相続や医療・介護の現場で法的な「家族」ではないため排除される同性愛者の老後問題

超高齢社会となった日本では、「どのくらいの資金が必要なのか」や「誰が自分を介護してくれるのか」といった老後問題が、人々の大きな悩みになっている。
同性婚が法制化されていないこの国では、同性愛者が抱える相続や医療・介護の現場で、悩みはより深刻だ。
同性愛者の老後問題の現状と課題、そして、今、実行可能なアクションについて考える。
「家族」ではないため医療の現場で排除される
「私たちは結婚もできないし、子どももいない。だから、長生きするのが怖い……。この街にいる人たちは、老後についてどう考えているんでしょうね」
そう語るのは、都内有数のゲイタウン・新宿二丁目に通う、60代の同性愛者の男性だ。
年齢を重ねても、この場所に来れば新たな出会いや会話の楽しみがあり、孤独を感じずにいられる。ただ、日常に戻れば現実を突きつけられる。
同性愛者の老後には、異性愛者とは異なる多くの課題が横たわっている。たとえ「パートナー」がいたとしても、その関係が法的に「家族」と認められていないため、相続や医療・介護の現場で不利益を被るケースが少なくない。
「かつて、日本人の結婚率が9割を超え、お見合い結婚が一般的だった時代には、『同性愛者』というアイデンティティは、あくまで“行為”として存在していたにすぎず、社会的に認知された存在ではありませんでした」
そう語るのは、LGBTQ+(性的少数者)と企業をつなぐマッチング事業などを通じて多様性の推進に取り組む、株式会社JobRainbow創業者でCEOの星賢人氏。
当時、同性愛者たちが公にコミュニティを築くのは難しかった。しかし1990年代に入ると、メディアでは「オネエ」や「おかま」といったステレオタイプ的な表現が目立つようになる一方で、ゲイコミュニティは徐々に拡大していった。
「そうした中で、同性愛者やLGBTQ+というアイデンティティが確立され、異性愛者のように『結婚をせずに生きていく』というライフスタイルが可視化されていき、ロールモデルも生まれていったのです」(星氏)
そして現在、当時20〜30代だった人々が、老後を意識する60〜70代にさしかかろうとしている。
「こうした変化とともに、コミュニティ内でも老後に関する課題が顕在化しています。結婚していない当事者の中には、孤立状態に陥る人も出てきている。現在、LGBTQ+の老後をめぐっては、大きく3つの課題があります」(同)
そのひとつが、医療や介護の現場でのあからさまな排除だ。
「高齢になると、医療や介護と密接に関わる場面が増えます。しかし、法的な『家族』でないために、例えばカップルのパートナーが意識不明や認知症になった際、医療同意や手術への署名、入院手続きなどから排除されるケースが少なくありません」(同)
介護施設でカミングアウトできずに亡くなることも
パートナーは患者の病状を知らされなかったり、病室への立ち入りを拒まれたり、最期に立ち会えなかったという体験談は、SNS上でもたびたび見受けられる。
「2つ目の課題は、『二重のクローゼット』と呼ばれる問題です。これは介護施設や老人ホームに入所する際、自身の性的指向を隠さざるを得ない状況を指します。例えば、パートナーのことを“兄弟”や“友人”として紹介するケースは少なくありません。LGBTQ+に理解のある施設は依然として少数派です。福祉業界には比較的理解のある人も多いとはいえ、『高齢男性には女性のパートナーがいるもの』という無意識の前提が、いまだ根強く残っているからです」(同)
特に高齢層では、ほかの入所者からの差別や偏見も残っている。こうした環境では、パートナーを正しく紹介すること自体が難しい。孤独やストレスを抱えたまま、カミングアウトできずに亡くなる例もあるという。
「3つ目は、死後に関わる問題です。日本では同性婚が法的に認められていないため、パートナーは法定相続人になれず、高額な贈与税が課される場合があります。例えば、HIVで亡くなった方のケースでは、実家とは断絶状態だったにもかかわらず、死後に親族が現れて訴訟となり、結果的にパートナーは財産をほとんど相続できなかったという事例もありました」(同)
また、賃貸物件の名義人が亡くなった場合、同居していたパートナーは退去を求められたり、葬儀で家族席に座ることを許されなかったりするなど、身体的・精神的負担も大きい。
「単に大切な人を失うというだけでなく、生活基盤そのものが揺らいでしまうことが、死別に伴って起きているのです。そのため、こうしたリスクを避けるために、そもそも医療や介護の利用をためらう人もいます」(同)
さらに、長年築いてきたコミュニティがあっても、介護が必要になる局面では、その関係性が変化することもある。50代の男性は、こう語る。
「以前、同性愛者が多く働く職場にいたのですが、引退した社長が『顔なじみしか信用できない』と言って、自身の飲食店で働かないかと声をかけてくれたことがありました。きっと、誰かと話したかったのでしょう。店舗の上階が社長の自宅で、話し相手になるだけでなく、食事の用意や掃除など、自然と介護に近い役割も担うようになりました」(50代男性)
この男性と社長は血縁関係のない他人である。そのため、介護に近い行為をしていても、踏み込めない領域があったという。
「いくら友人同士とはいえ、『お風呂に入りたいけれど、その姿は見られたくない』と感じていたかもしれません。排泄や入浴の介助など、一定の距離を越えて接しなければ成り立たない部分もあります。一応、介護ヘルパーさんも来ていましたが、そうした関係性の繊細さも含めて、介護は“人と人との距離”が非常に重要だと実感しました」(同)
同性婚が法制化されていないことが根本的な問題
それでは日本で今、特に不足している点は何だろうか? 前出の星氏は、こう語る。
「ひとつ目は、婚姻の平等です。そもそもこの国では同性婚が法制化されておらず、これが大きな課題となっています。G7の中で、日本だけが同性婚を法的に認めていない国であり、国際社会とのギャップは明らかです」(星氏、以下コメント同)
自治体レベルでは「パートナーシップ制度」が導入されているものの、法的効力は限定的で、事実婚と同等の権利保障には及ばない。
「事実婚であれば、遺族年金が認められるなど一定の法的権利があります。しかし、同性カップルには現在そのような権利が認められていません。今年中には最高裁が同性婚を認めるかどうかの判断を示す予定であり、その動向が注目されています」
2つ目は、「意思決定に関する明確なガイドライン」が国レベルで整備されていない点だ。
「医療機関や介護施設では、自治体のパートナーシップ証明書を提示すれば柔軟に対応してくれるケースもあります。しかし、それは施設ごとの判断に委ねられており、国として統一された基準があるわけではありません。任意後見制度などの法的手段もありますが、同性パートナーが十分に活用できるよう、制度の周知と整備が必要です」
現状では、同性パートナーがどこまで意思決定に関われるのかが曖昧で、医療機関側も「法的家族でない以上、同意書に署名できない」といった対応を取らざるを得ない場面がある。訴訟リスクを考えれば、現場の裁量だけに委ねるのは限界があり、国としての明確な指針が求められている。
「3つ目は、介護環境そのものの課題です。日本は福祉大国と言われますが、LGBTQ+当事者の視点に立った制度整備は遅れています。フランスなどには自治体運営のLGBTQ+フレンドリーな高齢者施設がありますが、日本では訪問介護や老人ホームにおいても、ほとんど見られません」
「養子縁組」という昔から使われてきた最終手段
2023年に放送されたドラマ『きのう何食べた? Season2』(テレビ東京系)の最終回では、家族同然だが、戸籍上は他人のふたりである筧史朗(シロさん、西島秀俊)が矢吹賢二(ケンジ、内野聖陽)に「養子縁組」を提案するシーンが話題となった。
これは、将来的な相続や健康保険の扶養加入などを想定し、ゲイカップルが法的な家族になるための手段として昔から使われてきた。
「日本では、同性婚のように対等な関係で家族になることはできませんが、片方のパートナーを『子ども』として養子に迎えることで、法的に家族としての権利を得るという、いわば“法の抜け道”的な存在しています」
「どちらかのパートナーが相手の養子になる」という形の養子縁組であれば、相続の際に法定相続人にもなれるし、財産も残しやすくなる。
「実際に『もうすぐ亡くなるかもしれない』といった状況で、パートナーを養子にするという選択をされる方も少なくありません。法的な手続きを最後の力を振り絞って行い、パートナーを子どもとして迎え、その後亡くなるというケースはよくあると聞いています。ただし、これは心のハードルも高く、亡くなる直前など、どうしようもない状況でないと選択しにくいというのも現実です。元気なときにパートナーを『子ども』にするという行為には、抵抗を感じる方も多くいます」
ドラマでも「一度養子縁組した者同士はそのあと関係を解消したとしてももう結婚はできないじゃない?」という理由で、結局養子縁組という手段は取られなかった。
このように同性愛者の老後に関しては、課題が山積みの日本だが、それでも少しずつ変わってはきている。
「介護業界・福祉業界でも、実際にケアワーカーや介護士の方々が当事者と接する中で、『どうコミュニケーションを取ればいいのかわからない』といった“現場の課題”がたくさん出てきています。そうした声を受けて、経営層が『きちんと教育しなければ』と考えるようになり、弊社のほうで研修を担当させていただく機会が増えてきています」
医療・介護の現場で働く医者や看護師にも理解を深めてもらうことが重要である。「この介護老人ホームなら、自分のことを話しても大丈夫だ」「この病院・このお医者さんなら、パートナーのことや家族のことを話しても安心だ」と思える環境を整えることで、人は“死の直前まで”自分らしく生きることができる。
「民間レベルでも同性愛者のアインデンティティの重要性を訴えていくこと、研修や制度設計、同意の取り方を見直すことなど、具体的な行動を進めていくことが、非常に大切なアクションだと感じています」
超高齢社会でおじいさんやおばあさんだらけになるのだから、みんなが好きなように最期を過ごせる日本にしていくべきだろう。
(取材・文=千駄木雄大)
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