまで、若者たちは安く酔えるチューハイへと一気に流れていったのだ。
その一方で、ストロング系は度数の高さから「危険ドラッグ」扱いされるなど、社会問題としてメディアで取り上げられるようになり、2024年に入ってからメーカー各社はストロング系製品の取り扱いを縮小。「ストロングゼロ」は「-196(イチキューロク)」へと名称変更された。
つまり、酒税法が改悪され続けた結果として、ストロング系という“飲酒文化の悪夢”が誕生したと考えている。
日本には、世界に誇れる美味しいビールを作る技術があるにもかかわらず、酒税法改正と度重なる増税によってビールおよび発泡酒と第3のビールに過度な負担がかかり、メーカーは苦しんでいる。その結果、コストカットが最優先課題となり、ビール類より安く作れるストロング系に舵を切らざるを得なかったのだろう。
今年10月以降、発泡酒や第3のビールと比べて、ビールの「税率は」安くなるかもしれない。しかし、すでにチューハイに流れてしまった人々を、果たしてビールに呼び戻すことができるのだろうか……。ビールメーカーの次なる戦略に注目したい。
(取材・文=千駄木雄大)
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