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「謎の飛行物体」騒動収まらず 「集団パニック」スーパーボウルにも暗雲

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イメージ画像(写真:Getty Imagesより)

 米国を揺るがす「謎の飛行物体」をめぐる騒動が、米国最大のスポーツイベントへの脅威になってきた。米プロフットボールの王者を決めるスーパーボウルは2月に開かれるが、ナショナル・フットボールリーグ(NFL)は米議会に対し、ドローン規制の強化を求めた。NFLの試合は再三、スタジアム上空に違法ドローンが侵入して中断している。ビッグイベントのスーパーボウルはドローンを使ったテロの標的になりかねず、安全な試合の開催を危ぶむ声が強まっている。

国際陰謀説飛び交い世論の不安高まる 78%が「政府は隠している」

 米東部ニュージャージー州を中心にドローンとみられる不審な飛行物体が目撃されている問題は、依然として市民に大きな不安を与えている。昨年12月23日に公表された米CBSの世論調査では、回答者の78%が米政府は不審な飛行物体について情報を隠していると感じている。

 騒ぎは11月18日にニュージャージー州とその周辺でドローンとみられる飛行物体数機が目撃されたことから始まった。民間の目撃者が米連邦捜査局(FBI)に通報した。

 1週間後、トランプ次期大統領が所有するニュージャージー州のベッドミンスターゴルフコースと、米陸軍の兵器開発本部でもあるピカティニー・アーセナル基地の上空で不審な飛行物体が目撃されたことから、米連邦航空局(FAA)はこの2ヵ所でのドローンの飛行を制限した。

 この時点で目撃情報はニュージャージー州のほか、ニューヨーク州、コネチカット州、ペンシルベニア州、マサチューセッツ州、オハイオ州、バージニア州にまで広がった。

 陸軍のエリートを養成するニューヨーク州の名門士官学校「ウエスト・ポイント」近くの軍民共用空港、ニューヨーク・スチュワート国際空港もドローンの飛来によって一時閉鎖された。

 住民の不安に同調するように、政治家や有名人が確証のない話を口にした。不審な飛行物体はイランの艦艇から放たれたドローンだとか、中国のスパイ行為だという説がささやかれた。

 人気ポッドキャスト司会者は放射性物質漏れに関係があると主張し、元州知事は自宅上空の星や光を撮影し「十数機のドローンが飛んでいるように見えた」とSNSにアップした。

 ニュージャージー州とニューヨーク州の上院議員4人は「公衆の安全に悪影響をもたらすことを懸念している」として米国土安全保障省(DHS)やFBIなどに対応を求めた。

「危険はない」繰り返すバイデン政権 FBI「過剰反応だ」

 これに対しDHSとFBIは12月12日、「ドローンの目撃情報が国家の安全保障や公共の安全を脅かすものではなく、また、外国と関係しているとの証拠は得られていない」との共同声明を発表した。その上で、合法的に飛行している有人飛行機などの可能性があると指摘した。

 国防総省も米軍や外国の組織によるものではないと明言し、ホワイトハウスのカービー大統領補佐官は「高度な電子探知を用いても、目撃情報を裏付けることはできなかった」と話した。

 政府は14日にもオンラインで記者会見し「有人飛行機を誤認している」「外国の船がドローンを飛ばしたという証拠はない」などと説明した。

 さらに16日にもカービー補佐官は、目撃された飛行物体は合法的な商用、趣味、警察当局などのドローンや飛行機、ヘリコプター、星を見間違えたものだと説明し、「危険なものではない」と繰り返した。

 米政府の説明では、FAAに登録されたドローンは100万機以上あり、この数週間でFBIに通報があった約5000の目撃情報のうち、確認が必要だったものは約100にすぎなかったという。

 FAAは2023年9月に夜間でもドローンを飛ばせるように規則を変更した。DHSのマヨルカス長官は「夜間に以前よりも多くドローンを目にするようになった理由の1つ」だと説明している。

 FBIの担当者は「過剰反応ではないか」と述べ、困惑の表情を隠さない。

NFL試合中の違法ドローンは6年で240倍

 政府が説明を繰り返す中、トランプ次期大統領は16日、「政府は何が起きているのか把握している。何らかの理由で政府は説明に消極的だ。軍と大統領は知っていることを説明した方がいい」と語った。また、既にドローンの飛行制限がかけられているにもかかわらず、ベッドミンスターゴルフコースに行くことを中止したとも述べ、市民の不安をあおった。

 陰謀論を展開して政敵を攻撃するのはトランプ次期大統領の常とう手段だが、「謎の飛行物体」騒動にもトランプ次期大統領が参入してきた。

 NFLがスーパーボウルの安全開催を懸念するのは、こうした流れを見れば当然のことだ。NFL主催のフットボールの試合中にスタジアム上空を違法なドローンが飛んでいたケースは年々増加し、2023年は2845件にのぼった。2017年はわずか12件。6年で約240倍になった。最悪の場合、ゲームが長時間中断するケースもある。

 米国では、主要スポーツイベントが開かれる際、スタジアム周辺にドローンの飛行制限がかけられるが、NFLはこの制限の強化を議会に求めている。

 2月のスーパーボウルは南部ルイジアナ州ニューオーリンズで開催される。「謎の飛行物体」が確認されている東部ではないにせよ、「集団パニック」のままでは不測の事態が起きかねない。騒げば騒ぐほど「集団パニック」の収束は遅くなるが、NFLとしても騒ぎを静観するわけにはいかないようだ。

(文=言問通)

言問通

フリージャーナリスト。大手新聞社を経て独立。長年の米国駐在経験を活かして、米国や中南米を中心に国内外の政治、経済、社会ネタを幅広く執筆。

最終更新:2025/01/02 20:00