パリでは住民投票で“追放” 「街の嫌われ者」はLuupだけじゃない! 世界で広がる電動キックボード規制

「電動キックボード」と聞いて、日本でまず思い浮かぶのは「危険運転」といったネガティブなイメージではないだろうか? 実際、歩道を猛スピードで走る姿や、交通ルールを無視した利用がSNSでたびたび炎上している。
しかし、この問題は日本だけの話ではない。海外でもトラブルは相次ぎ、住民投票でサービスが追い出された都市や、国レベルで利用そのものが認められていないケースもある。
その一方で、日本は世界とはまったく逆の方向へと舵を切っているようで……。
取り締まり件数は1年間で2万5000件
近年、街中で電動キックボードに乗っている人を多く見かける。それも若者だけでなく、中年の男性が乗っていることもある。
シェアサイクルはいくつかの企業が覇権争いを続けているが、電動キックボードに関しては、シェアサービス「Luup(ループ)」を運営するLuupが圧倒的だ。
Luupは2018年に設立されたスタートアップ企業で、日本での電動キックボードの普及をけん引してきた。災害や交通トラブル時の移動手段として注目される一方、利用者の増加に伴い交通違反も目立つようになってきた。
2023年7月に改正された道路交通法では、一定の条件を満たせば免許なしで乗れるようになったが、その後の1年間(2023年7月〜2024年6月)で、電動キックボードに関する取り締まり件数は2万5000件を超えた。中でも、スピードを出したまま歩道を走ったり、信号を無視したりするケースが多い。
警察庁の発表では、2024年1月から6月までの半年間に「特定小型原動機付自転車」による人身事故は134件発生し、そのうち23件(約17%)は飲酒運転が原因だった。これは、一般の原付(0.6%)や自転車(0.8%)に比べてかなり高い割合である。
こうした状況を受けて、Luupは2023年1月から交通違反を点数で管理する「交通違反点数制度」を導入した。違反の点数化は、ユーザーの申告や重大な違反、警察による取り締まり時に同意が得られた場合に限られており、制度の実効性にはまだ課題が残る。
そこでLuupは、2025年10月9日までに安全対策を強化すると発表。これまではユーザーの同意がある場合のみ警察から交通違反の情報を受け取っていたが、11月7日以降は、あらかじめ同意していないユーザーはサービスを利用できなくなる。
Luupが設置しているポートは全国で約1万5200か所、車両数は約3万台にのぼる。事業の拡大に伴い、リスク管理の強化が急務となっている。
それでも、2025年7月からは川崎市、札幌市、那覇市などでも新たにサービスを開始し、Luupが利用可能なエリアは拡大を続けている。市民の移動手段として、着実に定着しつつある。
さらに、4月からは自転車の交通違反にも「青切符」が導入される予定で、これまで注意で済んでいた違反にも反則金が科されるようになる。これによって、Luupの利用者がさらに増える可能性もある。
「Luupのない生活なんて考えられない」
「もう、Luupがないと生活に支障が出ますね」
そう語るのは、東京都三鷹市に住む松原邦明さん(仮名・30歳)。昨年からLuupを使い始め、今では通勤にも使うサブスク会員だ。
「三鷹市には“陸の孤島”と呼ばれる地域が多く、私の住むエリアにも駅は一応あるのですが、どこも徒歩で30分ほどかかります。バスもありますが、混雑がひどく、私は車酔いしやすい体質で……。それで自転車通勤をしていたのですが、坂道が多く、駅に着くころにはへとへと。そんな状態で満員電車に乗ると、気分が悪くなってしまうんです」
そんなある日、近所のマンションの駐車場がLuupのポートになった。
「都内を運転することも多いのですが、東京の狭い道路では、自転車は“障害物”なんです。そしてLuupは“酔った若者が乗っている”という印象が強く、運転中に目の前に現れるとクラクションを鳴らしたくなる存在でした。でもなぜか、あのときは好奇心が勝って、試してみたくなったんです。子どもの頃にキックボードで遊んだ楽しい記憶がよみがえってきて」
アプリをインストールし、キックボードのQRコードを読み取る。免許証の写真とクレジットカード情報を登録すると、ハンドルの先が緑に光り、「ブォン」という起動音が鳴った。
「最初はバランスを取るのが難しかったですが、慣れてくると自転車よりも速く風を切れて、とても爽快でした。時速20キロは体感的にはかなり速いと感じましたね」
それ以来、松原さんはLuupを毎日の足として使っている。自宅周辺には3駅分のポートがあり、完全に生活に組み込まれている。
「自宅周辺は車通りが少なく、道も広くて人も少ない。まるで道路を独り占めしているような感覚で乗れます。体力を消耗せず、料金も片道200円。自転車の駐輪代が1日300円かかっていたことを考えると、Luupを使う理由は明確です。遠出も楽になって、以前は行けなかった場所にも気軽に行けるようになりました。もうLuupのない生活なんて考えられません。悪いイメージがこれ以上広がらないことを願っています」
交通死亡事故のうち約20%が飲酒運転
しかし、Luupのような新しい移動手段が「街の嫌われ者」となっている背景には、一部のマナーの悪い利用者の存在がある。
警察庁によると、令和7年上半期に発生した電動キックボードや電動スクーターによる交通死亡事故のうち、約20%が飲酒運転だったという。これは原付バイクの約30倍、自転車の約22倍にもなる。しかも、運転していた人の約7割が20〜30代だった。
思い出すのは、2006年に福岡で起きた「海の中道大橋飲酒運転事故」。当時、福岡市の職員が運転する車が会社員の車に追突し、車ごと博多湾に転落。乗っていた子ども3人が亡くなった。ぐちゃぐちゃになった車が海から引き上げられる映像を、ミレニアル世代なら今でも覚えている人も多いだろう。
この事故をきっかけに、世の中は飲酒運転の危険性に気づき、翌年には道路交通法が改正されて罰則も厳しくなった。それでもなお、Luupを飲酒して運転する者は後を絶たない。
「電動アシスト自転車はともかく、酒に酔ってキックボードを運転しようとは思いません。転倒のリスクもありますし、時速20キロというスピードは想像以上に危険です。自分がケガをするだけならまだしも、他人を巻き込めば重大事故につながります。私は1年以上Luupを使っていますが、飲酒運転や“ながら運転”、交通量の多い都市部では恐ろしくてとても乗れません。それほどLuupは便利である一方、慎重に使うべき乗り物なのです」(松原さん)
現在のLuupでは、警察に検挙された交通違反があると違反点数が加算され、一定の点数を超えると30日間の利用停止になる。それでも1年以内に再度違反をすると、アカウントは無期限で利用できなくなる。
さらに、飲酒運転やひき逃げ、当て逃げのような重大な違反は、1回でも即アカウントが永久凍結となる。しかし、このまま悪質な運転者を放置すれば、Luupそのものが法規制の対象となり得るだろう。
パリ、マドリード、マルタの規制事情
実際、世界ではすでに規制が強まりつつある。例えば、ヨーロッパで初めてシェアサービスが始まったパリでは、2023年4月に電動キックボードのレンタル継続の是非を問う住民投票が行われ、約90%が「禁止」に賛成した。
その理由は、安全性への不安、無謀な運転、迷惑な駐車といった問題だった。パリでは「Lime(アメリカ)」「Dott(オランダ)」「Tier(ドイツ)」といった複数の会社が市と契約し、1万5000台を展開していた。
「市民の9割が反対なんて、そんなに嫌われていたのか!」と思うかもしれないが、実は投票率は7.5%にすぎなかったという点にも注目すべきだ。また、電動キックボードの利用が増えた背景には、新型コロナの影響もある。パリでは感染防止のため公共交通の利用を控える人が増え、その代替手段としてキックボードが使われるようになったという経緯がある。
そもそも「市と契約していたのか」と驚く人もいるかもしれないが、ヨーロッパではそうした流れが一般的になりつつある。
スペインのマドリード市議会は、2024年10月をもって電動キックボードのレンタルを行っていた3社(パリと同じくLime、Dott、Tier)に営業停止命令を出した。
この3社は、2023年5月に最大2000台という上限付きで営業許可を得ていた。しかし、営業範囲を市内全域に広げる計画や、保険の内容、禁止エリアでの走行・駐車を防ぐ技術が不十分であったこと、事故発生時に市が利用者の情報にアクセスできないことなどが問題視され、結局その許可は取り消された。
一方、同じスペインでもバルセロナでは、歩道をヘルメットなしで走行すると最大500ユーロ(約8万円)の罰金が科される。ただし、電動キックボードそのものは禁止されていない。
国全体で禁止している例もある。マルタでは2023年3月1日から、レンタル電動キックボードの利用が全面禁止となった。人口44万人のマルタに、5000台もの電動キックボードが存在し、歩道や道路、ガレージをふさぐといった問題が頻発していたという。
韓国でも飲酒運転が問題に!?
ちなみに、飲酒運転の問題がほとんど取り上げられていない点も気になる(それどころか、ひったくり犯の逃走に使われるケースもあるらしい……)。しかし、お隣の韓国ではこの問題が大きく注目されている。
韓国では、電動キックボードの数が2020年の7万台から急増し、2023年には29万台がシェアされるまでになった。人気は高まっているものの、韓国道路交通公団(TASS)のデータによると、キックボードや電動アシスト自転車が関与する事故による死亡者数は、2022年に26人、2023年に24人、2024年に23人と、やや減少傾向にあるが、毎年20人以上が命を落としているのが現状だ。
特に目立っているのが、飲酒運転による事故の増加。有名人が起こしたケースもある。2021年には元プロ野球選手の奉重根(ポン・ジュングン)が酒を飲んだ後にキックボードを運転して転倒し、飲酒が発覚。
2024年には、兵役中だったBTSのSUGAが、酒を飲んだ後にキックボードで帰宅中に転倒し、警察に発見され謝罪することになった。この件をきっかけに処罰を厳しくすべきだという世論が一層強まり、道路交通法の改正を求める法案が国会に提出されている。
また、オーストラリアのメルボルン市では、事故の多発と苦情の殺到により電動キックボードのレンタルが禁止されている。
ただし、アメリカのニューヨークやサンフランシスコといった大都市では、規制されていない場合もあり、シンガポールのように歩道での利用は禁止されているが、自転車専用レーンのみ走行可能とするケースもある。
こうして見てみると、日本だけでなく、世界中で電動キックボードは「街の嫌われ者」になりつつある。しかし、今のところ完全に禁止している都市はそれほど多くなく、どの国・地域もその対応に苦慮しているのが実情だ。
ただ、どの国でも共通しているのは、「健康のために自転車の利用者を増やそう」という点である。例えばパリでは、電動キックボードを排除する一方で、自転車専用レーンが大幅に増設され、車道が自転車向けに再編成されるなど、自転車の利用が活発になっている。観光客には、アプリで事前登録して利用できる「Vélib’」といったレンタル自転車が提供されている。
一方で、前述のとおり日本では4月1日から自転車の反則金制度が始まり、さっそく取り締まりが厳しくなっている。まるで、世界の流れに逆行しているかのようだ。
「これからは地面を滑るように歩ける『電動靴』が登場するのではないか」と締めようと思ったが、それもすでにアメリカには存在しているようだ。
(取材・文=千駄木雄大)
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