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「純子の部屋」純子の「デジタル時代の生歌サバイバル」

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「純子の部屋」純子近影

 ミュージシャン、アイドル、タレント、役者、声優と、多くの人たちが“歌”で自己表現を追求する日本のエンタメ業界。歌唱からさまざまな活躍やバズが生まれる一方、テクノロジーの進化とトレンド至上主義によってエンタメは飽和状態ともいえる。これからは、演者も運営も制作者も、グローバルな視点を広げ、時代を考察し、鍛錬を積んだ“本物”だけが生き残ることができるだろう。

 指先ひとつで音楽も歌も半自動的に生まれるこのAI時代において、人間が、歌が、声が、世界のエンタメ業界にどのような価値を生み出すことができるのか。そして世界に通ずるエンタメを確立していくために、我々ができることは何なのか。本企画では、声楽家であり歌唱指導者である「純子の部屋」純子が、声楽家としての鋭い観点と知見、愛ある偏見で、日本エンタメの今と未来を過激に考察していく。

 第2回は、東西の垣根を越え、日本のアイドルシーンがより盛り上がるためにできること、すべきことにフォーカスを当てる。日本国内はもちろん、海を越えた世界的活動が求められるこの時代で、アイドルや運営に求められることとは? その真意を純子先生に問う。

最強ママタレは元アイドル!

東ドルは西へ、西ドルは東へ行け

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Kolokol

——前回は、東西アイドルの垣根についてお話いただいたんですが、“日本のアイドルシーンを盛り上げる”という意味では、西と東でアイドルシーンを両立、共存していくことが大切だと思います。そのためにアイドルや運営側ができることって何なのでしょうか。

純子 まず、私は東アイドルは西へもっと行くべきやと思うし、西のアイドルは東へもっと行くべきやと思いますね。

 東京には世界初のアイドルフェスである〈TOKYO IDOL FESTIVAL(TIF)〉があるように、大阪には〈MAWA LOOP〉があって、今や大阪のTIFと言ってもいいと思います。それに以前の記事でも紹介したKolokol主催〈超EDEN〉みたいな関西の強みを活かしたフェスもありました。バックボーンがしっかりしていたり、成長を見られたりするアイドルを起用するイベントなだけあって、東京のアイドルの子たちも「MAWA LOOPに出たかった」って言ってました。 なので、東西のフェスに飛び込んでいけるようにアイドルグループ自身がもっと動くべきやなと思います。

——アイドル自ら東西の垣根を越えていけということですね。ちなみに純子先生から見て、実際に西から東へ行くことで知名度が広がったと思うアイドルっていますか?

純子 Kolokolはまさしくそうで、彼女らは東京に遠征する機会をめっちゃ増やして、関東のイベントから呼ばれるようになったと思います。「こんな世界観のアイドルは今までいなかった」「関西にこんなアイドルがいたなんて!」と人々に気づかれるようになったんでしょうね。プロデューサーの中田祐希さんが「裏でびラジ」というラジオ番組(※アイドルグループ・Devil ANTHEM.によるFM FUJIのラジオ番組「でびラジ」のスピンオフ企画)に出演された時に、「東京に行くべき」と判断して取った行動やと言ってはったんですけど、決断力が大正解だったんだなぁと思いながら当時聞いてました。その時のお話は、指導の方向性の参考にさせてもらいました。

 ただ「Kolokolは大阪を捨て東京へ行った」とも言われてましたけどね。それは東京でのレッスンが増えた今の私でもあるかもしれんけど…(笑)

——大阪あるあるですね。「大阪を捨てた」という表現をされるのは、成功した証拠とも言える気がしますが。

純子 彼女らがいつメンで同じような対バンイベントをしていたら、サマソニ(※KoloKolはSUMMER SONIC 2022に出演)に出るまでに至ってなかったと思います。もちろん東京に行きまくってるから赤字の時もあったと思うけど、結果的には大成功やと思います。それに「このアイドル、良い!」と思ってもらえるファンを東京にも作ることで、大阪にも観に来てくれるようになるっていうのは、KoloKolから勉強させてもらいましたね。

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PRSMIN

——「関西だから追えない」じゃなくて、「追いたくなるアイドルになる」ということが大切だと。

純子 これはレッスンを通していろんなアイドルに思うことであって、東のアイドルに対しても「大阪やったらもっと人が入るやろな」って思うことがあります。指導担当させて頂いてるPRSMINやMerry BAD TUNE.、YOLOZにINUWASIなど東京を拠点とするアイドルグループですが、全通して追いかけるファンがいます。そういった人数を増やしていくためにも、東から西へ、西から東へフットワーク軽く活動すべきやと思います。

 全国全てのライブに参加するファンというのは、それだけ演者からエネルギーをもらっていて、ライブや会話の一つひとつが明日からの生活のモチベーションになってるんですね。全国各地へ行動する、というファンの行動がどれだけ大変なことなのか、出張回数が増えれば増えるほど身をもって知ることができました(笑)。

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INUWASI

大きなステージを目指すなら縄跳びをしろ!

——「追いたくなるアイドル」に必要な要素って何でしょう?純子先生から見て、何か共通項ってありますか?

純子 アイドル側の努力で言えば、歌のチカラをどんな会場でも発揮できるよう、”歌を歌うための筋トレの前段階”として縄跳びをしてもらっています。

——まさかの縄跳びですか!

純子 一見関係なさそうな行動や観察が、練習と紐づいて、歌のチカラを浴びに追いかけてくれるのかなと思っています。

 よく「歌を上に持っていくためにはジャンプをしろ」って言われるんですけど、それだけじゃ足りない。でも縄跳びって、ジャンプするだけじゃなくて、縄を越えないと足が引っかかるじゃないですか。それを続けていくと、ただジャンプするよりもしっかり上に飛ぶ、上に持っていくという意識がつくんですね。するとやっぱり歌が上手くなっていくんですよ。

——なるほど。ちなみに東京、大阪以外にも大きなフェスなど増えていく方が良いと思いますか?

純子 増える分には良いとは思いますし、主催する方々にはフェスに限らずいろんなことにチャレンジしてみてほしいです。回数を増やせば何かしらエビデンスが得られるから。もちろん失敗も多くなると思いますが、成功よりも失敗からの方が学ぶことも多いはずですし、逆に成功したなんて思わん方がいいくらいやと思います。

 私自身が出演する声楽コンクールや演奏会に向けての練習も何千何万と試行錯誤してきました。「これをするとこう見られるのはデメリットやな」「じゃあ、こういう風に変えていこう」と客観的視線でトライアンドエラーを繰り返すうちに、こちら側が失敗に思えたとしてもお客さん視点からは良いイベント、ライブだったと言われる機会が本当に増えました。

——2拠点でなくさまざまな場所でフェスやイベントが増えれば、それぞれの都市を拠点とするアイドルたちも行き来がしやすくなって、新たなファンを獲得する機会にも繋がりそうですね。

 今回は西と東という比較をしてきましたが、その間には名古屋という都市があって、Aichi Sky Expo (愛知県国際展示場)などで行われる〈RAD JAM〉という大きなフェスもありますしね。

 先日、教え子の歌唱伴奏のお仕事でピアノを弾いてきたんですが、独特な空気感でしたね。タクシーの運転手さんとはめちゃくちゃ会話が弾みました(笑)。あと本場のきしめんを初めて食べて、これだけ各地に出張しても、まだまだ知らない世界が沢山あるなあと課題ができたばかりです。そういったところも取り込んでいけるような、イベントや取り組みが増えたら良いですね。

世界と闘う時代!地下アイドル文化を海外へ

——東西を含め、日本のアイドルシーンの活性化させるには、西から東へ、東から西へと、活動範囲を広げていくことが課題になりますかね。

純子 うーん、でも東西とかすっ飛ばして、海外に出て行ったらいいんちゃう?とも思いますね。今YOASOBIが『アイドル』で世界にバズを起こしていて、古くはPUFFYも変な日本語英語やキャッチーな音楽が海外にウケたわけです。それに続けと、Adoもプロデュースしているアイドルグループも含めて、アメリカでのヒットを狙ってるんやろなと想像してます。今の時代、日本だけに限った活動ではなく、海外を視野に入れて活動していかなあかんと思いますね。

——日本基準ではなく、世界基準に考えていくべきだと。

純子 というのも、大手音楽事務所〈WACK〉の元代表の渡辺淳之介さんが過去に「初期BiS解散からこれまでは“失われた10年”だった」とおっしゃっていたのがとても印象的で。“アイドルは可愛いだけでいい”という風潮になり、実力や充実度とは関与せずにCDが売れまくる時代になってしまった結果、日本のアイドルの実力が落ちてしまった。そのうちに、韓国のアイドルは英才教育を受けながら着実に実力を高めていて、完成された状態でデビューを迎えるという手法を身につけた韓国アイドルに到底太刀打ちができない。だから失われた10年をどう取り戻していくべきか、ということを話されてたんですが、まさにその通りやな、と思うんですよ。

 渡辺さんは、今イギリスに留学していて学生をされてるそうなんですが、アイドルを含め、イギリスや世界の音楽シーンをしっかり見て、新たな準備をしてるんちゃうかなって思います。世界と闘っていくこの時代で、日本で活動しているアイドルたちも、まずはアジアへ、そしてアメリカやイギリスへとばんばんと進出していって、海外での地下アイドル文化を発展させていったらいいんちゃうかなと思ってます。

——海外で地下アイドルの文化を発展させるって面白いですね。

純子 日本と海外では音楽において根付いている文化がそもそも違うんですよ。外国の人ってそもそも歌が上手い人が多くて、街中を歩いていると歌声が聞こえてきて「めっちゃ歌上手いやん!」って思ったら水道工事をしているおっちゃんやった、とかよくある話。それに海外のライブハウスって、お酒も自由に飲めるし、アーティストとの距離も近くて、「写真もOK!」ってことがほとんどです。

 そういう環境下に挑んでみて得られることもあるやろうし、日本の地下アイドル文化は海外にとって新しいものとして受け入れられる可能性もあるんじゃないかと。私は27歳から教師、指導者として教えてきましたが、成功するために歌唱が上手いことは大切ですが、ただ上手いだけじゃアカン。自ら人に見てもらえる場所、歌を聴いてもらえる場所に飛び込んでいく実践力が必要不可欠やなと思いますね。

——お話を聞いていると、今当たり前としている地下アイドル文化が、韓国アイドルが席巻する世界的アイドルシーンに今太刀打ちできる重要なキーになりそうです。

純子 歌唱指導を担当しているAxelightというグループがいるんですが、この子たちの楽曲は、韓国のアイドルの子たちにカバーされてたりもします。動画見てもアイドルもファンもこの曲がめっちゃ好きなんやな、という熱意が伝わってきて、こういう発信はメンバー本人らも嬉しいと思います。英才教育が基本の彼女たちには、日本のアイドルの別ベクトルでの英才教育音楽が新鮮で、可愛く感じてるんやと思います。

売れるためには衣装も!運営に求められる資金力

——日本国内にしろ世界にしろ、身近な環境だけでなくどんどん外へ、遠くへ活動を広げていくことが大切とのことですが、お金やスケジュールなど厳しいイドルグループも多そうですね。

純子 そうですね。それに各地を回りやすい環境づくりのためには、やっぱり資金力が欠かせませんからね。今はインバウンドもあって遠征するにもお金がかかるから、運営さんは大変やと思います。ただ、なるべくお金を注ぎ込んで遠征に力を入れてほしいし、あと衣装にもぜひ力を入れてほしいなと。

——衣装ですか!

純子 衣装、めっちゃ大切ですよ。1着3万円のペラペラの生地の衣装を着ている子もいれば、1着20万円、80万円とかかった豪華な衣装を着ている子もいる。その差って、最前からはもちろん、最後部から見ても違いがわかるし、アイドルとしての見え方も全然変わってくると思います。良い衣装であれば、その分特典会でもっと近くで見てみたいと思うファンも増えるはずです。

——確かに衣装に力を入れているアイドルって印象強いし、女性ファンも付くような印象があります。

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Merry_BAD_TUNE

純子 今は解散してしまったCY8ERとかも、衣装とかビジュアルにこだわっていて、女性ファンも多かったですよね。教え子のMerry BAD TUNE.は、シューズが全員groundsなんですよ。すごくないですか?しかも特注やと思うし、それが6人分となると総額30万円は超えてるんちゃうかなと思います。恐らくグループアイドルのレギュラー衣装として起用したのはここが初めてなのではないかと。でも衣装がお金かかっててオシャレだと、やっぱり目を引くし、アイドルとして映えますよ。

——そう考えると、東西の垣根を越えた活動や世界進出も含めて、お金をかけることがアイドルの活動域を広げる一歩になりそうですね。

純子 間違いないです。指導グループのQuubiはかなりの高頻度で上海、台湾でライブを行っていますし、着実にアジア圏での動員を増やしています。グローバルな活動で捻出する資金力も今後は課題となってくるのかなと。

 ライブはもちろん、特典会の売上がグループの運営資金に直結するわけですが、その特典会の売上をアップさせるために“繋がり”の力に頼ってしまうケースも少なくありません。でもそれって健全的ではないですよね。繋がりに頼らない資金力を持つためにも、全国各地を追いかけてくれるファンの母数を増やしていくことが求められるし、そのためにはいろんな場所でライブをすることが欠かせないです。こうした各地を回りやすい環境を作るためにも、運営さんには、最初は赤字覚悟でお金をかけてあげてほしいし、アイドル自身も歌やパフォーマンスを磨いていってほしいですね。

(取材・構成=宮谷行美)

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宮谷行美

音楽メディアにてライター/インタビュアーとしての経験を経た後、現在はフリーランスで執筆活動を行う。坂本龍一『2020S』公式記事の執筆や書籍『シューゲイザー・ディスクガイドrevised edition』への寄稿の他、Real SoundをはじめとしたWebメディアでの執筆、海外アーティストの国内盤CD解説などを担当。

宮谷行美

「純子の部屋」純子

声楽家、教員。大阪音楽大学音楽学部声楽科卒業。
音楽科一種教員免許取得。学生より学外コンクールへ精力的に参加しKOBE国際学生音楽コンクール初入賞。その後中国音楽コンクール銀賞、サンテレビ賞、中国国際音楽コンクール国際部門1位(杭州にて)他多数。安藝榮子、R・ハニーサッカー、中川牧三に師事。主に宗教声楽・現代音楽・オペラからアニメ・ゲーム音楽まで取り扱うジャンルは多彩で、個性的な見た目とは相反する実直で技巧的、的確な表現方式を得意とする。
演奏活動に加え多種多様な後進の歌唱指導にも力を入れアーティスト、タレント、俳優、アイドル、YouTuber、TikToker、2.5次元ミュージカル俳優等の育成輩出、プロモーションに携わる。
ファーストサマーウイカ、おじゃす、矯正ちゃん、Kolokol、Axelight、AVAM、サクヤコノハナ、Quubi、yosugala(汐見まとい)、INUWASI、PRSMIN、Merry BAD TUNE.、YOLOZ、ありぃくん(uijin・作詞家・プロデューサー)、ゆりにゃ(TikToker、YouTuber)等多数指導。
大阪を拠点とし全国へ出張を重ね声楽をベースとした様々なジャンルの歌唱指導へ柔軟に対応しながら個性を伸ばすレッスンを展開している。

X:@matinee_poetic

「純子の部屋」純子
最終更新:2025/02/09 18:00