エンタメで輝くカウボーイ! 既存イメージ打破のシンボル もはや「古い米国」でない

米国のエンターテインメント界ではカウボーイが人気だ。ドラマではモンタナ州の「ランチ(大規模牧場)」を舞台にしたケビン・コスナー主演の『イエローストーン』が大ヒットして2024年末に完結した。前後してテキサス州の石油開発業者の家族を描いた『ランドマン』がスタートして人気を集めている。音楽ではビヨンセがカントリーミュージックの「カウボーイ・カーター」でグラミー賞の最高位である最優秀アルバム賞を受賞した。「古い米国」の代名詞でもあったカウボーイは、今や最もホットな言葉となった。そこには既存イメージを否定するメッセージが込められている。
「現代版西部劇」が異例のヒット 牧場守るドラマに視聴者共感
『イエローストーン』は米国中西部のカナダと国境を接するモンタナ州が舞台。日本語で「牧場」と書くと規模感がまったく伝わらないが、米国で最も小さい州であるロードアイランド州の面積並みの牧場を経営するダットン家が主人公だ。
西部開拓時代に土地を手にしたダットン家だが、先祖の土地を取り戻そうとするネイティブ・アメリカンや都市部の開発業者、どん欲な政治家らと度々対立し、あらゆる手段を使って自らの牧場を守る姿を描いている。
主演はケビン・コスナー。2018年6月に放送が始まり2024年12月のシーズン5まで放送されたが、最高視聴率となった2022年のシーズン4は全米で1200万人以上が視聴した。本編のほかに、ダットン家が米国大陸に渡り開拓時代をどう生き抜いたかを描いた『1883』や大恐慌時代のダットン家の生活をテーマにした『1923』などスピンオフドラマも製作された。
米国のテレビドラマはニューヨークやロサンゼルスなど都市部を舞台にしたものが多いが、面積が広いのに人口は全米50州のうち43番目という、都市住民からすると「超田舎」のモンタナ州で繰り広げられる「現代版西部劇」がヒット作品になるとは、業界内でも当初、だれも思わなかった。
企画の段階で持ち込まれたドラマ専門チャンネルのHBOは申し出を断り、HBOよりも事業規模が小さいパラマウントネットワークでの放送となった。
「優等生」的なハリウッドにくみしない無骨な作品
放送がスタートした2018年は第1次トランプ政権の時代だった。その前のオバマ政権で米国は、リベラルな考えが主流となり、ジェンダーの多様化などが一気に進んだ。同性婚が認められ、トイレを男女で分けない学校や商業施設が続々と誕生した。
こうした流れに白人を中心とした「保守派」といわれる層が反発し、トランプ政権の誕生となったが、テレビ視聴者の間でも、ヨーロッパから渡ってきた開拓者がどうやって米国を作ったのかという根本的な部分に注目が集まり、開拓以来の土地を守る牧場主の昔気質な生き方が共感を呼んだとされている。
映画やテレビドラマの世界はハリウッドの力が圧倒的に強い。ハリウッドは民主党の牙城であり、リベラルで「優等生」的なストーリーが主流である。『イエローストーン』はハリウッドで成功したケビン・コスナーが主演だが、ハリウッドにはくみしない作品で「最大勢力への反抗」でもあった。
ハリウッドの実力者は当初、「イエローストーンは見るな」と周辺に命じたほど、『イエローストーン』の反ハリウッド色は強かった。
ビヨンセ、かき消されそうな黒人の歴史に光をあてる
『イエローストーン』の大ヒットで注目されたのは脚本、監督など製作の総指揮を執ったテイラー・シェリダンだ。俳優だったシェリダンは俳優業に嫌気がさして製作する側になった。母親の実家が「ランチ」で、子どものころ長い時間を「ランチ」で過ごした。その際に体にしみ込んだ生活が「イエローストーン」を生んだ。
メディアにあまり登場しなくなったシェリダンだが、『イエローストーン』は保守の共和党が強い「レッドステート」のためのドラマだ、という指摘に対し、2022年のアトランティック誌のインタビューで「先住民の強制移住や企業の貪欲さ、土地の収奪について描いている。これがレッドステート向けだっていうのか」と笑い飛ばしている。
『イエローストーン』の終了に合わせるように、シェリダンがプロデュースしたドラマ『ランドマン』がスタートした。
テキサス州の「ランチ」の敷地内などで行われる石油採掘が舞台。採掘現場の監督を務める男が凶悪なメキシコのギャングや狡猾な官僚、迷惑な若者、そして法律の壁に直面しながらも「瀕死の状態」で生きてゆく姿を描いている。また、問題の多い家族をまとめるのに苦労する一面も盛り込まれ、「昼メロ」的な要素もある。
2024年11月のリリース以来、快進撃を続け、最初の4週間で『イエローストーン』を上回る1490万人の視聴者を獲得した。
『ランドマン』も時代に反発した内容だ。地球温暖化問題で化石燃料は「過去のもの」となりつつある中で、化石燃料の代表格である石油採掘のために命をかける男の姿を描き、視聴者の共感を得た。
音楽界でのカウボーイは2025年のグラミー賞で最優秀アルバム賞に輝いたビヨンセの「カウボーイ・カーター」だ。黒人女性では初の最優秀カントリーアルバム賞も手にした。カントリーミュージックは、米南部の白人の音楽とのイメージが強いが、ビヨンセはこれを打ち破った。19世紀に西部で活躍したカウボーイの約25%は黒人だったといわれるが、その実態はほとんど知られていない。「カウボーイ・カーター」でビヨンセは、消し去られようとしている黒人の歴史を浮き上がらせた。
米国では今、カウボーイは時代を変える存在になった。
(文=言問通)
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